表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/136

【第41話:岩塩パレスの落成式 —— 51歳、不純な「常連」たちに囲まれる】

「……おい、ポチ。……これ、……夢やないよな? ……俺、……ただの岩穴に住んでたはずや。……なんで、……壁が鏡みたいに磨き上げられて、……足元に『魔導式床暖房』まで入っとるんや……」


工事開始からわずか数日。

ドワーフのガラムが「これぞ職人の魂よ!」と叫びながら槌を置いた時、そこにはもはや「洞窟」と呼ぶには恐れ多い空間が広がっていた。

岩塩を精密に切り出したカウンターは、琥珀色の酒を注げば内側から発光するかのように輝き、奥にはポチが巨大な体を預けても余りある、ふかふかの毛皮(ハンスが道中で狩った魔物の特級品)が敷き詰められている。


「……ガラムさん、……やりすぎや……。……これ、……商社の『接待用迎賓館』より豪華やぞ……」


「……がっはっは! ……田中殿、……つまらんことを言うな! ……これだけの酒を作る男が、……薄汚い穴蔵に住んでいるなど……連邦の酒飲みの名折れじゃわい!!」


ガラムは真っ赤な顔で、完成したばかりの岩塩カウンターを叩いた。

横では、『紅蓮の牙』のリーダー、ドーンが呆然とグラスを握りしめている。


「……レナ、……お前……。……こんな場所を……自分たちだけで独占しようとしていたのか? ……これは……国家機密級の贅沢だぞ……」


「……ふふっ、……だから言ったでしょ、ドーン。……ここに来れば、……任務の疲れなんて……一瞬で溶けてなくなるって」


レナは満足げに、新調された「岩塩ソファー」に深く腰掛けた。

田中は、呆れ果てながらも、51歳の「接待魂」が疼くのを止められなかった。


「……はぁ。……もうええわ。……これだけ立派な『店』を作られたら、……店主(俺)が不貞腐れてるわけにもいかんしな。……ほら、……ドワーフのおっちゃんも、……ドーンさんも! ……今日は『落成祝い』や! ……樽の中身、……全部空ける勢いで飲みなはれ!!」


田中が指先を鳴らし、木樽から溢れんばかりの酒精を注ぐ。

その瞬間、岩塩の壁が酒精の香りを反射し、洞窟全体が「飲むだけで酔う」ような、不純極まりない香気に包まれた。


「……乾杯ーーー!!!」


戦士たちの怒号のような乾杯の声が、魔の森の深淵に響き渡る。

レナたちは、かつてないほどのリラックスした表情で笑い、ドワーフたちは「この壁の削り具合が……」と職人談義に花を咲かせ、ポチは戦士たちが持参した最高級の肉を食んで、機嫌良さそうに尻尾を振っている。


田中は、マントから昇格した藍色の服の袖を捲り、カウンターの中で次々とグラスを満たしていった。


「……ポチ。……俺、……隠居して『一人で静かに』暮らすつもりやったんやけどな。……どうも、……51歳の商社マンの運命は、……どこまでも『接待』から逃げられへんみたいやわ……」


「……でもな、……これだけ喜んでもらえたら、……悪い気はせんな。……不純や。……この隠居生活、……賑やかすぎて……最高に不純やわ……」


宴は、夜が明けるまで続いた。

翌朝、満足げな顔で(そして盛大な二日酔いと共に)帰路に就く『常連客』たちを見送りながら、田中は確信した。


ここはもう、ただの隠居所ではない。

大陸最強の戦士たちが、その牙を休め、ただの「飲み助」に戻るための、世界で唯一の**『魔の森の秘密基地』**なのだと。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ