【第40話:S級工務店、魔の森に現る —— 51歳、不純な「増築工事」に巻き込まれる】
「……おい、ポチ。……なんか、……地響きせんか? ……それも、……一週間前よりずっとデカい。……これ、……商社の『大型プラント建設現場』に大型トラックが次々入ってくる時の、あの胃にくる振動やぞ……」
アイゼンガルドの面々が去って数ヶ月。
藍色の服もすっかり体に馴染み、小鍋での自炊生活を満喫していた田中に、再び「静寂の終わり」を告げる地響きが届いた。
ポチが面倒そうに片目を開け、森の奥を睨みつける。
「……た、田中どぉぉぉーん!! ……約束通り、……仲間と『酒の肴』を持ってきましたよーー!!」
森を割って現れたのは、前回の五人……だけではなかった。
先頭で大きく手を振るレナの背後には、倍以上の人数が控えている。
しかも、そのうち数人は、身長は低いが横幅が岩のように分厚く、立派な髭を蓄えた屈強な男たち――ドワーフの工匠団であった。
「……ちょ、……待て待て待て! ……レナさん、……『遊びに来る』言うたやん! ……なんでそんな、……『トンネル開通工事』みたいな装備の軍団連れてきとるんや!?」
「……ふふっ。……田中殿、……ご挨拶ね。……こちらは私の飲み仲間のS級パーティー『紅蓮の牙』。……そして、……連邦一の石工、ガラム爺さんです」
レナが紹介したドワーフの老人が、背負っていた巨大な槌をドスンと地面に置いた。その衝撃で田中の岩塩ベンチが少し跳ねる。
「……ほほぅ。……これがレナの言っていた『純度100%の岩塩洞窟』か。……こりゃあ、……腕が鳴るわい。……こんな贅沢な素材、……ドワーフの歴史でも滅多に拝めるもんじゃねぇ」
「……ガラムさん、……勝手に測量始めんといて! ……ここ、……俺の隠居所やからな!?」
田中の制止も虚しく、ドワーフたちは慣れた手付きで洞窟の壁を叩き、強度を確かめ始めた。
一方で、『紅蓮の牙』のリーダー、剛腕のドーンは、田中が差し出した(というか、なし崩し的に出さざるを得なかった)樽酒を一口飲んだ瞬間、岩のように固まった。
「……な、……なん……だ、……これは……。……俺たちが今まで飲んできたのは……馬の小便か何かだったのか……?」
「……ほらね、ドーン。……言ったでしょ? ……さあ、……飲んだら働くわよ。……ガラムさんたちの手伝いをして!」
「……おう、……任せろ! ……こんな旨い酒の主を、……雨漏りするような穴蔵に住ませておけるか!!」
そこからは、まさに「S級の暴力」による大改造劇だった。
ドワーフのガラムが「ここはこう削れば、天然の冷気が循環する」と指示を飛ばせば、S級の戦士たちがその怪力で岩塩を精密に切り出していく。
魔導師たちは共同で、洞窟全体の湿度を完璧に管理する恒久的な結界を編み上げていく。
「……あかん、……止まらん。……51歳の商社マン、……現場の熱量に完全に呑まれてもうた……。……ポチ、……これ、……俺の隠居所……どんどん『超高級会員制バー』みたいになってへんか?」
数日の突貫工事(という名の、酒の勢いによる大盤振る舞い)の結果。
ただの岩穴だった場所は、磨き抜かれた岩塩の壁がシャンデリアのように光を反射し、機能的なカウンターと、ポチが寝転べる広大な「床暖房(魔導式)付きスペース」を備えた、**『魔の森の岩塩パレス』**へと変貌を遂げていた。
「……さて、……田中殿。……これでようやく、……ゆっくりと『商談(宴会)』ができる環境が整いましたね」
レナが、新しく完成した重厚な岩塩カウンターに、土産の「最高級の燻製肉」を並べた。
田中は、あまりの快適さに腰を抜かしつつも、自分の指先から出る「不純な酒精」を、新しい仲間たちのグラスに注ぎ始めた。
「……はぁ。……もうええわ。……不純や。……不純すぎて、……逆に清々しいわ……。……ほら、ドワーフのおっちゃんも! ……腰据えて飲みなはれ!!」
魔の森の最深部。
一人の全裸男と一匹の狼の住処は、今や大陸最強の戦士と工匠たちが集う、世界で最も「不純で贅沢な」社交場へと成り上がってしまった。




