第37話【中盤:商社マン、正気に戻る】
「……はぁ、……美味しい。……今まで生きてきた中で、……一番……。……って、……ちょっと待って。……田中さん」
グラスを空け、恍惚の表情を浮かべていたリーダーのレナが、ふと我に返って視線を下げた。
そこには、朝日を浴びて健康的に輝く、田中の「22歳の無敵ボディ」が、一分の隙もなく、文字通り**「全裸」**で立っていた。
「……あの、……田中さん。……貴方、……その……ずっと、……その姿なの?」
「……え? ……あ、……アッ!?!?!?」
田中の顔が、一瞬で茹で上がったタコのように真っ赤になった。
一週間、血塗れの重傷者を前に「一刻を争う納期(命)」を守るために必死すぎて、自分が全裸であることを完全に忘れていたのだ。
「す、……すんまへん! ……いや、これには深い……不純な理由が……いや、理由なんてない! ……ただ、服が川で流されて以来、……作るん忘れてただけなんです!!」
田中は慌てて股間を両手で隠し、カニ歩きで岩陰へと退却した。
一世一代の「かっこいい救世主」の空気が、一瞬で「ただの不審者」のそれに上書きされる。
「……ポチ! ……お前、……なんで言うてくれへんかったんや! ……俺、この一週間、……お嬢さんたちの前で……ずっとこれやったんか!? ……商社マンとして、……いや、人間として終わっとる……!」
ポチは「今更かよ」と言わんばかりに、呆れ果てた顔でふいっと鼻を鳴らした。
「……あ、……あの。……もしよろしければ……」
斥候の少年が、引きつった笑みを浮かべながら、自分の予備の防寒用マントを差し出した。
「……これ、……使ってください。……僕らの命の恩人が、……ずっとその……『剥き出し』なのは、……僕らの精神防壁が持ちませんから……」
「……お、……おおきに。……助かるわ……。……ほんま、……すんまへん」
田中は震える手でマントを受け取り、てるてる坊主のように体に巻きつけた。
22歳の若々しい肉体に、ボロボロのマント。どこからどう見ても「怪しい隠者」にしか見えないが、とりあえず最悪の事態(公然わいせつ)だけは回避された。
だが、レナたちは見た。
マントを羽織る際に見えた、田中の背中に刻まれた「傷一つない、瑞々しい肌」。
一週間にわたり、自分たちの命を繋ぎ止めるために奔走したその男が、実は自分たちより年下に見えるほど若いという事実に、彼女たちは酒の酔いとは別の「熱」を、その胸に宿し始めていた。
「……さて。……とりあえず『格好』はついたかな。……ほら、お兄ちゃんら。……おかわり、……まだありますよ」
てるてる坊主状態の田中が、再び木樽の前に座る。
全裸の救世主から、マント一枚の居酒屋の店主へ。
不純な隠居生活に、ようやく「最低限のモラル」が導入された瞬間であった。




