【第27話:不老のバグ —— 22歳から逃げられない不気味さ】
「……なぁ、ポチ。やっぱり、これ、呪いやわ。……見てみ、さっきの肩の傷。……もう、跡形もなく消えとる。……カサブタすら作らせてくれへんのか、俺の体は」
数時間後。サウナ(自作の蒸し風呂)から上がってきた田中は、自分の肩を鏡(平らに磨いた岩)で見て、戦慄していた。あんなに派手に出血し、骨が軋む音がしたはずなのに、そこにはシミ一つない、22歳のツルツルした肌が再生されていた。
「……髭も伸びへん、シワも増えへん、傷も一瞬で治る。……これ、俺、人間として生きてるんか? ……ただの『再生し続ける肉の塊』になってへんか?」
田中は、自分の頬をつねりながら、深い溜息をついた。51歳の精神にとって、老いや傷は「時間の蓄積」だった。それが一瞬でリセットされるのは、自分の歴史を毎秒消去されているような、奇妙な喪失感があった。
「……これじゃ、もし何十年経って外の世界に戻っても、俺だけずっと『新卒初日のツラ』や。……貫録も、渋みも、部下への威厳も、何も手に入らへん。……不老って、もっとこう、キラキラしたもんやと思ってたけど……。……ただの『固定』やないか、これ。……OSのアップデートに失敗して、ずっと初期設定に戻されるPCみたいなもんや」
田中は、指先の水を「冷水」に切り替え、自分の顔に叩きつけた。冷たさが22歳の鋭敏な感覚を刺激する。
「……あかん、考えても答えは出ぇへん。……老けへんねやったら、せめて、この『22歳の器』の中身だけでも、51歳の精神に相応しい、頑丈なもんに鍛え直すしかない。……よし、ポチ。明日は、あの『肩叩き機』の出力を……いや、水車を小さく作り直すところからやり直しや」
ポチは、主人を止めようと、甘噛みでボロボロの腰布を引っ張った。
「……分かっとる、ポチ。……次は血は見ぃへん。……『安全第一』や。……これは、現場監督として最低限のルールやからな」
不老の肉体というバグを、壊れないからこそ「実験台」にしてしまう田中。彼の「不純な若返り」は、美しさとは程遠い、試行錯誤と少しの流血、そして膨大な「水」に彩られた、あまりにも不器用な日々として積み重なっていく。




