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【第23話:魔の森の領空侵犯 —— 営業妨害は水圧で断つ】

ポチが専務に就任してから一週間。谷底の生活は、51歳の社畜時代には考えられなかったほどの「業務効率化」を遂げていた。ポチが崖の上から獲ってくるお土産は、どれも一級品の魔力を持った希少種ばかり。田中はそれを、自作の「超高圧ウォータージェット・キッチン」で瞬時に解体し、素材の細胞を破壊せずに旨味を引き出す、異次元の調理法で料理に変えていく。


「……しかし、ポチ。お前さんが持ってくるこの鶏肉(実は災厄級の怪鳥『サンダーバード』)、えらい弾力あるなぁ。普通の包丁じゃ刃が欠けるぞ。……よし、今日はウォータージェットの周波数を微調整して、細胞レベルで叩き壊した『超・完熟つくね焼き』やな。これを42度のお湯でゆっくりボイルすれば、歯の弱い50代(精神)にも優しい逸品になるわ」


田中が鼻歌混じりに、指先から放たれる目に見えぬ水流で肉をミンチにしていると、頭上の空が突如として暗転した。見上げれば、翼を広げれば15メートルはあろうかという巨大な『エルダー・ワイバーン』が、谷底の美味そうな匂い——つまり田中の調理中の肉を狙って、猛烈な速度で急降下してきていた。


「……おいおい、今ええとこやねん。火加減と蒸らしのタイミングが一番大事な時間帯に、上から汚い砂埃撒き散らして……! 営業妨害もええ加減にせえよ、この大型の不法投棄が!! 定時上がりの邪魔をすな!!」


田中は、愛用の「水圧加工の木槍」を構えることすらしなかった。彼はただ、人差し指を空に向け、商社マン時代に無理難題を押し付けてきた競合他社を「正論」で論破し、追い払う時の、冷徹極まりない意識を指先に集中させた。


「……食らえ。社畜の怨念、一斉解雇レイオフ!!」


指先から放たれたのは、直径わずか0.1ミリ。しかし、その圧力は数万気圧に達し、速度はマッハを超えた「超高速・連続ウォーターカッター」だった。連射される水の弾丸は、ワイバーンの頑強な龍鱗を紙細工のように貫き、その両翼の付け根を精密に切断した。さらに、落下してくる巨大な質量が自分の「オフィス(シェルター)」を潰さないよう、空中でさらに十数個の肉塊へと解体する。墜落する龍の叫び。本来なら一国の騎士団が数日がかりで討伐する龍族が、田中の「夕食前のちょっとした清掃」のついでに、文字通りの食材へと変貌した。


「……ふぅ。ポチ、悪いけど今のやつは食うなよ。爬虫類系はプリン体多そうやし、俺の痛風(精神的)に障りそうやからな。……それより、このつくねが最高の状態に蒸し上がったぞ。……ほら、専務の取り分や。しっかり食って、明日も市場調査(狩り)頼むで」


ポチは、かつての自分の群れですら勝てなかった最強の捕食者が、田中の指先一つで「事務処理」された光景を見て、改めてこの男の底知れなさを実感していた。リーダー争いに敗れ、絶望の中で死を待つだけだった自分を拾ったのは、神か、あるいはそれ以上の「何か」ではないのか。だが、田中はそんなポチの畏敬の念など露知らず、「あぁ、指先がふやけてきたわ。やっぱり週休三日制を導入せなあかんな」と、いつもの社畜じみた現実的な愚痴をこぼしながら、満足げにつくねを頬張っていた。

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