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【第13話:アリスの夜這い —— 51歳の防衛線】

深夜、静まり返った廊下に忍び寄る影があった。田中が支給されたシーツにくるまり、ようやく一日(という名のサービス残業)を終えようとしたその時、寝室のドアが音もなく開いた。


「田中さま……起きてますか? 夜風が冷たくて、なんだか喉が渇いちゃって……」


現れたのは、薄いネグリジェ一枚を纏ったアリスだった。月光に照らされた彼女の肌は、22歳の肉体を持つ田中にとって、あまりにも毒が強すぎる。本来なら、若さゆえの衝動で飛びついてもおかしくないシチュエーションだ。だが、田中の脳裏には、キッチンナイフを握りしめた嫁の、あの般若のような顔がフラッシュバックした。


「……アリスちゃん、コンプライアンスや。夜中に独身男性の部屋に入るのは、風紀を乱す行為やぞ。俺の社会人生命を、これ以上終わらせる気か?」


「コンプ……? よく分かりません。でも、田中さま。私、知ってるんですよ。田中さまの指先、すごく熱くなる時があるって。……私、もっと熱くしてほしいんです」


アリスがベッドの縁に腰掛け、上目遣いで見つめてくる。22歳の体は正直に反応し、鼓動が速くなる。しかし、51歳の精神は「……あかん、これ絶対ハニートラップや。ここで手を出したら、翌朝セレスさんに魔法で消される」と、冷静すぎるリスクヘッジを働かせた。


田中は指先に集中し、氷点下に近い「冷水」を勢いよく自分の顔面に噴射した。

「ヒィッ!? ……あぁ、冷た……。よし、これで賢者モード突入や。アリスちゃん、風邪引くから早く自分の部屋帰りなさい。温かい白湯なら、ドアの外に置いとくから」


「田中さまの意地悪……! 魔法使いのくせに、理性が魔力より強いなんて!」

アリスは頬を膨らませて去っていったが、田中は朝まで眠れなかった。刺されたトラウマと、22歳の肉欲。その板挟みの中で、彼の胃には新しい穴が開き始めていた。

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