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第130話:資源の再利用

リベルタの朝。

昨夜の惨劇が「処理」された後、酒場の地下室には、不気味なほど無機質な熱気が漂っていた。


■ 負債の機能転換

地下の薄暗い空間。そこには、昨夜サトウの高圧水流によって四肢を焼かれ、腱を切断されたならず者たちが転がされていた。

だが、彼らは死んでいない。

ソフィアが手配した闇医者の処置と、サトウの指先から滴り落ちる「生命活動を無理やり維持させる水」を飲まされることで、死の淵で繋ぎ止められていた。


それは傷を治すものではない。ただ、壊れたまま死なせないための処置だった。


「……殺して、くれ……」


一人の男が、ひび割れた声で懇願する。だが、サトウは帳簿を片手に、その男の「残存機能」を淡々と検品していた。


「死なせるな。機能転換リサイクルする」


サトウの声には、怒りも慈悲もない。

「腕を失った者は、門番の足止め役に回せ。声が出る者は、情報取得ユニットとして配置する。……抵抗意志が強い個体は、別用途に回せ」


「……まだ使うのかよ……人を」


背後から、ガストンの掠れた声が響く。そこには怒りすらなく、ただ目の前で行われている「人間を部品として定義し直す作業」への、底知れない戦慄だけが宿っていた。


サトウは、振り返りもせずに答える。

「人ではない。……回収が終わっていないコストだ」


■ 檻の運用

一階に上がると、そこには昨夜の逃亡未遂を経て「外、死ぬ」と悟ったハンスが、機械的に床を磨いていた。

サトウはハンスの動きを一瞥し、評価を下す。


「ハンスは稼働可能だ。使え。……壊れたら、地下の予備ストックからリソースを補填しろ」


ハンスの手が、一瞬だけ止まる。だが、すぐに元の速度で動き出した。彼にとって、自分はもう「子供」ではなく、いつ交換されてもおかしくない「部品」に過ぎないのだという事実。それが、ハンスの中に完全にインストールされていた。


ソフィアが、その光景を見てくすりと笑う。

「本当に、効率がいいわね。……この街そのものが、あなたの『工場』になったみたい」


「維持コストと利益のバランスが取れている間はな」


サトウは手短に荷物をまとめる。

もはや、この拠点にサトウが直接介入する必要はない。「システム」は構築され、運用段階に入った。


■ 権力のハッキング

サトウが酒場の扉に手をかけた時、背後でうずくまっていた衛兵の仲間たちが、震える手で剣の柄に触れた。公権力の象徴である彼らを傷つけ、平然と去る男を逃せば、彼らの首が飛ぶのは明白だった。


だが、サトウは歩みを止めず、背後の男たちにだけ聞こえる無機質な声を放った。


「……通報は自由だ。だが、君の息子の裏帳簿は、既にリベルタのギルドに流してある。……その瞬間に、君の家族の戸籍は消えるぞ」


一瞬。衛兵たちの動きが、物理的に氷結した。

恐怖ではない。それは、自分たちが隠し持っていた「致命的な不備バグ」を、この男が完全に掌握しているという、絶望的な事実の提示だった。


サトウが店を出た数分後。ソフィアが優雅な足取りで衛兵隊長のもとを訪れ、「不慮の事故」に対する莫大な治療費と、上層部への口止め料を積み上げた。

暴力で意思を挫き、情報で足を止め、金で記録を消す。

国家権力というシステムすら、サトウにとっては「コストで買収可能な変数」に過ぎなかった。


■ 離脱

荷物は最小限。

同行させるのは、商品価値を維持した数名の奴隷のみ。

サトウは酒場の扉を開けた。朝の冷気が流れ込む。


見送りはない。ガストンは顔を上げず、ハンスは窓から、自分を修理し、そして「部品」として配置し直した巨大な影を見送っている。


サトウは、街道へと一歩踏み出した。

振り返らない。

リベルタという市場は、既に「収穫フェーズ」に移行した。

サトウの視線は、既に次の、さらに巨大な「未開拓の負債」――街道の先にある街へと向けられていた。

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