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【第10話:アイアン・ゲート砦 —— 戦雲の兆し】

ついに軍列の視界に、北方の要衝「アイアン・ゲート砦」が姿を現した。切り立った岩壁をそのまま削り出したかのような巨大な石造りの要塞。だが、その威容を圧倒するほどに、対峙する帝国軍の軍旗が地平線を埋め尽くしていた。


「……おいおい、これ、リストラどころか会社倒産危機の現場やないか。営業部隊(歩兵)の数が違いすぎるやろ」


田中は、商社マン時代の「ヤバい案件」を察知する嗅覚で、喉の奥がヒリつくのを感じた。セレスの表情は、いつも以上に凍りついている。彼女は田中に、最前線の本陣、それも魔法障壁のすぐ内側という「鉄火場の特等席」への配置を命じた。


「田中、貴様はここから一歩も動くな。兵たちの喉を潤し、負傷者の傷をその清らかな水で洗え。……いいか、死ぬことは許さん」


「死ぬなとか、ブラック企業の社長みたいなこと言わんといてくださいよ。俺、ただの水出し係ですよ。戦う術なんて、指先から水鉄砲出すくらいしか……」


田中は震える手で、備え付けの巨大な水瓶に指を突っ込んだ。22歳の瑞々しい肉体は、周囲の殺気に反応してアドレナリンを垂れ流しているが、51歳の中身は「今すぐ有給取って帰りたい」と叫んでいる。

砦の屋上から放たれた魔導砲の轟音が、鼓膜を震わせた。開戦の合図。砂塵が舞い、金属がぶつかり合う悲鳴が聞こえ始める中、田中は必死に祈った。

(頼むわ……。カミさんに刺されて、ここでまた刺されるなんて、そんなん笑えへんで……)

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