【第9話:野営の露天風呂 —— 兵士たちの癒やし】
雪の混じる荒野での野営。長旅と寒さで、兵士たちの士気は底を突いていた。泥と汗にまみれた体は冷え切り、食欲すら失いかけている。そこで師団長セレスが、非情な顔で田中に命じた。
「田中、お前の出番だ。全兵士を『浄化』しろ。お前の温度制御なら、可能だろう?」
田中は、かつて「無茶振り」を繰り返してきた上司の顔を思い浮かべながら、大きく溜息をついた。
「……無茶言わんといてくださいよ。俺、ただの人間給湯器ですよ。……まぁ、やりますけどね」
田中は農家の倅としての工夫を凝らした。即席で地面を掘り、防水布を敷き詰め、周囲を土手で固める。そこに、指先から極限まで魔力を込めた「42度の聖なるお湯」を勢いよく流し込んだ。立ち上る湯気は、魔導師団の陣地を真っ白な霧で包み込む。
「うおおおお! お湯だ! 本当にお湯が出てるぞ!」「田中さん、あんた聖者か!? 神様か!?」
裸の男たちが次々と湯船に飛び込み、地獄の行軍で凍りついた心を溶かしていく。田中は番頭のようにタオルを肩にかけ、お湯の温度が下がらないよう、指先から熱湯を継ぎ足し続けた。
「……はいはい、順番やで。背中流してほしい奴は、後で銅貨一枚な」
商売っ気を出し始めたその時、「田中さまー! 私も混ぜてくださーい!」と、全裸のアリスが魔法障壁を突き破って突入してきた。
「混浴禁止! コンプライアンス! 18歳未満入浴お断り!」
田中は阿鼻叫喚の男湯を、必死で守るハメになった。夜の荒野に響く「銭湯」の喧騒。それは、明日の死を予感させる戦場において、唯一人間らしい温もりが残された場所だった。




