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第102話:仕掛品の精度と「現場のざわめき」

「……さて。牙の在庫も確保した。次は『仕掛品しかけひん』、つまり一次加工の精度を上げるで」

拠点のボロ屋。田中は無表情のまま、脳内のそろばんの珠をパチリと弾いた。

ただ素材を獲ってくるだけでは、商売としては「三流」だ。納品する素材の「品質クオリティ」を一定に保つことで、ギルド側との価格交渉を有利に進める。これが商社マン・田中の考えるブランド戦略だった。

「ザック、ニコ、ミア。今日の作業は『洗浄とパッキング』や」

田中が水流魔法で微細な汚れを弾き飛ばし、ミアが「ニードル」の先で牙の根元の空洞に残った肉片や膜をミリ単位で削ぎ落とす。最後にニコが、劣化の兆候がないか鼻で検品する。

それはスラムのボロ屋で行われているとは思えないほど、**「冷徹なまでに機能的な検品ライン」**だった。

冒険者ギルド:カウンターの静寂

数時間後。冒険者ギルドのカウンター。ザックが「鉄」のプレートを無造作に置き、一本一本が布で拭われ、血の匂いすらしない「牙」の山を並べた。

受付の職員が、手袋をはめた手で牙を手に取り、その異常な清潔感に目を剥く。

「……牙イノシシの牙だ。汚れは落としてある。査定、頼むぜ」

不遜な態度で告げるザック。背後ではニコが鼻を鳴らし、ミアが無言でナイフの手入れをしている。

そして田中は、さらにその数歩後ろで、返り血一つない清潔なシャツを纏い、石像のように事務的にその様子を眺めていた。

「おい、見ろよあの牙。根元の空洞まで、磨いたみたいに真っ白だぞ……」

「……普通、あそこには肉片や脂がこびり付いてるもんだ。それを一点の曇りもなく掻き出しやがったのか? どんな細い道具を使ったんだ?」

周囲のベテラン冒険者たちの囁きが、ザックの自尊心をくすぐる。

(へっ、見たかよ。俺たちの『仕事』に度肝抜かれてやがるぜ)

だが、酒場の隅で安酒を煽っていた**【情報屋】**の視線は、ザックたちの背後――微動だにしない「中年男(田中)」に固定されていた。

(……妙だな。あのガキども、素材を出すタイミングも、職員の反応を見る目も、一糸乱れぬ統制が取れている。……まるで、**『見えないマニュアル』**でも共有されているみたいだ。あの後ろの男、一度も指図をしていないように見えるが、あの男が『基準スタンダード』そのものなんじゃないか?)

情報屋は、手元の汚いメモに「タナカ。異常な洗浄技術。背後に管理職クラスの『脳』がいる」とだけ書き留めた。

田中の脳内パチパチ……

(……よし。洗浄の手間をかけた分、不純物による減額査定をゼロに抑えた。これで大八車の車輪の予備が買える。……しかし、なんで窓口の職員はあんなに固まっとるんや? 磨きすぎて傷でもついたか? 完璧に検品したはずやが……)

田中が「現場の品質管理(QC)は合格点やな」と脳内でハンコを押している間に、ギルド内には「あいつらは一体何を隠しているのか」という、不必要な疑惑の書類がまた一枚、積み上がっていた。


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