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鬼多見奇譚 参 戦慄の人造神  作者: 大河原洋
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世田谷

 朱理に連絡しようと思ったが、スマートフォンは電源が入らなくなっていた。験力の鏡を通り抜けた際に壊れたのだろう。悠輝は雨の中、勘を頼りに歩き出した。正直、雨に当たって頭を冷やしたい。


 この二日間、余りにも多くの事が起きすぎた。紫織の誘拐に始まり、遙香が撃たれ、戌亥寺が襲撃された。悠輝は人を殺め、手を汚しながらも紫織を取り戻した。今度は朱理から連絡があり、芦屋満留と対決したが、勝ったのは悠輝でも満留でもなく法眼だ。いくら悠輝が否定しようと、彼が鬼多見法眼の息子である事実は消せない。

 

  本当の問題はそれじゃないよな……


 解っているが気になってしまう、己の小ささが情けない。今、考えなければならないのは、験力の暴走についてだ。朱理はともかく、紫織が暴走した時の対処方法を考えておく必要がある。


 悔しいが、法眼ならば独りで抑えられるだろう、遙香も自分だけで充分だ。しかし悠輝だけだったら?


 紫織は魔物に取り憑かれたせいで、不完全に覚醒している。そのため非常に験力が不安定だ。今回、呪縛された事と悠輝を東京まで送るために験力を無理やり引き出した事が、今後どう影響するのかも判らない。


  計画を早めよう。


 験力の暴走を抑えるためには、遮断してしまえばいい。それが紫織に有効なのは先ほど確かめた。だが、完全に覚醒した紫織に通じるだろうか。もっとこの技術を高めなければならない。そしてもう一人、紫織を抑えられる人物を育成する必要がある。


「おじさん!」


 顔を上げると、傘を差した朱理と御堂が道の向こうにいる。朱理が駆けて来る。


「だいじょうぶ?」


 自分が濡れるのも構わずに、傘を悠輝の頭の上に持っていく。


「心配いらない、派手に血は出たけど傷は浅いし、止血も済んでいる」


 悠輝は傘を朱理の上に戻した。御堂も悠輝に近付いた。


「ホントですか? ここに来た時からボロボロだったし、アークにも派手にやられたんでしょ? ニュースでも騒がれてたし」


「おれがそんなにひ弱に見えるのか?」


 ムッとして答える。


「だって、現にボロボロに……」


「あれは朱理の爺さんとケンカしたからだ」


「え? お祖父さん、連絡取れなかったんじゃ?」


「湧いて出るんだよ、アイツは。アークの教祖をボコろうって時に、割って入りやがって……」


「で、どっちが殴るかでケンカになったと?」


 御堂が呆れた口調で尋ねた。


「ああ」


 彼女の顔が真っ赤になる。


「フザケるのもいい加減にしてッ! 永遠がどンだけ心配してるか考えたッ?

 永遠だけじゃないッ、早紀おねえちゃんだってそうだしッ……あたしも一応は心配してた」


 激しい剣幕でまくし立てる。


「す、済まない。何もズッとケンカしてたわけじゃなく……」


「当たり前よッ、少しでも早く決着をつけて連絡しようと思わなかったのッ?」


 流石《さすが》の悠輝もタジタジになる。


「あ、あぁ、本当に申し訳ない。朱理、ごめんな、もっと早く……」


「遅すぎるわよッ、今だって鬼多見さんにもしもの事があったらって……」


「姉さんッ、もういいから!」


 悠輝と御堂の間に朱理が割って入る。


「生きていてくれたから……遅くなっても、ちゃんと来てくれたから……」


 朱理の瞳に涙が溢れる。


「おじさん、紫織も無事なんでしょ?」


「もちろんだ」


「良かった、みんな生きてる、今度はだれも失わなかった……」


「うん、うまく行った」


 悠輝は朱理の頭に手を乗せる。今度は避けなかった。


「永遠、良かったね」


 御堂も朱理の頭に手を乗せる。


 三人を安らいだ空気が包み、いつの間にか雨も止んでいた。

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