廃校 壱
悠輝は体育館の扉の前に立った。
向こう側に間違いなく紫織が居る、それに御子神と耶蘇未麓も。先ほど襲ってきた信者は呪を使わず、銃だけで悠輝を殺そうとした。使う暇を与えなかったのもあるが、しょせん借り物の異能では太刀打ちできない事を学んだのだろう。
この扉の向こうには、異能力の戦いが待っている。前回は後れを取ったが、今度こそ負けるわけには行かない。異能力者は御子神と紫織だけではないのだ。
戦利品を地面に置き、巾着袋から釘を一掴みして、扉を開けると同時に中に転がり込んだ。
何者かの異能力が精神に流れ込み、雷撃が開かれた扉を突き抜ける。
一瞬でも動きが遅ければ直撃していた。
あ~ッ、防弾チョッキが重い!
油断は出来ない、悠輝は重さを無視して床を転がり続けた。
銃声が館内に響き、悠輝が寸前に転がった部分が吹き飛ぶ。
「スパイクマシンガン!」
銃声がした方に釘を放つ、二階部分の窓際通路にスナイパーがいる。
「うッ」
手に命中させた。悠輝は念動力でスナイパーを引きずり下ろす。
「グッ」
スナイパーは床に頭から激突した。悠輝は素早く近づきその男を盾にする。
紫織の二発目の雷撃がスナイパーを直撃した。
「あなたッ」
甲高い悲鳴が上がる、声の主は氷室玲菜だ。では、このスナイパーは氷室和彰か。
彼の身体から煙が上がる。
「親衛隊ッ、あの狼藉者を地獄に落としなさい!」
ヒステリックに玲菜が叫ぶ。
「やめなさい」
壇上の中心にいる浄衣の男が命じた。
あいつが耶蘇未麓、いや坂本達也か。
未麓を挟むように、玲菜と車椅子に座った御子神こと氷室達也がいる。御子神の少し後ろには、もう一人白衣の男がいた。信者の白衣とは違う、医師のそれだ。
ステージ下には、紫織を中心に武装した十二名の信者が立っている。
「君が鬼多見法眼の息子……」
「違う、あんな爺を親にした覚えはない」
言葉を遮られ、未麓が不快な顔をする。
「無礼者ッ、我らが教主の……」
「テメェらの教主なんて知るかッ」
玲菜の言葉も遮る。
「それより、この焦げてるのが姉貴を撃ったのか?」
「そうよッ、あの時遙香は死ぬべきでした!」
自分を撃った相手とは自ら決着をつけたかったはずだ。これでまた一つ、姉を怒らせる要因が増えた。
それにしても……
悠輝は氷室達也の顔を見つめた。自分の父親が死んだかも知れないのに、表情一つ変えない。その分、母親は、悠輝に対する呪いの言葉を吐き続けている。すまし顔の仮面は完全に剥がれていた。
「伊弉冉、感情的になってはいけません」
「しかしッ」
「私の言葉が聞けませんか」
未麓の声に苛立ちが滲む。
「も、申し訳ありません、教主様」
鷹揚に頷くと、未麓は再び顔を悠輝に向けた。
「君はここに来るまでに、一体どれだけの人を傷つけ、命を奪ったか、解っていますか?」
悠輝は未麓の説教染みた言い方に、眼の前が真っ赤になる思いがした。もちろん、御子神の幻術ではない、そんな物はとっくにシャットアウトしている。未麓の無責任な物言いに、怒りが噴出したのだ。
「テメェがそうし向けたんだろッ、おれを殺したいなら自分で来い! 他人を巻き込むなッ!」
未麓は哀れんだ眼で悠輝を見つめた。
「自分のした事を棚上げし、人に説教ですか?」
「だからテメェが言うなッ、戯れ言に付き合う気は無い!
選択肢は二つ。大人しく紫織を解放し貴様らの悪行を洗いざらい公表して法的制裁と社会的制裁を受けるか、抵抗しておれに殲滅されるかだ」
未麓は胸の前で手を合わせ祈るような仕草をした。
「君には言葉ではなく、心が通じないようだ……」
「裂気斬!」
未麓に届く前に、験力の刃は別の力で阻まれた。御子神の顔に僅かだが怒りの色が見える、父の生死より教主の身が大切なのだ。
「あの狼藉者に罰を」
紫織は御子神の言葉に従い、腕を上げ、悠輝に掌を向けた。
「オン インダラヤ ソワカ」
早口で帝釈天の真言を唱える。紫織の雷撃が放たれたが今度は避けない。雷は悠輝に触れる直前に跳ね返り、紫織の周りの信者が感電した。
残り八人。
四人が倒れて動かない。信者たちを見ると、いずれも銃器を手にしている。
悠輝は出入り口へと猛然とダッシュした。
「逃がすな!」
伊弉冉と呼ばれた玲菜の命令に、八人の信者が一斉に発砲する。
その時、悠輝はすでに念動力で戦利品を移動させていた。
開けられた扉から四枚の盾が飛び込んできて、弾丸の雨から彼を護る。念動を更に加えて盾の動きを加速し信者たちに叩き付ける。
「裂気斬!」
盾から逃れた信者の首を狙って見えない刃を放つ。
狙った信者の首から大量の血が噴き出す。
「スパイクマシンガン!」
間髪入れず、ありったけの釘を巾着から掴み出すと、信者たちに向けて勢いよく飛ばす。
防具を着けていても隙間から釘が突き刺さり、全員が戦闘不能になった。
わずか数秒で十人以上の信者を斃し、残ったのは未麓、伊弉冉、御子神、医者、そして紫織だけだ。
「雑魚を何人けしかけようがムダだ。テメェの手を汚す気になったか、坂本達也ッ?」
未麓は不快に顔を歪めた。
「下郎がッ、教主には指一本触れさせない、紫織!」
御子神が車椅子から身を乗り出し、再び悠輝への攻撃を命じる。
「オン バサラ ダト バン!」
大日如来真言を唱え、両手で智拳印を結ぶ。
紫織が掌を向けても験力は発動しない。
それどころか、彼女は勝手に腕を降ろし茫然と立ち尽くす。
「貴様ッ、何をしたッ?」
御子神が感情的な声を上げた。
悠輝は鼻で嗤う。
「解らねぇのか? 験力を無効化したんだよ。お前らの好きなオモチャが無くても、実力があればそれぐらい造作もない」
本当はかなり厳しい状況だ。大日如来真言でやったのは、紫織の験力を遮断することと、彼女に影響を及ぼしている呪縛を断ち切ることだ。だが、誤算があった、紫織が正常に戻らない。正気を取り戻してくれれば、彼女を逃がして、未麓を斃すつもりだった。紫織を操られないようにするには、このまま彼女に向けて験力を使い続けなければならない。
このままだと、御子神と未麓に験力を使った攻撃が出来ないばかりか、彼らの呪力を防ぐこともままならないのだ。こちらの状況を悟られる前に決着をつけなければ、紫織を取り戻せない。命懸けの仲間の協力を得て自分はここに居るのだ、何としてでもやり遂げる。
「裂気斬!」
紫織の遮断を解除し、未麓に験力の刃を解き放つ。それと同時に御子神に突進する。
本命は御子神だ、紫織を呪縛しているのはこいつだ。それを解く方法は二つ、一つは彼の命を奪うこと。そして、もう一つは、
異能力を奪う!
御子神に腕を伸ばした時、脇腹に衝撃を受けて倒れた。
「息子には指一本触れさせません!」
玲菜が血走った眼で悠輝を睨みつける。その手にはベレッタナノが握られていた。
クソッ、小型の拳銃を隠し持っていたのか。
防弾チョッキのお陰で今回も怪我を免れたが、奇襲は失敗した。御子神も状況を把握したのだろう、紫織が雷撃を悠輝に向かって放つ。
「インダラヤ ソワカ!」
何とか跳ね返す。
「うわッ」
御子神の背後にいる医師らしき男が悲鳴を上げたが、雷は打ち消された。
悠輝は床に転がっている盾を念動力で動かし、伊弉冉に叩き付ける。
「ぎゃッ」
盾は胸の辺りに食い込み、仰向けに倒れた。昨日、伊弉冉自身が言っていたが、彼女が未麓より与えられた護符には、世羽と同じく異能を打ち消す作用がある。先ほどの雷撃で確信を得た悠輝は、験力が途中で消されてもダメージを与えられる方法を選んだ。
「おのれッ」
口を開いたのは未麓だ。側近をやられ、さすがに頭に来たのだろう。
御子神は父の時よりは怒りを露わにしているが、それでも我を失う程ではない。
「これ以上、我々を傷つけるなら私が相手だ!」
「端からテメェが来いって言ってんだろ!」
裂気斬を未麓と御子神に向けて放つ、打ち消されるにしても紫織を操る妨害にはなる。
「オン マイタレイヤ ソワカ!」
弥勒菩薩真言を唱える未麓を裂気斬が擦り抜ける。
しまった!
御子神の異能力が働いているのに気付いた時はもう遅かった。悠輝は全身に強力な圧力を受け、床に突っ伏した。
「ぐぐ……」
思わず呻き声が漏れる。見えない巨人の足に踏み潰されたようだ。
「少しは己の愚かさを理解しましたか?」
すました声で未麓が言う。
圧力のせいで悠輝は顔が動かせないが、未麓はわざと彼の視界に入った。
悠輝の瞳に映るそれは異様だった。首と脚の筋肉が異様に膨張し、反対に腕が極端に細くなっている。口は耳元まで裂け、眼は爬虫類のようだ。全体的に身体が二回りほど巨大化し、浄衣が破れ露出した肌は鱗のようになっている。
不細工なTレックス。
これが悠輝の頭に浮かんだイメージだ。尻尾もなく、頭部に残っている髪の毛も歪さを増している。これを弥勒菩薩と言ったら仏教界からクレームが来そうだ。
「ぐふっ……」
更に圧力が増し、体育館の床に罅が入る、全身の骨が砕かれそうだ。遙香がドーピングしまくった異能者と言っていたが、未麓はこれだけの能力を得るためにどれ程の事をしたのか。己の寿命以外にも犠牲を強いたはずだ。
オン バサラ ダト バン……
心の中で印を結び大日如来真言を唱える。その途端に未麓の異能力は遮断され、悠輝を押し潰そうとする圧力は消滅した。
「裂気斬!」
間髪入れず未麓に反撃する。遮断と攻撃は同時に出来ない、だから相手が異能力を遮断され戸惑った隙をつく。
「グァッ」
今度は御子神の幻覚に邪魔されなかった、醜悪な未麓の姿は幻ではなく現実だ。
右脇腹から左肩へ逆袈裟に切り裂かれ、未麓の身体からは廃液のように黒ずんだ体液が滲み出す。ダメージは与えたが、思ったほどではない。
悠輝が内心悪態をついた瞬間、衝撃を受けて身体が吹っ飛んだ。
「いい気になるなッ、鬼多見悠輝!」
怒りに顔を歪め御子神は吠えた。彼は紫織に今日六度目の雷撃を命じたのだ。
「教主よ、この者だけは私自ら罰を与えます!」
「よかろう、アークソサエティの守護神として、我らに仇なす愚か者に裁きを与えよ」
御子神が車椅子から立ち上がろうとすると、医師が慌てて松葉杖を渡した。それで身体を支えて立ち上がると、倒れた母の傍に落ちているベレッタナノに視線を向ける。
医師はそれを拾うと、今度はステージから降りようとする御子神をフォローした。御子神が倒れている悠輝の側に立つと、医師は松葉杖を受け取り、代わりにベレッタナノを手渡す。
御子神は銃口を悠輝に向ける。
「貴様は多くのアークソサエティ信徒を傷つけ、命を奪った。しかも、それだけでは飽き足らず、我らが教主までも手にかけようとした。
その振る舞い許しがたいッ。御子神の名において、鬼多見悠輝、貴様を断罪する!」
少年が引き金を引こうとした瞬間、悠輝は動いた。
弾丸は逸れ、銃声だけが虚しく響く。
跳び起きた彼は銃を向けた御子神の腕を跳ね上げ、彼の頭に手を置いた。己の験力を、不自然に植え付けられている氷室達也の異能力へと結びつける。
紫織の雷撃は悠輝の防弾チョッキに命中したが、この防具の裏地には天城翔が厚手のゴムを縫い付けてあるのだ。そのせいで重みと通気性の悪さが倍増していたが、悠輝はチャンスを得られた。
「ゆるせ、おれにお前は救えない」
生まれつき持っている異能を封印したり、取り除く事は出来ない。それを行うのは嫌な物を見ないために、目蓋を縫い付けたり、目玉を刳りぬくのと同じだ。異能力は精神と密接な関係にあるため、封印したり取り除いたりする事でどんな影響が出るか判らないのだ。
かつて鬼多見遙香という少女が、己の験力を取り除いて欲しいと望んだ時、父は嘘と呪術を駆使して娘に験力を封印したと思い込ませた。娘の精神を、心を守るために。
今の悠輝にはそんな余裕も技術もない。せめてもの救いは、氷室達也の異能力は生来の物ではなく、呪術により人工的に付与されたという点だ。極々僅かだが、完全な精神破壊を免れる可能性がある。しかし、奇跡的に上手くいったとしても精神に重い障害が残る。
悠輝は御子神の異能力に結びついた、己の験力を全力で引いた。氷室達也の精神から、異能を力尽くで引き剥がそうというのだ。
御子神は眼を飛び出さんばかりに見開き、声にならない叫び声を上げた。口から泡を吹き、他の穴からも液体を垂れ流す。未麓に邪魔される前に終わらせなければならない。氷室達也の精神から異能力が引き千切られる寸前、悠輝の身体が宙に舞った。
「なッ?」
彼を打ち上げたのは圧倒的な念動力、そしてこの験力の主を悠輝はよく知っていた。床で受け身をとると、自分が開けたままの扉を睨む。
「何しやがるッ?」
「莫迦息子の愚行を止めただけだ」
扉を通り、鬼多見法眼が姿を現した。
「もう少し賢いと思ったんだがな、どうやら俺が親馬鹿だったらしい」
「徘徊老人に言われたくねぇな。テメェこそ、今まで何処ほっつき歩いていたッ?」
法眼は未麓を見据えた。
「こいつに聞け」
悠輝は鼻を鳴らした。
「フン、偉そうな事を言っておいて、罠にかかっていただけじゃねぇか。
で、やれるのか?」
「誰に言っている?」
「姉貴の事忘れたか?」
「条件が違う」
法眼は御子神に近付いて行き、悠輝は未麓に対峙した。
「良かったな、坂本。おまえの相手はおれだ、あの爺みないな嫌らしい苦しめ方はしないから安心しろ。生皮剥いで八つ裂きにする程度で済ませてやる」
「グゥオォオォオォ!」
外見に似合った咆哮を上げると、未麓は己の異能を発動し見えない壁で悠輝を左右から挟んだ。
「おれに念動で挑むとは良い度胸だ、まがい物と本物の違いを教えてやる!」
自分を挟む左右の念動力を己の念動力で弾き返す。紫織と御子神がいないので未麓に意識を集中できる、先ほどのような無様な真似はしない。
「グゥオォオォオォ!」
再び未麓が念動を放つ。
「はぁああああああ!」
悠輝もそれを念動で受ける。眼には見えない力が空中でぶつかり、絡みつき、打ち消される。悠輝と未麓の能力は拮抗していた。
ところが、再び邪魔が入った。突然、二人の異能力が打ち消されたのだ。
「後は俺がやる」
振り向くと、法眼が体育館の出入り口からこちらにやって来る。氷室達也の異能力を切除し、戦いの被害に遭わぬよう紫織と共に出入り口付近に横たえたのだ。
「勝手な事言うな、コイツはおれの獲物だ。姉貴はこいつの手下に撃たれ、カワイイ姪っ子は拉致られ、もう一人は傷付けられた。それだけじゃないッ、大切なペットと従弟だってヒドい怪我をした。その借りは、この手で……この血塗られて手で返す!」
「愚か者! それなら俺は、愛娘を撃たれ、眼に入れても痛くない可愛い孫を拐かされ、もう一人の孫まで傷付けらた。更に大切な愛犬と弟子にまで手を出されたのだ。当然、坂本達也に制裁を加える権利は俺にあるッ」
「フザケるなッ、坊主は暴力に反対して念仏でも唱えてろ!」
悠輝は法眼に殴りかかったが、簡単にかわされ逆に裏拳を右頬に喰らった。口の中に血の味が広がる。
「テメェ!」
再び法眼に殴りかかる。法眼はかわすと同時に悠輝の手首を掴み捻り上げる。
完全に動きを封じられる前に、悠輝は強引に法眼の手を払いのけ間合いを取る。
「終わってからにしようと思ってたがもう我慢できねぇッ。
答えろッ、あれは何だッ?」
「気が触れおったかッ? 唐突に何を言うッ」
法眼の拳を紙一重で避け、鳩尾に肘打ちを喰らわす。
ところが法眼の姿は消え、背後から蹴りが襲う。
身を縮めてかわし脚を払う。
法眼はそれを難なく避けて間合いを取る。
「おれの記憶を封印したろッ。台所で血溜まりに倒れているお袋、血だらけで立つ姉貴、あれは何だッ?」
裂気斬を法眼に放つが届く前にかき消される。
「お前の予想通りだ。それに、俺はお前の記憶など封じておらん」
「予想通りって何だッ?」
殴りかかる、と見せかけて身体を反転させて蹴りを繰り出す。
法眼は脚を受け止め、常識外れの力で息子を投げ飛ばす。
悠輝は壁に叩き付けられ床に転がった。
「姉貴が殺ったのか?」
法眼は黙って悠輝を見下ろしている。
だが、それが答えである事は判っていた。
「何で……何があったッ?」
悠輝は立ち上がり、父を睨みつけた。
「験力に飲まれた」
「……………………」
「遙香は験力に飲まれ、己を制御できなくなった。母さんは、止めようとしたが抑えきれなかった」
「……テメェはそん時、何してたッ?」
「拝み屋で家を出ていた。俺が戻った時、遙香はお前を……」
「それでおれの記憶を封印したのかッ?」
「さっきも言っただろう、お前の記憶は封じていない」
「じゃ、何で……」
ここで悠輝はようやく気が付いた、記憶は封印されたのではなく、記憶を封印した事に。
そもそも法眼の呪が御子神の未熟な異能力で解けるわけがない。
「俺が封印したのは遙香だ。お前は俺が何かするまでもなく、母の記憶を全て失っていた。だから俺は、お前が生まれてからの母さんの写真やビデオを処分した」
そう言う事か……
「姉貴の封印はまだ生きているのか?」
法眼は首を左右に振った。
「判らん」
「何で判らねぇッ?」
「確認しておらん。あいつの基本的な異能力は他心通だ、験力を回復した時点で、もしくは封印したと思い込む前に思い出してる可能性はある」
「どうして確かめない、テメェならできるだろ?」
法眼は自嘲的な笑みを浮かべた。
「お前は俺を買いかぶりすぎている」
「誰がテメェなんかを!」
「俺に怖れるものが無いと思うか?」
「え?」
「お前が母の死の真相を知った時に姉を恨まないか、遙香が記憶を取り戻したらどうするのか……怖ろしくて確認できなかった」
悠輝の中の何かに罅が入った、それは不快で不安を感じさせた。
「なに言ってんだ、親父?」
「久しぶりに親父と呼んでくれたな」
「……………………」
「いいか、悠輝。この世に完璧な人間などおらん、誰しも怖れるものはある。守りたい物があるのだ」
「だからって現実から眼を背けても、何も変わらないだろ?」
法眼は再び自嘲した。
「まさか、お前に諭されるとはな」
「フン、そんな事どうでもいい。姉貴を恨むかだと? 恨むわけがない。
姉貴がまた暴走するなら、今度はおれが止める。それが紫織でも朱理でも一緒だ」
「お前は……莫迦だが強いな」
「褒めてねーだろ。それより、姉貴が暴走する可能性はまだ有るのか? 朱理やおれは? そして、紫織は?」
悠輝は体育館の隅で横になっている姪を見つめた。
「遙香は一五年以上、験力を封印したと思い込んでいた。逆に言えば、それだけ長期に渡り、験力を抑える事が出来る。今の遙香が暴走する可能性はかなり低い。
お前にしても同じだ。認めはせんが、お前は独自の解釈で験力を駆使している。それだけコントロール出来れば心配はなかろう。
朱理ちゃんはまだ不安定だ、可能性はある。だが、俺がお前、もしくは遙香が傍にいれば対処出来る」
「問題は紫織か」
法眼が何か言いかけた時、銃声が響き渡った。




