会津喜多方
「伏せて!」
南部智里がワンボックスの後部座席で叫んだ途端、リアガラスが割れた。彼女たちを追いかけてきたRVの窓から、信者が身を乗り出し銃を発砲したのだ。
「カメラ回ってるッ?」
「当たり前だろ!」
智里にカメラマンの宍戸聡が怒鳴り返す。さすがだ、と智里は思った。
宍戸とはFKTに入社以来、五年以上の付き合いになる。報道部所属と言えば聞こえが良いが、実体は地方局のレポーターとカメラマンだ。東日本大震災以降、東京電力福島第一原発関連のニュース以上に大きな事件を扱っていない。そして、二人は大震災当時、まだ新人で取材の中心にいなかった。
自分たちでスクープをモノにしたい、彼女達は野望を秘めていた。そこに天城翔からタレコミがあったのだ。指名手配されている鬼多見悠輝とアークソサエティに関する内容に、一も二も無く智里は飛びついた。当然、宍戸に異存はなく、ADの金田義友も同様だ。むしろ若い金田は、地味で辛いアシスタントディレクター業務にウンザリしていたので、一番乗り気だった。
事実、牧田診療所でのインタビューは他局や新聞、そして雑誌を出し抜いた。彼らを全国のメディアが後追いしたのだ。だが、これで終わりではない、誘拐された真藤紫織の消息は不明のままだ。彼女の居場所を他社に先駆けて突き止める、これが彼女たちの最終目的だった。そのためなら、多少のリスクは覚悟していた。
銃声がまた響き、車体が大きく揺れた。
自分の覚悟の甘さを感じつつ、智里はシートに身を伏せていた。クルマの振動が明らかにおかしい、速度も急激に落ちている。
「金田くん、どうしたのッ?」
「タイヤがやられました!」
FKTのワンボックスをアークのRVが追い抜き、道を塞いだ。
金田はクルマを停めた。
「南部、警察に連絡!」
「スマホがない!」
廃校で落としたままだ。宍戸が舌打ちをして、片手でポケットをまさぐる。
「オレがしますッ」
金田がスマホを耳に当てた。と、その時、ドアが叩かれ、銃を向けられているのに気付いた。
「手を上げて、クルマから降りろ」
すでにアークソサエティの信者に囲まれていた。暗くてよく判らないが、全員銃を構えているようだ。宍戸と金田と目配せし、抵抗しないことを確認する。下手に暴れても寿命を縮めるだけだ。
智里たちは信者の指示に従い、両手を上げてワンボックスから降りた。
「跪けッ」
「ちょ、ちょっと待ってッ、もうすぐ警察が来るわ!
こんなところ、見られてもいいの?」
警察に連絡は出来なかったが、ここははったりで乗り切るしかない。
「カメラは渡すわ、だから解放して」
「その必要はない、今すぐ始末すればいいだけだ」
リーダー格と思われる信者が、智里の頭に銃を突きつけた。
「や、やめて!」
彼女の叫び声をかき消すように、パトカーのサイレンが聞こえてきた。




