山道
五つの銃口が自分に向けられている。いくら防弾チョッキを着ていても、この距離なら頭を撃ち抜かれ、ジ・エンドだ。
これまでか……
覚悟を決めた瞬間、銃を向けている一人の信者の手が赤く光った。
ズガーンッと銃声が轟き、その手が吹っ飛ぶ。
「ぎゃあぁあぁあぁあぁ!」
手を失った信者がのたうち回る。
虚を衝かれ、他の信者たちに隙が生まれた。
天城の両脇を、何かが物凄い勢いで駆け抜ける。
「ガルルルルル!」
「ガウッ」
大きな白い影が棒立ちになっていた信者に覆い被さり、小さな黒い影は跳び上がりオートバイに跨がっていた男の首筋に噛みついた。
天城はこのチャンスを逃さず、立ち上がると一番近くにいる信者に後ろから飛び掛かった。これで銃は使えない。
最後の一人が、天城を仲間から引き剥がそうとしたが、跳び蹴りを喰らって吹っ飛んだ。
「明人くん、こっちも頼む」
天城が押さえ付けていた信者の顔面に、少年の回し蹴りが見事に決まる。手を放すと信者は地面に崩れ落ちた。
「助かったよ、本気でダメかと……」
「シゲちゃんッ、明人君ッ、伏せて!」
天城と明人がとっさに身を屈めると、再び銃声が轟いた。恭治のライフル、ウィンチェスターM70が火を噴いたのだ。
彼が狙ったモノを見て、天城は眼を見張った。
どこから現れたんだ?
頭に浮かんだ言葉は『鬼』だ。会津の山奥から人を喰らうために姿を現した鬼。そんな昔話染みたことを、連想させる姿をソレはしていた。地面に着くほど長い両腕、剛毛覆われガッシリとした身体、これだけならゴリラに似ている。
だが、巨大すぎる、全長が三メートルを超えるゴリラがいるだろうか。そもそも、頭から突き出た二本の角が、それが別のモノであることを証明していた。
「まさか、奥の手を使うことになるとは」
鬼の背後に、明人に跳び蹴りをされた信者がいた。三度、恭治のライフルが火を噴いた。しかし、鬼はビクともしない。レーザーサイトの赤い光が身体に当たっていたので、間違いなく弾は命中している。
「そんなオモチャが、我が式神に通用すると思ったかッ」
式神と呼ばれた化け物は、信者を守るように立ちはだかった。
「まったく、今度は陰陽師もどきか、パチモン呪術師のオンパレードだな」
「無礼な!」
信者の声に反応し、式神は太い腕を明人たちめがけて振り下ろす。
「うわっとッ」
天城は明人に突き飛ばされ、攻撃に当たらずに済んだ。式神の拳はアスファルトにめり込んでいる。
「師匠ってのは有り難いですね」
「ナニ言ってるんだッ、こんな時にッ?」
呑気な口調で言う明人に、さしもの天城もキツイ口調になる。
「こんな時だからですよ。だって、ライフルで撃ってもダメージを受けない怪物と戦うなんて、普通考えないでしょう?」
「そりゃそうだけど……って、まさかッ?」
少年はすでに動き出していた、倒れたMTBを起こして式神から離れようとする。式神は明人を追う。
「斉藤さん、援護してください!」
言い終わらぬうちに、恭治は引き金を引いていた。更に二発、ウィンチェスターM70から銃弾が放たれる。ダメージは与えていないが、それでも怪物の意識は恭治に向く。
この隙に明人は充分距離を取り、恭治の狙撃が終わると式神に向かって全力でMTBのペダルを回す。
「明人くんッ?」
式神の太い腕が再び彼を襲う。
明人はそれが届く寸前、自転車から飛び降りる。
グゥワシャとプレスされたような音を立て、悠輝のMTBは地面にめり込む。
転げるようにして攻撃から逃れた明人は、そのまま式神の背後に回る。
「なにッ?」
信者は身構えたが、少年が下から突き上げた拳は見事顎に命中した。よろけたところを脚払いし、倒して鳩尾に肘を叩き込む。事切れたように信者は動かなくなり、それと同時に式神の姿も消えた。
「ふぅ」
少年は汗を拭った。
「で、鬼多見のおじ様は、鉛玉でも殺せない、怪物のやっつけ方をキミに伝授してたのかい?」
呆れたように言いながら、周りを見回す。信者たちはうずくまって呻くか、意識を失っている。梵天丸と政宗に襲われた信者たちも、出血は酷いがまだ息はある。
「ええ、式神はだいたい使役している奴を倒せば何とかなるって教えられました」
核心を突いているようで、アバウトな教えだ。
「それはともかく、ユウ兄ちゃんのバイクは、もうダメですね」
式神は消えても、フレームが完全にひしゃげたMTBは元には戻らない。
「あ~あ、もう一匹鬼が出るな」
「だいじょうぶですよ、アークとの戦って頭に血が登っているでしょうから、アイツらのせいにすればいい」
「キミも鬼だな」
明人は肩を竦めた。
「ぼくにも鬼多見の血が流れていますからね。
取り合えず、思う存分暴れられたんで満足です」
間違いなく鬼多見だ、と天城は頭を抱えた。




