廃校
験力の階段を駆け下りて、悠輝は校舎の陰に身を隠した。
そっと辺りを伺う。天城たちは予定通り二手に分かれて逃げた。それぞれ信者たちが追っていくが、スマホを取り出して通話している男がいる。様子を見ていると、案の定すぐに数人の信者が校舎の中から飛び出して来た。思わず腰に着けた巾着袋に手が伸びるが、何とか釘を取り出すのを堪える。
信者たちは校庭の隅に置いてある、クルマとオートバイに乗って、校門から出て行く。
みんな無事でいてくれ……
それにしても、防弾チョッキが重くて暑い。天城が手を加えたため余計に通気性が悪くなり、夏のこの時期に着ると地獄だ。験力で重さと暑さを軽減できるが、今はそれに使う余裕がない。巾着袋の中の釘を握りしめ、悠輝は校舎の陰から出た。仲間が作ってくれた時間を、一秒たりとも無駄には出来ない。
悠輝は迷わず体育館へ向かう。 この距離なら姉に頼るまでもなく、紫織の居場所はおおよそ判る。しかし、相手もこちらの動きを読んでいた。
校舎から次々にアークソサエティ信者が駆け出してくる。悠輝は巾着から釘を掴んでいる手を引き抜いた。
「スパイクマシンガン!」
警告無しで攻撃する。こんな所で足止めされてはいられない、迷いの刻はとっくに過ぎている。ところが、彼の覚悟を嘲笑うかのように一人もダメージを受けていない。彼らが手にした盾によって、釘は全て防がれてしまった。勢至堂渓谷の経験から彼等は対策を講じたのだ。
タンッタンッタンッタンッタンッ……
盾の隙間から銃口が向けられ、一斉に発砲される。彼らが使っているのはマカロフという自動拳銃だ。悠輝は慌てて飛び退き、傍にあった崩れかけた花壇の陰に隠れた。
「いって~」
運良く銃弾が当たったのは、防弾チョッキを着た部分だけだ。防弾チョッキは着ていれば痛みはないと思っていたが、実際は弾が貫通しないだけで滅茶苦茶痛い。だが、痛みに驚いている場合ではない、信者たちが彼にトドメを刺そうと花壇に回り込む。
「オン アニチヤ マリシエイ ソワカ!」
印を結び摩利支天真言を唱えると、身体がフラッシュの如く輝く。一瞬、信者が怯んだ隙に、悠輝は彼等の背後に移動した。
「裂気斬!」
四人の信者が首筋から血を吹き出しながら倒れる。
悠輝の動きに追い付いた信者が発砲する。
たった今斃した信者の盾で彼は銃弾を防ぐ。
左右から悠輝を挟み込むように信者たちは移動する。
「ノウボウ タリツ ボリツ ハラボリツ シャキンメイ タラサンダン オエンビ ソワカッ!」
周りにいた信者全員が、突然血を吐き倒れた。
「クソ……」
無意識にまた悪態が出た。
今唱えたのは大元帥明王真言、怨敵調伏の強力な呪を発動させる。魔物相手ですら滅多に唱えない、ましてや人に使用する事などゆるされない。
後悔するなッ、紫織を取り戻すために鬼になれ!
鬼多見悠輝は生死も確かめず、倒れている信者から戦利品を奪い取ると体育館へと向かった。




