山道
天城は智里たちと共に校門を駆け抜け、打ち合わせ通り彼女一人が反対側に向かった。予定通り恭治が悠輝のMTBを駐めておいたので、それに飛び乗り坂道を登る。坂はそれほど急では無いので、信者たちを引き離すことができた。
よし、いい感じだ。
背後でFKTのワンボックスが発進するエンジン音が聞こえた。智里たちも、作戦の第二段階に移行できたのだ。自分を追ってきている信者は三名、廃校に何人のアーク信者がいるか判らないが、あと数人追加で追いかけて来て欲しい。
天城はテレビ局の記者を装い、智里とカメラマンの宍戸の三人で廃校の敷地内に侵入した。案の定、数人の男が現れ、彼女たちを追い払おうとした。
「あなたたち、アーク信者でしょ? ここに誘拐してきた真藤紫織ちゃんがいるんですか?」
「何のことだッ? 我々はアークソサエティではない!」
彼等はアークの白装束を着ておらず、Tシャツと作業用のズボンを履いていた。
「おいッ、勝手に撮るな!」
別な男が、カメラマンを怒鳴りつける。それでも彼は撮影を止めない。
「教祖の耶蘇未麓さんも行方不明ですよね? 彼もここに隠れているのでしょうか?」
「何のことだッ、帰れ!」
リーダーと思われる男が声を荒げたが、天城は怯まなかった。隣では、他の信者たちが撮影を止めようとするのを智里が邪魔をしている。
「あなた方が御子神と呼ぶ、氷室達也も一緒ですか?」
男たちの顔色が明らかに変わった。報道が知るはずがない名前を口にしたからだ。
「不法侵入だッ、いい加減にしないと警察を呼ぶぞ」
「構いませんよ、なんなら私たちで呼びましょうか?」
挑発的に言うと、一人の男が天城に掴みかかろうとした。天城は素早く身を引き、質問を続ける。
「暴力は止めてください。本当に紫織ちゃんがいないなら、建物の中を見てもいいですよね?」
男の脇をすり抜け、建物に入ろうとする。
「不法侵入だと言っているだろう!」
今度は逃げ切れず腕を掴まれた。
「いたぁい!」
天城は大袈裟に声を上げ、宍戸がその様子をカメラで捉えていた。智里がスマホを取り出して、耳に当てる。
「やめろッ!」
別な男がスマホを奪い取った。
「ちょっとッ、何するの!」
「うるさいッ」
「そんなことをしてもムダよ、クルマのクルーが連絡しているわ!」
「なにッ?」
他の信者が校門に向けて駆け出した。智里が身を翻し、ワンボックスに向かう男にスライディングをした。男は智里の脚に躓き、派手に転がる。それを合図に、天城と宍戸は纏わり付く信者を振り払い、校門めがけて走り出た。
計画通り作戦は進んでいるが、もう少し距離を稼がないと、恭治たちが待ち伏せをしている場所に到達する前に追いつかれてしまう。上り坂は角度を増してきているし、追っ手から見えにくいよう無灯火でMTBに乗っているので走りにくい。それでも天城は、脚に力を込めてケイデンスを上げた。
タンッ、タンッ、タンッ、と大きな音が轟き、背中に衝撃を受けて彼女はMTBから転げ落ちた。追ってきた信者が発砲したのだ。
クソッ、あと少しなのに!
防弾チョッキを着ていたお陰で、大した怪我はしていない。痛みに顔を顰めつつ、天城は急いでMTBを起こして飛び乗った。まだ、信者と距離があるし視界だって悪い、当たったのはまぐれだ。自転車も壊れていないし、まだ走れる。
再び銃声が轟く。
タンッ、タンッ、タンッ……
さっきよりも数が多い、銃を撃つ信者の数が増えたのだ。MTBを蛇行させているので、更に狙いづらいのだろう、今度は当たらずに済んだ。しかし、喜んでばかりもいられない。この乗り方だとスピードが出ない、距離が大分縮まっている。
それだけではない、エンジン音が聞こえる。恐らく、オートバイの追跡車が加わったのだ。
あと百メートル!
銃声と共に、再び背中に激しい衝撃が走った。悲鳴を上げ、天城はMTBごと倒れた。さっきよりも痛みが激しく、あちこち擦り剥いて血だらけだ。それでも、急いで立ち上がろうとする。
「動くな!」
五人の信者が銃口を天城に向けていた。




