牧田診療所 壱
牧田診療所の周りは、報道陣、警官、そして野次馬でごった返していた。静かな田舎町がアークソサエティによる襲撃のため、福島県内だけでなく全国から注目されてしまった。
「すみませーん、FKTでーす。どいてくださーい」
インタビュアーとカメラマン、そして録音技師が人垣を掻き分けて、診療所の裏にある玄関に近付いて行った。
「待って、取材の許可は?」
警官が行く手を遮った。カメラマンはすでに撮影を始めていて、牧田診療所の外観にレンズを向けている。他の報道陣も撮影をしているので、警官は特に咎めはしなかった。
「はい、独占取材を約束済みです。私はKFTの南部智里、確認していただけますか?」
胡散臭そうにしながらも、警官はインターフォンを押して千代子と会話後、三人を中に通してくれた。
カメラマンはその間も撮影を止めない。家の中に警官の姿は無く、玄関で待っていた千代子が客間に案内してくれた。そこには哲夫の他に明人と黒柴の梵天丸がいた。直ぐさま梵天丸がカメラマンに駆け寄る。
「ただいま、いい子にしていたか?」
鬼多見悠輝は屈んで、自分の脚にじゃれつく愛犬の頭をなでる。帽子を目深に被り、TVカメラで撮影するふりをしていただけだが、誰にも気付かれなかった。バレるのではないかと不安で仕方なかったが、さすがは天城のアイディアだ。彼女自身は録音技師に扮装していた。
智里だけは本物の記者で、福島のテレビ局FKTに務めている。天城とは以前から面識があり、今回の襲撃事件をスクープしたのも彼女だ。手引きしたのは天城で、引き換えに協力を約束させた。つまり、独占取材は本当だ。
「先生、奥さん、度々御迷惑をおかけします」
悠輝は礼儀正しく頭を下げた。
「気にしなくていいよ、私が望んでしているんだから」
哲夫は微笑みながら言った。
「申し訳ありません……」
チラリと明人を伺う。
「早美のことなら、気にしないで。警察にも話す必要があったし、彼も知っているよ」
哲夫は悠輝の気持ちを察してくれた。
「三瓶から聞きました。それで……」
天城に顔を向ける。
「お嬢さんに会ってきました」
彼女の言葉に牧田夫妻は身を乗り出した。
「あの子はどうしているの?」
千代子が震える声で尋ねた。
「正直、悪い状況です。DVを受けているようです」
「そんな……」
口を両手で覆い、顔を背けた。背中が震えている。哲夫は眼を閉じて俯いた。
「助けます」
悠輝が力強く言った。
「今日、アークは崩壊します」
「ユウ兄ちゃん……」
明人が不安げな視線を向ける。
「どっちにしろ、紫織を取り戻すだけじゃ問題は解決しない。
ヤツらが悪さを出来ないようにしなければ、安心して生活できないだろ?
となれば、やる事は一つだ」
「でも、警察が……」
「法の裁きを待ってはいられない。こうしている間も、紫織は異能力で操られ、早美さんはDVを受けている」
明人は覚悟を決めたように頷いた。
「今度はぼくも行くよ」
「わかった」
「ダメだって言っても……って、え?」
予想していた障害が現れず、肩すかしを食らって戸惑っている。
「ただし、三瓶と行動をしてもらう。こいつの指示には絶対に従うこと、いいな?」
「う、うん、もちろん!」
これで明人のフラストレーションも少しは解消されるだろう。
「ウゥ~」
梵天丸が唸りながらズボンの裾を引っぱる。
「わかってる、今度はお前も一緒だ」
「ガウッ、ガウガウ!」
嬉しそうに尾を振る。
「鬼多見、さっきから気になっているんだが……」
「どうした、三瓶?」
何か見落とした事があるのだろうか。
「ボクの名前は……」
「先生、姉貴の容態は?」
天城の下らない主張に付き合っている時間は無い。




