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鬼多見奇譚 参 戦慄の人造神  作者: 大河原洋
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スーパーシミズ

 頬がくすぐったい、また梵天丸が舐めている。


「わかった、わかったから……」


 薄《うつす》らと眼を開ける。だが、瞳に映ったのは見慣れたクロシバの小さな顔ではなく、大きな紅い犬の顔だ。


「政宗ッ?」


 そこに居たのは、白い毛が血で真っ赤に染まった政宗だった。


「大丈夫か?」


 鬼多見悠輝は慌てて身体を起こし、政宗の身体を調べた。怪我は無い、ならばこの血は誰の物か? その答えはとっくに知っている。悠輝はゆっくりと政宗から視線を外し、部屋の中を見回した。


 思わず呻《うめ》き声が漏れる。バックヤードは血の海だ。


 倒れている三人の男に視線を向ける。一人目の首は完全に胴体から離れ、二人目はまさに首の皮一枚で繋がっていた。最後の一人は、首の付け根の下に大きな裂け目が出来ている。彼だけは直ぐに死ねず苦しんだ、血溜まりに藻掻いた跡がある。


「バカヤロウ……」


 馬鹿なのは自分か、殺した信者たちか、それとも耶蘇未麓か。


 全員だ。


 麻痺していたせいで加減が出来なかった。御子神一人さえ、脚を切断しないのが限界だった。ましてや三人同時に手加減など不可能だ。


 しかも、一度で仕留めなければ自分が殺られていた。


 実際、験力の使い果たし、意識を失った。


 気を失う前に銃声を聞いたように思う、弾に当たらなかったのは不幸中の幸いだ。


 悠輝は立ち上がった。


「馬鹿野郎」


 今度はハッキリと自分自身に言った。良心の呵《か》責《しやく》に悩んでる場合ではない、紫織を取り戻すためなら手加減はしないと決めたのだ。


  鬼を多く見た者は己も鬼になる、おれはもう鬼だ。


 どんなに自分の手を汚しても紫織を必ず取り戻す。いつまでもここでモタモタして居られない。アークが警察を寄こす前に姿をくらまし、紫織を追跡しなければ。


 先ず血を洗い流したい。蛇口を捻ると水が出た、水道は止められていない。悠輝は自分の顔や手脚を洗い、嫌がる政宗に強引に水をかけ血を落とした。


 後は着替えだ、外に出ると完全に夜は明けていた。シエンタの中を確認すると服があった、世羽もあの黒服から着替えるつもりだったのだ。それにスマートフォンを助手席に忘れていたお陰で、紫織の雷撃で壊されずに済んだ。


  もう移動手段としてコイツは使えないな……


 ボコボコのボディででは目立つし、そもそもアークのクルマに乗り続けるのは得策ではない。


 着替えを済ませて電話をかける。これ以上力を借りたくないが、背に腹は代えられない。


〈何の用だ?〉


 スピーカーから天城の不機嫌な声が聞こえた。


「悪いな、寝てたのか」


〈ハン、別件を終えて、ティーブレイクしていただけさ。ついでに、キミの姪っ子にも会ってきたぞ〉


「えッ? 朱理の様子は?」


〈残念だったな、すっかり刹那ちゃんの妹だ。もう、叔父さんはいらないな〉


 嫌がらせと判っていても腹が立つ。


「三瓶、そうか。無事で良かった、茂子。教えてくれてありがとう、サンペイ。手間をかけて悪かったな、シゲコ」


〈だ~か~ら~ッ、ボクは三瓶でもなければ茂子でもない! 天……〉


「それより、頼みがある」


 まだ、頭にきていたので強引に割り込む。


「至急、おれと政宗を回収に来てくれ」


〈何だって?〉


「紫織の救出は失敗だ……」


 無意識に声のトーンが低くなる。


〈キミと政宗くんに怪我は?〉


 天城も真剣でテキパキした口調に変わた、意識を『探偵』に切り替えたのだ。


「ない」


〈良かった、相手は?〉


 悠輝は少し言い淀んだ。


「……三人殺った」


〈そうか、返り血を浴びたりしてないか?〉


 悠輝の言葉にも動じず、淡々と情報を聞き出す。


「浴びたが、洗い落として着替えた」


〈念のために聞くが、政宗くんにも血は付着してないな?〉


「大丈夫だ」


〈よし、アークのクルマを使わずにボクを呼んだのは正解だ。

 なるべく人目に付かない所に移動しろ、ボクはGPSで追跡する。

 バッテリーは?〉


 スマホから耳を離して画面を見る。


「二〇%を切ってる」


〈少ないな、この通話が終わったら緊急時以外スマホを使うな〉


「わかった」


 電話を切ってポケットに入れると、政宗と共に徒歩で移動を開始した。今後の行動に頭を悩ませながら。


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