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鬼多見奇譚 参 戦慄の人造神  作者: 大河原洋
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ビジネスホテル

 天城は、朱理が宿泊しているビジネスホテルに来ていた。訪問の目的は、アニメ『鬼霊戦記』のツアーイベントに出演している、島村舞桜という新人声優を送り届けることだ。


 昨夜遅く、行方不明になった舞桜を探して欲しいと、彼女のマネージャーから仕事の依頼が来た。普通の探偵なら断る状況だが、彼女はただの探偵ではない、名探偵天城翔だ。夜が明ける前に舞桜の居場所を突き止めた。




 そもそも難しい案件ではない。新人の女性声優が地元のイベント途中で失踪となれば、原因は痴《ち》情《じよう》のもつれの可能性が高い。両親、親しかった友人と辿《たど》っていき、元カレの菅《すが》知《とも》巳《み》に行き着くまでさほど時間はかからなかった。


 菅の住所に押しかけたら、案の定、舞桜がいた。彼女は菅に、寄りを戻さないとリベンジポルノをすると脅されていたのだ。天城は菅に全てのデータを破棄させ、舞桜を連れ戻そうとした。当然、彼は抵抗したが、天城は彼の眼の前で自分が着ている服を破った。


「残念だけど坊や、キミはボクをレイプしたんだ。ここに居たのは島村さんじゃなく、ボクだ。

 留年している大学を退学したくないなら、素直に言うことを聞け。

 それに探偵ってのは、いい弁護士と組まなきゃ仕事をやってられない仕事なんだ。この意味、わかるか?」


 菅には天城の言わんとする事が理解できたらしい。それ以上逆らわず、彼女の指示に従いデータを消去し、舞桜を解放した。




 舞桜をホテルに送り届けると、早紀と高尾が出迎えてくれた。高尾に舞桜を託すと、天城は早紀に頼み、朱理の宿泊している部屋に案内してもらった。ドアが開き、中から朱理が顔を出した


「三《さん》瓶《ぺい》さん!」


 天城は人差し指を左右に振った。


「チッチッチッ、ボクの名前は天《あま》城《ぎ》翔《しよう》だと言ったろ、朱理ちゃん」


「この娘《こ》も朱理じゃありません、御堂永遠です」


 すかさず早紀が訂正する。


「おっと、ボクとしたことが失礼。

 改めてお早う、永遠ちゃん」


「お早うございます」


「取りあえず、私は刹那を起こします」


 早紀は部屋に入って、乱暴に刹那の身体を揺すった。それでも刹那は「あと五分……」とか「今日は学校休む」とか言ってなかなか起きない。


「あの、ボンちゃんたちは?」


「みんな無事だ。今のところ、アークが何か仕掛けてくる気配もない」


 本当は仕掛けられたが、余計な心配をさせたくない。牧田診療所のことはニュースになっているから、朱理の耳に入らないよう早紀に頼んでおいた。彼女なら朱理が診療所の襲撃を知っても、上手くフォローしてくれるだろう。悠輝と政宗は、紫織の救出に向かったと明人から連絡があったが、二人が今どうしているかは情報が無い。


「よかった……」


「ボクとしてはヤツラが現れた方が、大義名分ができるから嬉しいんだけどね」


「え?」


「いや、何でもない。それより、永遠ちゃんも着替えたら」


 朱理はナイトウェアのままだった。


「はい。あ、どうして桑高のブレザーを着てるんです?」


「ああ、コレ? 『鬼霊戦記』に桑高をモデルにした学校が出てくるから、そのリスペクト」


 破いた服を着替えるついでにコスプレをしたのだ。制服だけではなく、靴《くつ》や鞄《かばん》も当時の物を身に着けている。


「は、はぁ……」


 困惑する朱理を見て、まだ人生経験が少ないから仕方ないか、と勝手に納得する。


 朱理とようやく起きた刹那は手早く身支度を調えて、早紀が朝食に買ってきたおにぎりを食べ始めた。


「そのまま聞いてください、島村さんに関してと今日のスケジュールについてです」


 眠そうにしていた刹那の表情が一変した。


「見つかったの?」


「ああ、もちろんだ」


 早紀に変わって天城が答えた。


「舞桜ちゃんは今どこッ?」


 飛び出す勢いで立ち上がった刹那を、天城は手で制した。


「高尾さんが部屋に連れて行った、今はそっとしておいた方がいい」


「それって、無事じゃないってこと?」


「怪我はしていない。ただ、憔《しよう》悴《すい》しているから、少し休めば回復するだろう」


「何があったの?」


「守秘義務があるからボクの口からは言えない。本人か依頼主に聞いてくれ」


「じゃあ一つだけ答えて、解決できた?」


 刹那は舞桜の失踪の原因に、超常現象が関わっていないかと案じているのだ。


「もちろんだ、これは探偵の仕事だからね」


「そう、ならいいわ」


 刹那はホッとしたように座り直した。


「喜んではいられません。島村さんが回復するまでには、まだ時間がかかります。しかし、八時にはバスに乗って阿《あ》武《ぶ》隈《くま》川《がわ》に移動です」


 刹那と朱理が同時にスマホで時間を確認した、仕草が似ていて本当に姉妹みたいだ。


  血の繋がらない姉妹ってのも萌えるなぁ。


 バカな事を考えている場合ではないが、心の余裕を失ってはならない。


「高尾さんとも話した結果、ツアー会社には体調不良で阿武隈川散策は欠席、次の『鬼《き》霊《りよう》戦《せん》記《き》星《ほし》見《み》会《かい》』から復帰すると伝えます」


 早紀は言葉を止め、朱理に視線を向けた。


「そこで、あなたに島村さんの代わりとして、娑羯羅《しやがら》のコスプレで参加してもらいます」


 早紀はここで口調を改め、申し訳なさそうに朱理の役割を説明した。ツアー参加者と会話をする事になるため、ボロを出さずにプロダクションブレーブの研修生、御堂永遠として対応して欲しいと言うのだ。


「でも、あたしの衣装だと永遠に大きいかも」


「それならボクに任せてくれ」


 コスプレの一部である学生鞄の中から裁《さい》縫《ほう》道具を取り出す、備えあれば憂い無しだ。


「レイヤーとしてのたしなみだからね」


 朱理に衣装を着せると、手早く仮縫いしていく。


「ゴメンね。ファブっといたけど、昨日あたしが着たから汗臭いでしょ」


 刹那が恥ずかしそうに詫びる。


「ボクならむしろ大歓迎だね! 刹那ちゃんみたいな美少女の汗の匂いなら、お金を払ってもいいよ」


 朱理は何か言いかけて止め、刹那は気持ち悪そうに天城を見つめた。


  おッ、いいね! その蔑《さげす》んだ眼ッ!


「そんな顔することないだろ? それだけの価値が君にあるって事なんだから」


 価値があるのは本当だが、その表情は止めないで欲しい。


「そんなのいりません!」


 やれやれと天城は肩をすくめながらも、思わぬご褒《ほう》美《び》に喜んで、瞬く間に仮縫いを終えた。


「後はメークだな」


「メーク?」


 朱理がキョトンとする。


「すっぴんで行くわけには行かないだろ?」


「そう……なんですか?」


 確認するように、早紀と刹那の顔を交互に見る。


「仕事で人前に出るんですから、当然必要です」


「もちろん、プライベートの時はいいけどね。あたしのメーク道具貸してあげる」


「じゃあ、そっちもボクに任せてくれ、刹那ちゃんに似せよう」


 今度は美少女の顔にお触りし放題だ。


「そんなこと出来るの?」


「レイヤーの、いや、探偵のメーク技術をなめるなよ。あ、このお代は刹那ちゃんのスメルでいいよ」


 刹那がまた嫌そうな顔をする。


「マネージャー、この変態探偵、何とかして」


「刹那の匂いでいいなら、好きなだけ嗅いでください。それで経費が節約できれば願ったり叶ったりです」


「ちょとォッ」


 コスプレ、否、変装をするための技術を駆使し、メークで朱理の顔を刹那に似せた。


「じゃあ、ボクはこれで失礼するよ」


 天城は表情を引き締めた。


「刹那ちゃん、荒木マネージャー、永遠ちゃんをよろしくお願いします」


 深々と頭を下げる。


「頼まれなくたって、永遠はあたしの妹なんだから」


「悠輝くんに伝えてください、姪御さんは必ず守ると」




 天城はキャンピングカーに戻ると、シートに身を沈めた。


 さすがに疲れた、少し仮眠を取りたい。そう思いながらも、テレビのスイッチを入れる。丁度、ニュースが放送されており、明人の顔が映し出された。思わず笑みがこぼれる、作戦通りだ。


 そう言えば、悠輝からまだ連絡がない。信者幹部の脳内をスキャンし、得た情報から紫織を助けに向かっている。


  やはり、罠だったのか。それとも……


 考えていると、うつらうつらし始めた。その途端、スマホの着信音が鳴り響く。天城は毒突きながら電話に出た。


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