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第七話 証拠提出と検証作業

蓮の放った言葉によって、部屋の中にいた大人たち全員が動きを止める。

それはそうだ。蓮の言ってる事が事実なら、この会議の全てが終了する、というよりも無意味と化す。


「……それはどういう意味かな?」

「言葉通りだけど?」


事態が事態な為、安易な言葉を鵜呑みにする訳にはいかない。そういう意味を込めて鮫島は訊ねたのだが、蓮の返事は素っ気ない。

思わず怒りで身体が震えそうになるが、大人の意地として怒鳴り散らすような事はせず、再び鮫島は蓮に訊ねる。


「……つまり、件の特殊個体はもう既にキミたちの手で討伐されている、という事で間違いは無いかね?」

「そゆこと」

「それを証明する事は出来るかね?」

「勿論」


証明出来ないのなら聞き入れる訳にはいかないと考えていた鮫島であったが、幸いな事に蓮は証明出来るという。

それなら話が早いと、その証明を行うよう鮫島は視線で促す。


「はいはい。分かってますよ。華、アレ出して」

「お、おおおおう。ちちちょっと待てて」

「……あ、ちょっとお待ちを」


蓮もそれに応えようとしたのだが、何故か華が大変愉快な状態になっていた為、一旦タイムを取る事に。


「……どした? ガッタガタじゃねえかお前」

「おおま、お前な!? 何であんな煽るような事言うんだよ!? めっちゃ針のむしろだぞ! アタシがこういう空気苦手だって知ってるだろ!?」

「あー……」


華の叫びを聞いて、そういやそうだったなと蓮は頭を掻く。

華はどういう訳か、人間同士でピリついている空気が苦手なのである。本人曰く、幼い時から何故かそんな場面にばかり遭遇して、それがトラウマになっているとの事。ただ、荒事の空気が苦手という訳では無いらしく、直接手を出されたり、露骨に悪意を向けられたりすると、一周まわって大丈夫になるそうだ。

自分の近くで発生する、険悪な方向に張り詰めた空気だけが本当に苦手らしい。


「ったく、しゃあないな……」


華のトラウマを刺激してしまったのは蓮の落ち度だが、このままではまともに話す事すら出来そうにない。

仕方ないと溜息をついた蓮は、華の背中をトンと軽く叩く。


「ーーカハッ!? っハァ、ハァッ!」


すると何故か、華の身体が激しく跳ねた。

軽く叩いたレスポンスにしては大袈裟過ぎるように思えるが、ゲホゲホと激しく咳き込む華の姿を見る限り、演技の類では無いと理解出来る。

一番近くにいた水戸が慌てて駆け寄り、何の躊躇も無くその背中を摩った程だ。


「おまっ、いきなり何しやがる!? 胃がひっくり返ったぞ!?」

「喝入れたんだよ。ほれ、これでちゃんと喋れんだろ」


被害者である華が激しく抗議しても、下手人である蓮は涼しい顔でそんな事を宣う。

確かに蓮の暴挙によって、マトモに喋れるようになった。だが、明らかに被害と得られる効果が釣り合っていない。というか、今のアレは喝を入れるなんて生易しいモノでは断じてない。


「何だってんだ今のは……」

「活法って言ってな。調整した氣をちょっと強めに流すんだ。そうすると身体の機能の一部が瞬間的に跳ね上がるから、上手い具合に気付けに使える。本気でやると死体だって飛び起きるぞ。死後数分以内って条件がつくがな」

「そんなぶっ飛んだ電気ショックみたい奴、人に使ってんじゃねえよ!」

「活法がいっちゃん手っ取り早くて効くんだよ。良いじゃねえか」

「良くねえよ!?」


華の文句はとても正当な物なのだが、やった本人はのらりくらりと聞き流してしまっている。これでは何を言おうが無駄だ。

そして地味に腹立たしいのが、活法を食らってから意識が明らかにクリアになっている事である。気付けの効果が高いのは事実なようで、その上身体の方も良い感じに解れている感じがする。

無駄に高いマッサージ効果を実感しているせいで、イマイチ真剣に怒れないのだ。


「というか、お前があんなガッタガタになっているのが悪いんだぞ。普段は気が強い癖に、妙な所で繊細だよな華って」

「う、うるさいな! というか、アタシじゃなくてもビビるわこの空気! 何で普通に進めないんだよ!?」

「ギスギスした空気好きだから」

「このクソガキ!!」


ぬけぬけと責任転嫁した上で、更にとんでもない事を宣う蓮。思わず華が拳を握ったのも、仕方のない事である。

特に蓮の場合、今の台詞を煽りでなく本気で言っているのだからタチが悪い。戦いを愛する蓮にとって、ピリついた空気は本当に心地良いものなのだ。ナチュラルに無礼を働くのもそれが原因で、荒事の気配を察知すると、人を刺激するような態度に無意識で変化するのである。

そんな悪癖が現在炸裂している訳なのだが、さてどうしたものかと華は怒りながらも考える。これが外ならば、容赦なく殴った後に蓮を引っ込ませる。だが、この場でそれをするのは不味い。というよりも、やりたくない。やっても許されそうなぐらいには同情的な視線が向けられているが、それとこれとは話が別だ。

結局、華はとても大きな溜息を吐くだけに留めて、本題の方に戻る事にした。勿論その際、蓮の座っている椅子を引っ張って下がらせるのも忘れない。


「……はぁ。何かすみません。本当にご迷惑を」

「い、いや。我々としても、かなり不躾な視線を桜さんに向けていたようだ。こちらも謝罪する」


幸いというべきか、この場にいる大人達はちゃんと人間が出来ているようで、一連のやり取りに対して嫌味の一つも言ってこなかった。

むしろ、同じチームというだけ蓮の同類と認識していた事を、逆に謝られた程である。


「それで、特殊個体の討伐の証明ですよね? 今出しますので、少々お待ちください」

「ああいや、慌てなくて大丈夫だよ。ゆっくりで構わない」


そのお陰か、華に対する大人たちの態度は柔らかい。勿論、華が丁寧な対応を心掛けているというのが一番の要因である。

そんな訳で、華は落ち着いた状態で宿儺の魔石とドロップ品を出す事が出来た。


「なんと……!」


いの一番に反応したのは、研究者である水戸だった。


「未確認の薬品がこんな量で! ……それにこっちは、まさか魔石ですか?」

「恐らく、ですけど」

「て、手に取っても?」

「あ、どうぞ」


魔石に関しては、どうせダンジョン研究所行きになる代物なので、華はあっさりと許可を出す。ギラギラした目で見つめる水戸が、少々恐ろしかったという理由もあったが。

そして、許可を得た水戸の動きは迅速であった。何処からともなく取り出したゴム手袋を装着し、慎重な動きで魔石の検分を始める。

そして約一後。


「ーー素晴らしい! これ程の大きさ、色合いの魔石なんて初めてです! いや、これはもはや魔石とは別物。取り敢えず、宝石のような見た目ですし、【魔宝石】とでも呼びましょうか。いやはや、私に鑑定スキルがないのが悔やまれますな。これほど見事なものがお目にかかれるとは」


じっくり眺め続けた結果、最高品質の魔石の名称は【魔宝石】と仮付けされた。名称が仮付けなのは、鑑定スキルと呼ばれるレアスキル(効果が判明した場合強制的に国に買い取られるスクロールのうちの1つ)の効果が優先されるからだ。因みに鑑定スキルの効果は、創作物でもよくある物質の備える効果、及び人物に宿るスキルを判別できるというトンデモない代物だったりする。

尚、これは余談だが、スクロールのようなどう考えても人知の及ばぬ代物は兎も角として、未発見の鉱石、液体、素材などは例え鑑定スキルで解明されたとしても、ちゃんとした研究が行われる。未知の物質を未知の能力で判別したところで、はいそうですかとはいかないのだから当然である。


閑話休題。


「いやはや。主任の代理で来ましたが、これは後で文句を言われますね」

「あ、そういえば今更ですけど、柴崎さんは来ないんですね。特殊個体とか真っ先に飛んできそうなのに」

「あはは。実際飛んで来ようとしましたよ。ただ、主任だと説明だけでかなりの時間を消費しかねませんから。あんまり時間を掛けるのは宜しくないという判断で、詳細が分かるまでは私が代理で派遣されたんです」

「あー……」


水戸に苦笑と共に説明され、柴崎の人となりを知る華も思わず納得してしまった。

ダンジョン研究所の主任である柴崎は、あの傍若無人の蓮をして苦手と言わしめたある種の傑物だ。あんな濃い人物、一刻を争う可能性のある現場に放り込める訳が無い。水戸を代理で派遣したのは、正しく英断と言えるだろう。


「まあ、この様子ですと、主任が来ても問題無かったでしょうけど」


そう言って、水戸は肩を竦める。それは専門家である水戸が、魔宝石が宿儺の物であると判断したという事である。


「……それはつまり、この品々は件の特殊個体の物で間違いないと?」

「少なくとも、従来のモンスターから採れる物では無いです。多少のバラツキはあれど、深層の魔石でもここまでの物は採れないでしょう。もしあるとすれば超深層と呼ばれる領域のモンスターか、証明不明の特殊個体と呼ばれるモンスターだけかと」

「確証がある訳では無いという事ですか……」

「まあ、そうなりますね」


あくまでも可能性が高いというだけで、確証がある訳では無い。それを水戸が認めると、他の大人たちは全員渋い顔をする。


「彼等が偽りの報告する理由は無いと思いますよ? 別に特殊個体に賞金が掛けられてる訳でも無いですし、得られる名誉にしても、人類初の超深層到達者の方が大きいですし」

「いえ、別に彼等の虚言を疑ってる訳では無いのですよ」


水戸の補足に関しては、この場にいる全員が承知している。

その上で木村は考える。【ロータス】の言っている事は事実だろう。何せ水戸の言った通り、嘘の報告をするメリットが一切ない。賞金は無く、得られる名誉も大した物じゃないのだ。ドロップ品という物証を提出してまで騙るには、リターンの方が少なすぎる。

だが、だからと言ってそれだけで決定を下す訳にはいかないのだ。多分特殊個体は討伐されたので大丈夫ですと言って、その後被害が出たら目も当てられない。

となるとやはり、ダンジョンを一時的に封鎖した上で、調査隊を突入させるべきか。


「あ、あの。一応、ドロップ品だけじゃなくて、特殊個体との戦闘シーンの録画があります」


そう木村が結論付けようとした所で、華から追加で小型のアクションカメラが提出された。


「え、映像あるんですか!?」


思わず、といった様子で木村が叫ぶ。思考を纏めようとした所で、決定的証拠となり得る物を提出されたのだから無理は無い。

華の方も、カメラを出すタイミングを少々外してしまった事に、バツの悪そうな顔をしていた。


「えっと、ダンジョンって何が起こるか分からないんですよ。モンスターもそうなんですけど、探索者通しの揉め事とかも中では起こるんです。そんな時用に、探索者はカメラを持ってるんです」

「あー、そういえばそうでしたね」


そう言われて木村も思い出す。探索者制度が成立して間もない頃に、探索者同士の諍いが続出した事があった事を。

それは単純な言い争いから、喧嘩、恐喝、強姦、殺人といった凶悪犯罪まで。一時期は、ダンジョン内での犯罪が社会問題にもなった。

ダンジョンはその性質上、監視カメラという物が存在せず、警察もいない。そもそも内部にいる人間も疎らだ。更にはモンスターという外敵まで存在し、誰が武装していても疑問に思われない。犯罪の現場になるには、条件が整い過ぎていたのだ。

今でこそ制度面の強化や、特殊な訓練を詰んだ自衛隊と警察の合同部隊によるダンジョン内の巡回、探索者同士の横の繋がりの強化などで、犯罪は当時より激減している。それでもそうした不埒者は存在する為、犯罪を回避する為の様々な手段が講じられた。

その一つが小型カメラである。扱いとしてはドライブレコーダーと同じで、何か起きた際の映像証拠とするのである。一部の探索者は更にそれを応用し、連携の強化や確認用としても用いている。

華もその内の一人で、蓮が何かやらかした際の記録用にも使っているのだ。


「一応、私たちは、というか蓮は特殊個体がいる事を知った上で挑んだので、何かあった時用に録画はしといたんです」

「……ああ。そういえばキミたち、特殊個体を目撃したパーティーと出会ってましたね。報告で聞きましたよ。甚平を来た少年のいるパーティーが、制止を振り切って特殊個体を探しに行ったって」

「マジかよ……」


千田川の呟きを聞き、華は思わず素の言葉が漏れてしまう。

ただでさえ【ロータス】は、小川公園ダンジョンの探索者間で色物扱いされているのだ。原因は主に蓮なのだが、一緒にいる華も不本意ながら同類扱いされている。そこに更に妙な噂が上乗せされると考えると、華は頭を抱えてしまう。


「あー……まあ兎も角。コレに映像が入っているのだね?」

「あ、はい」

「では千田川さん、この場でこれを確認する事は出来ますか?」

「大丈夫ですよ。【ロータス】に映像を提出して貰うのは、以前もあったので」


千田川は華に失礼と断りを入れた後、カメラとその他オプションを拝借して、備え付けの機材へと接続する。

その姿を横目に見ながら、鮫島は一安心したように呟く。


「いやぁ、良かった。映像証拠があるのなら、我々も余計な労力を割かずに済む」

「あ、どちらにせよ、自衛隊の方々には調査をお願いしたいのですが」

「それは承知していますとも。ですが、大きな危険が有るのと無いのとでは、部隊の者たちの精神的な疲労は段違いです。特殊個体が討伐されているという明確な証拠があるのは、やはりありがたいものですよ」


部下たちの命の危険がグンと下がった事で、鮫島の纏う雰囲気は一気に軟化していた。先程まで険しい表情で話し合っていた木村に対しても、にこやかに対応している程だ。


「あのーー」


だからこそ、華はそこに水を指すのは少々心苦しかった。


「ん? どうしたのかね、桜さん」

「いえ、その、実を言うと映像なのですが、私も確認した訳では無いんです。私自身録画してから初めて観るので、ちゃんと撮れているのかが……」

「ああ。映像の内容の事ですか。戦闘中というのは我々も理解しています。特殊個体が討伐されたという確認さえ取れれば、多少粗くても文句はありませんよ」


華が映像の質について心配していると判断した木村は、安心させる意味も込めて穏やかな口調で問題無いと宣言した。

この場に人間にとって大事なのは、特殊個体が討伐されているかどうかの一点のみだ。それさえ映像に収められているのなら、どんなに内容だろうが文句は無いのである。

なので心配無用と断言したのだが、華は依然として気まずそうな表情を浮かべていた。


「いえ、そこに関しては大丈夫だと思います。死体も取りましたし。ただーー」

「ただ?」

「ーーとても荒唐無稽な内容ですので、信憑性に不安が。というか、そもそもマトモに映っているのかどうかが……」


そう華が零すのと同時に、千田川から準備完了の報告がなされた。

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