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第五話 探索終了と人間失格

途中何度かの戦闘を挟みながらも、二人は無事に転送陣のある部屋、所謂【安全圏】と呼ばれる部屋に到着した。


「ほれ。無事着いたぞ」

「おう。護衛ご苦労さん。ただ、その自分が案内したかのような台詞はやめろ。お前アタシのナビに従ってただけじゃねえか」


軽口を叩きながらも、華はゆっくりと肩の力を抜く。安全圏と呼ばれるだけあって、転送陣のある部屋にはモンスターは入ってこない。なのでここまで来れば、探索はほぼ終了したと言って良いのである。

軽く伸びをして、数時間ぶりにリラックスする。張り詰めていた緊張の糸が弛む感覚は、地味に華が好きなものだ。


「くぅ〜っ。この瞬間は堪んねえなぁ」

「ジジ臭い」

「せめてババアって言え! いや、ババアも失礼だけど!」


色っぽい声を出す華を、蓮はバッサリと言葉の刃で切り捨てた。

二重の意味でうら若き乙女に向けて良い言葉では無かった為、華が怒鳴り返すのも無理は無い。相変わらず、デリカシーを筆頭とした感性を働かせない男である。


「お前と違ってこっちは多少なりとも疲れるんだよ。モンスターの出るダンジョンなんだぞここ」

「まるで自宅のような安心感だよな」

「それはテメェだけだ腐れキチガイ」


その時の華は、理解できないナマモノを見るような目をしていた。

幾ら信頼してようとも、悪い所も苦笑いしながら受け入れていようとも、蓮のこの感性だけは華は理解しようとしない。というより、してはいけないと考えている。そこを並び立つ自分が認めてしまったら、蓮は行き着く先まで行ってしまうという確信があったからだ。

出来ない事をお互いで支え合い、欠点すらも許容してみせる、ある種の熟年夫婦ような貫禄を持つ二人であるが、その一点をもって絶対に交わる事は無いのである。


「ったく。ほらとっとと帰るぞ。早く帰って風呂入りたい」

「あー、それは確かに」


汗を流したいというのは、蓮も同感であった。疲れてはいる訳では無いが、今日は一応宿儺の血も浴びている。モンスターの一部なので、綺麗に消えている事は分かっているし、そもそも氣で弾いてはいたので問題は無いのだが、気分的にはやはりシャワーで流したくなる。

戦いに満ちているダンジョンが、自宅のように感じるというのは嘘では無い。だがやはり、リラックスするという面では自宅の方が勝るのだ。

そんな訳で、二人は安全圏にある二つの転送陣のうち、帰還用とされる方の上に乗る。

すると二秒程して転送陣が輝き始め、一際大きな輝きが放たれるのと同時に、二人は六層から転移した。


「ーーっと。ちょっとラグがあったな」

「先に誰かいたんだろ」


一瞬の浮遊感に包まれた二人は、またしても同じような場所に立っていた。

ここがダンジョン一層の安全圏、という訳ではなく。二人がいるのは、五層の安全圏であった。

一応言っておくが、これは転移のミスではなく、転送陣の仕様である。現在判明している転送陣の仕組みを、アルファベットを使って簡単に説明しよう。


転送陣【A】【B】【C】があるとする。

まず基本として、【A】の転送陣の上に乗ったモノは【B】の転送陣に転送される。なので【A】から【C】という風に対応していない転送陣には跳ぶ事は出来ない。また、転送陣は一方通行な為、【B】から【A】といった風に逆走する事も出来ない。

次に、新たな転送陣を解放する方法だ。次の階層に進むには、その階層のボスを倒す必要がある事は既にご存知だろう。このボスを倒した際、魔石やドロップと一緒に五分間だけ転送陣が現れる。これを使用すると次の階層に進めふようになり、以降は転送陣によるショートカットが可能になる。そういう理由から、この制限時間付きの転送陣は【登録陣】と呼ばれる。

注意点としては、ボスを倒しても登録陣を使用しないと、転送陣にショートカット先として登録されないという事が分かっている。検証によってその逆、所謂【キャリー】も可能であるという事も判明しているが、怠慢の代償は命で払う事になる為推奨されていない。


とまあ、これが現在判明している、転送陣に関する大まかなルールだ。詳しく語ると長くなるので、細かい部分はまた後々。

取り敢えず、転送陣=エスカレーターとイメージしたら分かりやすいだろう。実際、細かい仕様の部分で無駄に類似点がある為、大抵の探索者は転送陣をそう認識している。


「毎度思うが、何でこれパッパッパッといかねえのかね?」

「エスカレーターだからだろ」


例えば、転送陣は連続でそのまま使用する事は出来ず、一度降りて再び乗らなければ使えないという所。階層ごとに微妙な乗り換えを必要とする辺り、本当にエスカレーターっぽい。

実際、探索者の間では、転送陣を使用する際にはエスカレーターと似たようなマナーが出来上がっている。


転送陣使用のマナーその一。【A】から【B】に移動した際、【B】を使用する為の待機列があったら、連続で使おうとせず最後尾に並ぶ。


マナーその二。転送先の陣に先客がいたら転送陣は使えないので、【A】から【B】に移動したら、後がつかえる可能性があるので速やかに陣から降りる。


マナーその三。誰も乗っていない転送陣が輝き始めた場合、数秒後に転送者がやってくるのでスペースを開ける。また、転送陣に乗るのは陣が光っていない時。


マナーその四。負傷者優先。


とまあ、こんな感じのマナーが何時の間にか出来上がっていたのである。これは初心者だろうがベテランだろうが守らなければならず、守らなかった場合は探索者全員からマナー知らずの烙印を押されてしまう。

なので一流かつマイペースな蓮であっても、この辺りのマナーはしっかりと守っている。表面上は一応日本人をやっているのである。

まあ幸いな事に、今回は先客などいなかったので、比較的サクサク帰還する事が出来た。


「にしても、今日は意外と早かったな。ラッシュからズレたとは言え、何時もはもうちょい掛かるのに」

「今何時だ?」

「八時過ぎ」

「なら確かに早いな。長い時は十分ぐらいするし」


普段よりもスムーズに進んだ事に首を傾げながら、二人はダンジョンの出入口に向かう。一層の安全圏はダンジョンの出入口と繋がっている為、そのまま外に出る事が出来るのだ。

そうして出入口を通ると、迷宮じみた石造り景色はうって変わり、見慣れた日本の住宅街が現れた。

後は帰還報告などの作業を、ダンジョンに併設されている探索者協会の支部で行えば、本日の探索は終了である。


「うっし。じゃあ蓮、アイテム出しに行くぞ。今日はお前も来てくれ」

「あー、宿儺関係か……。面倒だけど、しゃあなーー」

「オイ! また一組帰ってきたぞ!!」

「んあ?」


渋々と蓮が頷きかけたその時、誰かの緊迫した声が響いた。

その声に釣られて二人が周囲に意識を向けると、妙に辺りが騒がしい。適当な人物に状況を聞こうかと華が思案していると、丁度良く探索者と思われる男が駆け寄ってきているのを確認する。

これ幸いと話掛けようとした所で、男がやけに切羽詰まっている事に気付く。


「無事かキミたち!?」


開口一番でいきなり安否確認をされ、流石の二人も面食らった。特に蓮は、何故そんな見て分かるような事をわざわざ訊くかと、本気で考えていた。


「見ての通りだけど。オッサンこそちゃんと目見えてる?」


だからこそ、とんでもなく失礼な事を宣ってしまった。

これではどう意訳しても、『お前の目は節穴?』という挑発である。


「お、おう!?」


明らかに年下の少年に、唐突かつとてもナチュラルに無礼を働かれ、仮称オッサンは面食らったようなリアクションを取る。流石にこの反応は予想外だったようだ。

慌てて華が蓮の頭をどつき、探索者と思われる男に頭を下げた。


「すいません! コイツ、その手のマナーが全く出来なくて!」

「い、いや、大丈夫だ。気にしてない。此方も少し不躾だった。ただ、相手によってはトラブルになるから、次から気を付けなさい」


どうやらかなり人間の出来た人だったらしく、蓮の無礼はしっかりと注意した上で見逃された。

余計なトラブルが起きずにホッと胸を撫で下ろした華は、途切れた話題を再開させる。


「それで、何かあったんですか? やけに物々しいですけど」


蓮をどついた手前、華も普段の乱雑な口調を控え、比較的丁寧な口調で話を進める。尤も、蓮と違って華はちゃんと常識があるので、初対面の相手には基本敬語だったりするのだが。

まあ、普段を知ってる蓮からすれば違和感を覚える光景なので、横で眉を顰めていたのはご愛嬌だろう。

まあ、そんな仲良しコンビ特有の心の機微はさておき、今の状況である。一体どうしたというのか。


「ああ。実は少し前に戻ったパーティーから、ある報告がされてな。六層に、最近聞くようになった特殊個体と思われるモンスターが現れたそうだ。あ、特殊個体ってのは、今までその階層では確認されていない、明らかに異常なモンスターの事を言う」

「ああー……」

「で、そいつが確認された為、このダンジョンは一時的に封鎖された。今、探協が自衛隊に調査チームの編成を依頼している所だ。その間に、探協職員と私のような有志の探索者で協力して、未帰還パーティーのリストを作ってる。被害者を割り出す意味でもな」

「な、なるほどー……。それでこの騒ぎですか」


言われてみれば納得の理由だった為、つい華は呻き声を上げる。

いや、華としても宿儺関係の可能性は頭に浮かんではいたのだが、まさかここまで対応が早いとは予想していなかったのだ。てっきり、宿儺の件とは別に何か問題が起きたのかと思っていた。


「でもそれにしては、対応早くないですか? 報告があったのは少し前なんですよね?」

「……中層を探索予定と事前書類に記入したパーティーの内、七組が帰還予定時刻を大幅に超過している事が、特殊個体の報告の後に発覚したんだ。全員がそうとは思いたくないが、少なくない人数が殺られていると可能性があると探協は判断した」

「なるほど……」


それは確かに、探索者協会が即座に動いてもおかしくないと華は判断した。

安全に探索するには小火器が必要と言われるぐらいには、中層のモンスター達は手強いのだ。敵が一体ならば、武器を持った人間が複数で掛かれば倒せはする。だが、敵が二体以上になった場合、小火器を使わなければ常人ではまず殺されるレベルである。

そんな魔境を狩場にしているのだから、中層の探索者達は皆常人離れしている。特に火器の類が規制されている日本ではそれが顕著で、氣や魔法といった特殊技能を扱えたり、集団での戦闘が無駄に巧みだったりと、世間一般でいう超人が多数存在しているのだ。

そんな超人達が大量に殺された可能性が出てきたのだから、探索者協会もさぞ慌てた事だろう。


「とまあ、それが今の状況だ。不安にさせるような事を言うが、かなり切羽詰まっている。そんな訳で、キミたちのパーティー名を教えてくれ。未帰還組のリストは、出来る限り早く完成させておきたい」


そう言いながら、男は手に持っていたファイルを開く。話の流れからして、ファイルは探索者協会から与えられた物だろう。

探索者はダンジョンに入る前に、同意書や誓約書、探索予定などを記入して協会に提出するのが規則となっており、協会はそれを使ってダンジョンや探索者の管理を行っているのだ。

今回の場合だと、探索予定表を元に帰還組と未帰還組を分けていると思われる。


「えっと、私達は【ロータス】っていうパーティー名です。……正確にはコンビ名ですけど」


華が協会に登録されているパーティー名を告げる。

因みにロータスの由来は、二人の名前が【蓮】と【華】だからである。単純で被りにくそうという理由と、蓮華は流石にドストレート過ぎるという判断で、このパーティー名となった。


「ロータスか。ちょっと待て。ろだから……らりる……ん? ロータス?」


蓮達のパーティー名を確認した男は、怪訝そうな顔でファイルを眺める。


「キミたち、本当にパーティー名は【ロータス】で間違いないのか?」

「え、はい。そうですけど……」


男に謎の確認をされ、戸惑いながらも華は頷く。

すると男は、二人の前で探索者協会の備品と思われる携帯を開き、何故か電話を掛け始めた。


「あ、佐久間です。今新たにダンジョンから帰還したパーティーの対応をしているのですが、はい。パーティー名を確認してみた所、ロータスと名乗られまして。ええ、該当するパーティーは、生存が危ぶまれていた中層のパーティーだけです。ただその、二人共かなり若くて……。何分私はロータスの人相を知らないもので。え? 格好ですか? ……信じられない事に、少年の方は甚平です。持ってるのも木刀だけ……あ、なら間違いない? 甚平着てダンジョン潜る奴は、ロータスの片割れの他にいない……はい、了解です」


どうやら話は纏まったらしく、電話中に佐久間と名乗っていた男は、携帯を仕舞った後に二人の方に向き直った。


「えっと、今確認が取れた。桜華さんと、四扇蓮君だね。確認が取れたところで悪いのだけど、二人共今から探協の支部の方に行ってくれるか? 上の人がキミたちに話があるらしい」


半ば予想していた通り、蓮と華のダンジョン探索はまだ終わる訳にはいかないようだ。

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