第四話 ドロップアイテムとMEIコンビ
ご報告ついでに投稿。
ユーザー名と作者名を『みづどり』と統一しました。そういえば昔からちょくちょく、名前が違うせいで弊害がある的なコメントを受けてたことを思い出しまして。
今更変えた理由は『今まで忘れてた』のと『ユーザー名を変更』という手段が頭からすっぽ抜けたからです
「……おおう、マジか」
「……また見た事無いのが出てきたな」
拳大の黒い宝石と、真紅の液体の入った巨大な瓶を前にして、蓮と華は呻いていた。
宿儺のドロップ品は、一流探索者である二人をしても、初めて見るものだったのである。
「この宝石は……まさか魔石か?」
「だろう、な。魔石は確定ドロップだし、他にそれらしい物も見当たらねぇ」
「にしては、サイズも色も違い過ぎるが?」
「んな事アタシに言うな。知らねえよ!」
二人が困惑するのは無理もない。魔石と推定されるそれは、二人の知る物とは大きく違っていた。
魔石というのは、ダンジョンのモンスターを倒すと確定で手に入る鉱石だ。ダンジョン発生以降知られるようになった魔力というエネルギーが多く含まれており、新エネルギー研究の為に国が常に買い取りを行っている。特にダンジョン先進国である日本では、魔石を使った新型発電所が試験的に稼働している為、魔石の買取は特に力が入れられている。
そんな魔石の買取基準となるのが、色の濃さと大きさだ。色が濃く大きい程、保有されている魔力は跳ね上がり、それに比例するように買取価格は上がっていく。
最も出回っている浅層の魔石は、総じて1cm未満の大きさで薄ら紫がかった色をしている。買取価格は大体一個あたり千円未満と言ったところ。
中層になってくると、得られる魔石に多少のばらつきが出てくるが、大体ビー玉ぐらいの大きさで、はっきりとした紫色をしている物が多い。買取価格は一個一万から三万円ぐらい。
そして深層の物になると、魔石は大体ピンポン玉ぐらいの大きさになり、色は鮮やかな深紫色をしている事が多い。深層まで辿り着ける探索者は皆無な為、深層の貴重な研究サンプルという事も相まって、買取価格は最低でも一個五十万円となる。
さて、それが現在の魔石の大まかな相場であるが、今回の推定魔石はどうだろうか。
「大きさは拳大で、色は若干紅みがかっている黒か……。完っぺきに、過去最高品質だろうなぁ。つうかこれ、もはや石じゃねえよ。宝石だろ」
「……オイオイオイ。前に深層の魔石を提出した時でさえ、結構な騒ぎになったんだぞ。それがまたかよ……」
蓮の見立てを聞き、華は深々とため息を吐いた。どうも、かつての苦い記憶が蘇ったようだ。
実を言うと、蓮と華のコンビは、現在探索しているダンジョンの八層まで足を伸ばした事がある。と言っても、それは純粋な探索の成果という訳ではなく、偶然見つけた七層の門番の部屋を前にして、我慢出来なかった蓮が嫌がる華を引き摺ってカチコミを掛けた結果な訳だが。
まあ経緯はどうあれ、無事八層に進む権利を得た二人は、簡単な探索と、モンスターの強さを確認を行ったのだ。
その際に得た魔石と、偶然ドロップした何点かのアイテムを、ダンジョンを管理する【探索者協会】の支部に査定の為に提出したのだが。
結果として、それはもう大騒ぎである。当然だ。何せダンジョンこそ違うとは言え、国が探索を断念した深層に、独力で到達したと思われるコンビが現れたのだから。
この話は即座に国の上層部に届き、探索者協会の重役や、ダンジョン研究の第一人者と名乗る研究者が二人の前に現れる事になった。そうして深層に関する数々の質問攻めや、魔石やアイテムの買い取り価格の交渉、国専属の探索者となるオファー等々、かなり小難しい話を延々と行ったのである。
「あん時は魔石とかかなり高額で買い取って貰ったが……。それ以上に面倒だった」
「お前殆ど何もしてないだろ!? 話の大半受け答えしたのアタシだぞ!」
「いやほら。戦闘関連は俺、雑務の類は華じゃん?」
「あれは雑務の範疇か!?」
明らかにコンビの今後に関わる状況なのに、マイペースを貫ききった蓮はいっそ偉大だ。
とはいえ、ああいう場面を蓮に任せた場合、碌な事にならないというのは華も気付いているので、文句は言えど任せようとは絶対に思わないのであった。
「……まあ、今回は特殊個体の討伐だけだし、あん時程面倒になる事は無いと祈ろう。一応、探協はアタシ達が深層に行ける事を知ってんだ。それを踏まえれば、まあ大丈夫だろう……多分」
「特殊個体の討伐ってだけで、柴崎さんとか突っ込んで来そうなんだよなぁ」
かつて出会ったダンジョン研究の第一人者を思い出し、蓮はゲンナリとした表情を浮かべた。研究バカと言って差し支えない人物だった為、考える前に動くタイプの蓮とは相性が悪いのだ。
「言っとくけど、そん時は蓮が相手すんだぞ」
「はぁ!? 雑務担当は華だろ!」
「いや宿儺と戦ったのお前だろう!? アタシじゃバカみたいに強かったとしか言えねえよ! 柴崎さんがどっちに行くかは明白じゃねえか!」
「えぇー……じゃあもうこれ置いて帰ろうぜ。面倒」
「お前これ幾らになると思ってんだよ……」
ドロップ品を放置してまで面倒事を回避しようとする蓮に、華は愕然としてしまう。
かつての深層の魔石でさえ、一番小さい物で五十万、大きな物では百万を超えた値段だったのだ。それを明らかに超えるであろう代物を捨て置くなど、かなり正気では無い。
「流石にそれは勿体ないから駄目だ」
「いやもう金とか要らねえじゃん。俺の口座残高幾らになってると思ってんだよ。昨日見たら二千万いってたかんな? まだ高二前の春休みでこれだぞ? これ以上増えたって使い切れる気しねえんだよ」
「うん、まあ……それはアタシも同感。妹と弟を大学に行かせたいから探索者始めたけど、一年でこんだけ稼ぐ事になるとはアタシ自身思わなかったし」
蓮の反論には、華も苦笑するしかない。
蓮は春休みを終えたら高校二年に、華は大学二年になる。社会から見ればまだまだ子供の範疇に入る二人だが、その収入は下手な社会人を容易く上回っているのだ。
「もう深層までの転送陣も使えるようになったし、去年と同じペースで潜れば、確実に年収五千万は越すよなぁ……」
「浅層は大して稼げなかったのに、中層以降から無駄に稼げるようになったからなぁ」
「お前がイレギュラー過ぎんのが問題なんだよなぁ……」
過剰収入の元凶をジト目で睨みながら、華は大きく溜息を吐く。
二人は基本、中層の後半をメインの狩場としている。中層の魔石の買取価格は、一個一万から三万円ぐらいだ。これだけなら年収数千万に届くとは思えないが、この二人の場合は事情が違う。
まず、探索者の主な収入源は、魔石ではなくドロップ品だ。ドロップ品が手に入る確率はそう高く無いが、食材、薬品、鉱石、宝物、武器、マジックアイテム等々、種類は多岐に渡り、そのすべからくが貴重品。買取価格は魔石の比ではなく、一個でも手に入ればダンジョン探索数日分の収入となる。なので殆どの探索者は、ドロップ品を求めてモンスターを倒し、そのついでに魔石を拾っているのである。
さて、これが一般的な探索者の収入パターンな訳だが、最強の戦闘狂というイレギュラーがいるこのコンビの場合は、一気に話が変わる。
まず蓮にとって、中層で出てくるモンスターは雑魚だ。普通の探索者なら神経を張り詰ませて行う戦闘も、蓮の場合は突撃してサクッと斬り伏せるだけで終了する。一回の戦闘で掛かる時間や疲労が皆無な為、そもそも戦闘の母数が違う。普通の探索者が一回の探索で倒すモンスターの数を十とした場合、蓮は最低でも五十は狩る。故に、蓮達の収入源の大部分は魔石が占める事になる。
しかも、ここにドロップ品加わるので、稼ぎは更に跳ね上がる訳だ。数をこなせばそれだけドロップ品の確率も上がる為、二人の稼ぎはとんでもない事になっている。
具体的に言うと、浅層を探索していた三ヶ月前の蓮の口座が五百万と少し。それが中層に突入してから二千万を越しているのだから、どれだけこの二人が稼いでいるかが理解出来よう。
……因みにだが、これだけ聞くと華が蓮に寄生しているように思えるが、実際はむしろ逆だったりする。蓮は本当に戦闘関係しかしない為、ダンジョン内のマッピング、戦利品の回収と運搬、探索者協会との交渉、ドロップ品の査定の確認等々、探索者として発生する雑務の殆どは華がこなしているのだ。その癖、鍛えるという名目で偶に戦闘も行わされ、今回のように危険な場所にも無理矢理連れていかれる。高収入の対価だと納得はしているとは言え、華の方も相応に苦労しているのである。
「それにアタシらの場合、備品の損耗とか殆ど考えなくて良いからなぁ。一番金かかる武器に関しては、蓮はやっすい木刀だし、アタシの警棒だって殆ど使わないし。万が一用の【ポーション】も、アタシらの場合はドロップ品を流用してるだけ。マジで金は溜まる一方なんだよなぁ」
「そうそう。俺、この前親父に説教されたぞ。こんだけ子供の内から稼がれると、扶養控除とかの他に税金関係調べないといけなくなるだろ!って」
「あー……。それアタシもあったわ。税金関係はどうしてもなぁ。そろそろ税理士必要になってくるって忠告されてたし、探協の人に相談してみるか」
「まさかこの歳で税理士たてるハメになるとは……」
過剰に収入を得た弊害を、もろに二人はくらっていた。社会人だったら上手く切り抜けられたのだろうが、残念ながらこういった面では二人ともまだまだ子供であった。
「やっぱり金は増え過ぎても碌な事なんねぇって。これも放置しとこうぜ?」
「だーめ。価値云々は抜きにしても、宿儺の討伐されたっていう証明はいるんだよ。念の為録画しておいた宿儺の映像と合わせて、これもしっかり提出する。じゃねえと最悪、ここ封鎖だぞ?」
「ぬぐっ。それは……困るな」
ダンジョンが閉鎖されるのは、蓮としても避けたかった。折角深層までの道のりを開拓したのに、それが封鎖でパァになるというのは困るのだ。また他のダンジョンで一から攻略というのは、流石に面倒くさかった。
「だから面倒が起ころうが、戦利品は持ち帰る。OK?」
「おーけー……」
華の言い分を渋々ながら認め、蓮は魔石を華へと渡した。
そして残る戦利品は、真紅の液体で満ちた巨大瓶である。
「……後はこの瓶か。なんだと思うこれ?」
「んー、順当に行けば薬品系だろうが……。ダンジョンでドロップする薬品っていうと、やっぱり【ポーション】か?」
蓮が挙げたのは、ダンジョン関係の品で最も需要の高い、バカみたいに即効性のある回復薬である。低品質の物でも骨折程度なら数時間で治療し、中品質の物では重傷だろうが数分で回復、高品質の物なら瀕死の重症だろうが部位欠損だろうが一瞬で完治させるというとんでも薬品である。
「いや、ポーションは違うだろ。あれは青系の色だし」
「いやほら、より上位のものだったりとか」
「魔石にしろポーションにしろ、魔法関係の品って大概色の濃さで品質は分かるだろうが。色が違うって事は、まず別物だ」
「んじゃ、【鑑定】次第だが妙な騒ぎになる事は無いか……」
華の見立てに、蓮は胸を撫で下ろした。ポーション関係の買取は、かなり面倒なのである。
ポーションはとんでもないぐらい需要がある。しかし、その需要に対して供給が全く間に合っていないのが現状だ。ポーションのドロップ率が低いという理由もあるが、そもそもポーションを供給する探索者側がポーションを必要としているからである。
斬った張ったを繰り返す探索者にとって、即効性のポーションは、万が一の保険として確保しておきたい代物である。幾ら高値で売れようと、命の値段には変えられない。なので、売りに出される事自体が稀という状況なのだ。
そんな訳で、中品質以上のポーションがドロップした場合、国を筆頭に幾つもの団体又は個人から、買取交渉を申し込まれるのである。そういう情報は普通なら開示されないのだが、人の口にとは建てられないと言うだけあり、必ず何処かしらが嗅ぎ付けてくるのだ。
「絶対アレ、上が意図的に漏らしてるよなぁ」
「同感だ」
ドロップ品関係は、ほぼ必ずと言って良い程誰かが嗅ぎ付けてくる為、国の上層部で何らかの取り引きに使われているというのは、一定以上の実力ある探索者の間でまことしやかに語られている噂だ。まあ、無理な交渉をしてきたという話は全く聞かないので、一応その辺りは上も弁えているのではないかとも言われている。まあ、上層部からすれば優秀な探索者は金の卵を産む鶏なので、最低限の保護はしているのであろう。
「まあ、今回はポーションでは無いだろうし、厄介な事にはならんか」
「多分な。まあ、これも魔石と同じで未発見の代物だろうから、柴崎さんとこで調べられんだろ」
「……無駄に大量に入ってるし、あの人が嬉々として調べに掛かるであろう姿が目に浮かぶ」
「あー……。お徳用のペットボトル焼酎ぐらいあるもんなぁコレ」
パッと見で四リットル近くある推定薬品を眺めながら、華は違いないと苦笑した。
「というか、何でこんなに多いんだよ? 液体系のドロップって大体小瓶サイズだろ」
「特殊個体のドロップだからじゃねえの?」
「こんなん探索中に出てきても絶対持て余すだろ……」
「いや、運ぶのアタシなんだけど……」
邪魔くさそうに瓶を持ち上げる蓮に、華はジト目を送る。さも自分が苦労するかのような口調は、流石に見過ごせなかったようだ。
「まあ、運ぶにしても嵩張るのは確かだな。アタシらは完全に分担してるからマシだけど、後衛が荷物持ちを兼ねてる所は大変だろうな」
「荷物の問題は、大抵の探索者は直面するからな」
「そうそう。ゲームや漫画と違って、アイテムボックスやイベントリ系の便利アイテムやスキルは無いしなぁ。いや、もしかしたらドロップであんのかもしんねえけど、まだ未発見だろうし」
魔石と瓶を戦利品用のリュックに詰めながら、華は現実の世知辛さについて語った。
「魔法や氣みたいなファンタジー要素はあっても、使えるようになるには資質と修練が必要で。スキルの類も絶妙に使い難いものが多いし、ステータスなんて便利な代物は無い。現実ってのは、痒いところに限って手が届かねえもんだな本当。ダンジョンなんてもんができても、それは変わんねえか」
「ドロップ品も、物によっちゃあ探索中に壊れたりするしなぁ。本当に現実ってクソだよ」
以前あった悲しい体験談を例に挙げ、蓮は華の意見に同意してみせる。
「ああ。ゲームのようにはいかねえし、ご都合主義もねえ。それが現実だ。……ご都合主義に関しては、偶に怪しく感じるが」
「え? 華さん夢見がち過ぎね? 現実にそんなもんないよ?」
「お前がいるからだバカ! 少なくとも無双ゲーじゃねえか、お前の現実!」
戦闘方面のご都合主義の権化を前にして、華の中の価値観が微妙に揺らぐ。
とは言え、蓮の場合は戦闘がぶっ飛んでいるだけで、他は現実の駄目人間寄りだ。そう意味では、やはり創作物にあるようなご都合主義は無いのだろう。
「少しは戦闘じゃなくて、気遣いとかそっち方面に力を振ってくれねえかなぁ」
「嫌だ。面倒」
「答えが【無理】じゃなくて【嫌】な辺り、本当にタチ悪いよな」
出来ないのではなく、出来るけどやらないというのは、正に駄目人間の面目躍如といった所か。
まあ、華も八割分かってて言ってるのだが。尚二割は本気である。
そんな事を話しているうちに、魔石と瓶をリュックに詰める作業は終了する。
「うしっ……。結構なサイズだったけど、今日は他にドロップ品は無かったから助かったな。じゃあ、戦闘関係に全振りな蓮君。お姉さんこれからワレモノ運ぶから、露払いはしっかり頼むぞ」
「ねえ馬鹿にしてんの? 俺がワザと戦わせた以外で、華にモンスターを通した事は無えだろ」
軽口を叩きながら立ち上がった華に、蓮はムッとしながら言葉を返す。
実際、蓮の言っている事は事実だから恐ろしい。相手が深層のモンスターだろうが、大量の群れだろうが関係無く、蓮は決して華に攻撃を通さない。あらゆる攻撃を防いでみせ、近づく全ての敵を斬り伏せてみせる。
それが分かっているからこそ、華もサポートに徹する事を納得しているのだ。自分が戦う方が足を引っ張るのなら、恥も外聞も捨て何もしないという事で戦闘に貢献する。
だから華は蓮と組む。だから蓮は華と組む。この二人のコンビは、明確な信頼の元に成立しているのである。
「ーーはっ。本当、こっち方面では怖いぐらい頼りになるよなお前。んじゃ、さっさと帰るか」
「あいさー」
華がパンパンに膨れたリュックを背負いながら、蓮が安っぽい木刀を肩に担ぎながら歩く。
傍から見れば明らかに歪で、それなのに何故だか妙にしっくりくるコンビは、そうしてダンジョンを後にした。
買取金額あたりは割と適当です。




