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第2話 未開の洞窟と魔法の光

第2話 未開の洞窟と魔法の光

透き通るようなエメラルドグリーンの海を背に、僕は未開の洞窟へと足を進めた。

純白の砂浜は、森に近づくにつれて次第にふかふかとした黒土へと変わっていく。足の裏から伝わる大地の感触は力強く、見上げるほどの高さを誇る広葉樹たちは、地球の熱帯雨林を思わせる生命力に満ち溢れていた。ただ、そこにある植物の形状はどれも奇妙だった。幹が螺旋状にねじれ上がっている巨木や、葉の表面が微かに青い燐光を放っているシダ植物など、ここが地球ではない別次元のファンタジー世界であることを無言で主張している。

「風の音と、波の音、それに葉が擦れる音しかしない。……最高だ」

僕は思わず独り言を漏らし、深く息を吸い込んだ。

空気が美味い。前世で吸っていた、排気ガスやアスファルトの熱気、それにまとわりつくような人間関係の淀んだ空気とは全く違う。誰かに気を遣って言葉を選ぶ必要も、親戚の誰が誰と揉めているというような下世話な愚痴を聞かされることもない。ここでは、僕の言葉は僕だけのものであり、僕の時間は僕のためだけに流れている。

森の入り口付近を少し歩くと、岩山の中腹にぽっかりと開いた洞窟の入り口に到着した。

高さは三メートルほど、幅は五メートルといったところか。入り口付近には見慣れないツタがびっしりと張り付いているが、獣の足跡や糞尿の匂いなどは一切ない。神様が「強力な結界で守られている」と言っていたのは本当らしい。外の世界には凶悪な魔物が跋扈しているのだろうが、このエリア内には危険な存在が入り込めない仕様になっているのだ。

僕は『万能創造(クリエイト)』で作ったガラスのブロックと、木の枝を変成させたサバイバルナイフを両手に持ち、慎重に洞窟の中へと足を踏み入れた。

洞窟の内部は、外の強い日差しが遮られているため、ひんやりと涼しかった。しかし、十メートルも進むと完全な暗闇に包まれてしまう。いくら安全だと分かっていても、暗闇の中で生活するのは物理的に不可能だ。

「まずは、光源の確保だな」

僕は立ち止まり、手元のガラスブロックを見つめた。

地球の知識と、この世界の魔法。その二つを組み合わせれば、松明のような原始的なものではなく、もっと効率的で安全な光源を作れるはずだ。

『万能創造』のスキルは、僕が頭の中で思い描いた構造や物質の組成を、魔力を使って具現化する力を持っている。単に「光れ」と念じるよりも、発光ダイオード(LED)の仕組みや、化学発光の原理、あるいはファンタジーにおける「魔石」のような概念をイメージして構造を作り上げた方が、より強固な結果が得られるのではないか。

僕は目を閉じ、体内に満ちている無限の魔力を手のひらに集めた。

無尽蔵に湧き上がる魔力は、心臓の鼓動に合わせて波打ち、熱を帯びていく。その魔力を、ただのガラスブロックの内部に定着させるイメージを描く。ガラスの内部構造を微細に作り変え、魔力そのものを光エネルギーに変換して放出する特殊な結晶構造へと再構築していく。

「……光れ」

僕が短く呟くと同時に、手のひらの上のガラスブロックが、まばゆいほどの純白の光を放ち始めた。

熱は持っていない。まるで高輝度のLEDランタンのように、冷たくて強力な光が洞窟の奥深くまでを鮮明に照らし出す。

「よし、成功だ。魔力無限の恩恵があるから、僕が魔力を供給し続ける設定にしておけば、半永久的に光り続けるランタンになる」

僕は満足げに頷き、その『魔光石のランタン』を高く掲げた。

照らし出された洞窟の内部は、予想以上に広大だった。入り口から続く通路を抜けると、そこにはドーム状の巨大な空間が広がっていたのだ。天井の高さは十メートル以上あり、広さは学校の体育館ほどもある。地面は比較的平坦だが、所々に鍾乳石のような岩の出っ張りがあり、奥の方には地下水脈から染み出しているのか、小さな水たまりができている。

「ここを拠点(マイホーム)のメインルームにしよう」

広さは申し分ない。乾燥具合も悪くない。何より、岩に囲まれた空間は外気の変化を受けにくく、防音性も完璧だ。

僕は洞窟の中央に魔光石のランタンを置き、本格的な環境整備に取り掛かることにした。

いくら広くて安全でも、ゴツゴツとした岩肌のままでは生活しづらい。まずは、床と壁の整地だ。

僕は地面に両手をつけ、『万能創造』を発動させた。

「床面平滑化(レベリング)、及び硬化コーティング」

イメージするのは、近代建築におけるコンクリートの打設と、大理石のような滑らかな表面仕上げ。洞窟の岩を構成している成分を魔力で分解し、瞬時に再結合させていく。

ズズズズズッ……!

地鳴りのような低い音と共に、僕の手を中心に、荒々しかった岩の地面が波打つように変化していく。尖った岩は砕けて沈み込み、窪みは周囲の土砂を取り込んで平らに均されていく。表面はまるで磨き上げられた石版のようにツルツルになり、足元に一切の段差がない完璧なフラット空間が、半径二十メートルにわたって形成された。

「すごいな……。重機や職人が何日もかかる工程が、ほんの数秒で終わるなんて」

自分の力ながら、そのチートぶりに思わず笑みがこぼれる。しかも、魔力を大量に消費したはずなのに、息切れ一つしない。使った端から、体内の魔力タンクが自動的に満タンに回復していくのがわかる。これが『魔力無限(インフィニティ)』という規格外の力か。

床が完成すると、次は壁と天井だ。

崩落の危険を防ぐため、岩の成分を結合させて強度を鋼鉄並みに引き上げる。さらに、壁の所々に小さな窪みを作り、そこに先ほどと同じ要領で生成した『魔光石』を埋め込んでいった。

ポン、ポン、ポンと、等間隔に配置された魔光石が、ドーム状の空間全体を間接照明のように優しく照らし出す。薄暗く不気味だった洞窟は、わずか数十分で、まるで高級ホテルのエントランスのように洗練された空間へと変貌を遂げた。

「ふう、だいぶ家っぽくなってきたな。次は寝床だ」

石の床にそのまま寝るのは流石に体が痛い。『全ステータス補正』のおかげで肉体は頑丈になっているが、睡眠の質はスローライフにおける最重要課題だ。

僕は一旦洞窟を出て、森の入り口へと向かった。

狙うのは、豊富に生い茂っている植物たちだ。大きな葉を持つシダ植物や、弾力のあるツル、それに乾燥した香りの良い草などを手当たり次第に集め、洞窟へと持ち帰る。

持ち帰った植物の山を前にして、再び『万能創造』を使用する。

植物の繊維を抽出し、魔力で洗浄・殺菌。それらを編み込んで分厚いマットレスの土台を作り、中に柔らかい綿毛のような植物繊維をたっぷりと詰め込む。表面は、絹のように滑らかな手触りになるように分子構造を調整した布状の繊維で覆う。

数分の作業の後、目の前には、高級ベッドにも引けを取らない、巨大でふかふかの『極上ボタニカルベッド』が完成していた。

試しにダイブしてみると、バフッという音と共に、体が柔らかく包み込まれる。植物由来のほのかな甘い香りが鼻腔をくすぐり、精神を深くリラックスさせてくれる。

「……最高すぎる。地球のどんな高級マットレスより寝心地がいいぞ、これ」

ベッドに寝転がりながら、天井の優しい光を見つめる。

誰からも「手伝ってくれ」と言われない。誰からも「お前が長男の代わりだから」と理不尽な責任を押し付けられない。自分の作ったもので、自分だけが満足する。

これこそが、僕が求めていた本当の平穏だった。

【ステータス】

名前:なし

年齢:18(肉体年齢)

職業:開拓者

レベル:2

HP:160/160

MP:∞/∞

スキル:

・万能創造(クリエイト)Lv.2

・魔力無限(インフィニティ)

・空間転移(テレポート)Lv.1

・全ステータス補正(大)

・地球の知識

ここまでお読みいただきありがとうございます!少しでも面白いと感じたら、画面下から【ブックマーク】と【☆☆☆☆☆】の評価をいただけると、執筆の大きなモチベーションになります!

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