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第12話 空を統べる影と、新たなる契約

第12話 空を統べる影と、新たなる契約

(主よ、朝だ。外の空気が澄んでいるぞ)

直接脳内に響くクロの低い念話で、僕はゆっくりと意識を覚醒させた。

洞窟リビングの巨大なガラス窓から差し込む、淡い朝焼けの光が室内を優しく照らし出している。ボタニカルベッドの隣には、クロが大きな尻尾をゆっくりと揺らしながら、黄金色の瞳で僕を見下ろしていた。

「おはよう、クロ。今日も良い天気になりそうだな」

大きく伸びをしてベッドから抜け出す。

昨夜、大浴場でしっかりと疲れを癒やしたおかげで、身体は信じられないほど軽い。

朝の身支度を整え、手早く朝食を作る。今朝は昨日仕留めた疾風鳥(ゲイル・バード)の端肉と甘露キノコを使った、あっさりとした塩味の雑炊風スープだ。土魔芋のデンプン質がスープにとろみを与え、寝起きの胃に優しく染み渡る。クロも巨大なボウルに並々と注がれた肉入りスープを、ペロリと平らげた。

「さて、今日の予定だが……」

僕は食後の白湯(そろそろお茶かコーヒーが欲しいところだ)をすすりながら、窓の外に広がる青空を見上げた。

陸の移動手段兼、最強の相棒としてクロが仲間になった。

海には魔力駆動式カヌーがあり、漁も順調だ。

となると、次に狙うべきは「空」の領域だろう。

広大な結界の内部とはいえ、この世界にはまだ僕が足を踏み入れていないエリアが山ほどある。険しい山脈の山頂付近や、森のさらに奥深く、あるいは沖合の小島など。それらを効率よく探索するためには、空を飛べる手段が絶対に必要だ。

「空を飛ぶ魔物をテイムしたい。クロ、心当たりはないか?」

僕が問いかけると、クロは少し考えるように耳をピクピクと動かした後、念話を返してきた。

(空の魔物か。この森の奥、あ高くそびえる『絶壁の霊峰』の頂付近に、強大な力を持つ有翼の獣が棲みついているという気配は常に感じていた。我ら地上の獣とは縄張りが違うゆえ、干渉したことはないが、おそらく相当な格の魔獣であろう)

「絶壁の霊峰……あの山のてっぺんか」

僕は洞窟の裏手にそびえ立つ、雲を突くような巨大な岩山を見上げた。

以前、鉄鉱石を採掘した中腹よりもさらに上、切り立った崖が続く険しい領域だ。

「よし、行ってみよう。空の相棒を見つけに」

僕は準備を整えた。

開拓服の防御力を魔法で再確認し、腰には魔鋼のサバイバルナイフ。そして、テイム用の「契約のチョーカー」を新たに万能創造で打ち出した。今回は空の魔物用ということで、極限まで軽量化したミスリル(魔法で精製した超軽量の高純度銀合金)製のチョーカーだ。

クロの広い背中に跨り、僕たちは山を目指して出発した。

森を抜け、岩肌が露出する山岳地帯に入ると、クロはその真価を発揮した。

四肢に青白い雷を纏わせ、ほぼ垂直に見えるような崖であっても、重力を無視したかのように猛スピードで駆け上がっていく。

「すげえなクロ! 全く揺れないし、落ちる気がしない!」

(フッ、我を誰だと思っている。この程度の崖、平地を走るのと同義よ)

得意げな念話を送りながら、クロはわずか数十分で、雲を見下ろす標高数千メートルの霊峰の頂上付近へと到達した。

そこは、荒涼とした岩盤が広がる広大なテラスのような場所だった。

空気が極端に薄く、肌を刺すような冷たい強風が吹き荒れているが、エンチャントされた開拓服と全ステータス補正のおかげで、僕には全く影響がない。

「それにしても、すごい景色だ……」

眼下には、僕が開拓している広大な森と、エメラルドグリーンの海がミニチュアのように広がっている。水平線が緩やかに湾曲しているのがわかり、この世界が一つの巨大な惑星であることを実感させられた。

(……主よ、上だ。来るぞ)

クロが低く唸り声を上げ、空を見上げた。

僕も視線を上げる。

雲海の彼方から、巨大な影が急降下してくるのが見えた。

ヒュゴォォォォォォッ!!

空気を切り裂く凄まじい風切り音。

それは、地球の鷲と獅子を掛け合わせたような、巨大なグリフォンだった。しかし、ただのグリフォンではない。全身の羽毛は燃え盛るような真紅に染まり、獅子の下半身からは陽炎のような高熱の魔力が立ち昇っている。

翼を広げた全長は十メートルを優に超え、その威圧感はクロにも引けを取らない。

『解析』が脳内に情報を叩き込む。

(名称:焔翼の獅子鷲(フレア・グリフォン)。危険度:特A。炎と風を操る天空の覇者。極めて好戦的で、自身のテリトリーを侵す者を容赦なく焼き尽くす)

「また特Aランクか。結界の中って、実はとんでもない魔境なんじゃないか?」

(主よ、奴は戦う気満々だ。どうする? 我が雷で叩き落とすか?)

「いや、待て。相手を傷つけすぎたら乗れなくなっちまう。僕がやる」

僕はクロの背から降り、前に進み出た。

空を旋回していたフレア・グリフォンは、侵入者である僕を見つけると、鋭い鳴き声と共に急降下し、口から巨大な火球を吐き出してきた。

ゴォォォォォッ!!

岩盤をも溶かす超高温の業火が、僕に向かって一直線に飛来する。

「風魔石シールド、最大展開」

僕は焦ることなく、右手を前に突き出した。

体内の無限の魔力を『万能創造』の術式に変換し、僕の目の前の空間の分子構造を極限まで圧縮。絶対的な防御力を持つ透明な風の防壁を構築した。

ズバァァァァン!!

火球が防壁に激突し、凄まじい爆炎が周囲に吹き荒れる。しかし、僕とクロのいる空間には、熱気一つ届かない。

「……ピィィィッ!?」

自身の最強の攻撃が完全に防がれたことに、フレア・グリフォンは驚愕の鳴き声を上げた。

「よし、今度はこっちの番だ。痛くはしないから、少しおとなしくしてろよ」

僕は両手に莫大な魔力を集中させ、対象の動きを封じるための『重力魔法(グラビティ・プレス)』を編み上げた。

「落ちろ」

ドスンッ!!

空間そのものが重みを持ったかのように、飛翔していたフレア・グリフォンの身体が急速に落下し、岩盤に押し付けられた。

「ギャアァァッ!」

もがくグリフォンだが、僕の魔力で構築された見えない鎖を断ち切ることはできない。

僕はゆっくりとグリフォンの元へ歩み寄った。

その巨大な真紅の瞳には、怒りと、そして得体の知れない存在(僕)に対する恐怖が入り混じっていた。

「殺しに来たわけじゃない。お前のその立派な翼と力が、僕には必要なんだ」

僕は重力の拘束を解き、代わりに『解呪』と『超回復』の魔法をグリフォンにかけた。

戦いの緊張でささくれ立っていたグリフォンの魔力回路が、僕の無限の魔力によって優しく解きほぐされ、最高の状態へと調律されていく。

心地よい魔力の奔流に、グリフォンは敵意を忘れ、うっとりとした表情で目を細めた。

「どうだ? 僕と契約すれば、毎日美味い飯と、この極上の魔力チューニングを約束するぞ。悪い話じゃないだろう?」

僕は懐からミスリルのチョーカーを取り出した。

(……空の覇者たる我に、地に這う者の下につけと言うか)

グリフォンの気高い念話が脳内に響く。

「下につくわけじゃない。対等の『相棒』だ。一緒に空を飛んで、見たことのない景色を見に行こう」

僕の言葉に嘘がないことを感じ取ったのか、あるいは僕からあふれ出る魔力の深淵に抗えないと悟ったのか。グリフォンはゆっくりとその巨大な頭を垂れ、首を差し出した。

カチャリ。

チョーカーを巻き、契約の魔力を流し込む。

(……よかろう。我が焔と翼、主のために振るおう)

「よろしくな。お前の名前は……真紅の羽だから『アカ』だ」

(ア、アカ……? もう少しこう、威厳のある名はないのか?)

「呼びやすさが一番だ。ほら、クロも挨拶しろ」

クロが近づき、アカの首筋の匂いを嗅ぐ。

(フッ、空のトカゲかと思えば、案外立派な羽をしているではないか。我はクロだ。主の第一の剣にして盾。新入り、足を引っ張るなよ)

(誰が空のトカゲだ地の犬め! 我こそが主の至高の翼よ!)

念話の中でさっそく言い争いを始める二匹を見て、僕は思わず吹き出してしまった。

「はははっ、仲良くしろよお前ら」

こうして、陸の最強『クロ』に続き、空の覇者『アカ』が僕の家族に加わった。

「よしアカ、さっそく初仕事だ。僕とクロを乗せて、拠点まで飛んでくれ」

(承知した。我が背の極上の乗り心地、とくと味わうが良い)

アカの広い背中に僕とクロ(クロは少しビビっていた)が跨る。

バサァァァッ!

巨大な翼が力強く羽ばたき、僕たちはふわりと宙に浮き上がった。

次の瞬間、アカは一直線に大空へと舞い上がった。

「おおおおっ!! すげえええ!!」

眼下に広がる世界が、飛ぶ鳥の視点で猛スピードで流れていく。

雲を突き抜け、風と一体化する感覚。

これまでの人生で感じたことのない、絶対的な自由と解放感が全身を駆け巡った。

拠点への帰還の道すがら、僕はアカの背中の上から、僕が開拓してきた無名の浜辺を見下ろした。

豊かな畑、機能的な洞窟、海に浮かぶカヌー。

そして、一緒に空を飛んでいる最強の相棒たち。

何もないところから始まった僕の異世界スローライフは、今、確かな形を持ってこの世界に根付いている。

前世でのしがらみも、家族の顔も、僕の本当の名前さえも、もう思い出すことはできない。でも、それでいい。

今の僕は、誰よりも自由で、誰よりも満たされているのだから。

拠点の白い砂浜にゆっくりと舞い降りるアカと、それを迎える心地よい波の音。

明日からは、この空の力を駆使して、さらに広大な世界の開拓に乗り出そう。

僕の胸の中には、終わることのないワクワク感だけが、永遠の魔力のように無限に湧き上がり続けていた。

【ステータス】

名前:なし

年齢:18(肉体年齢)

職業:開拓者

レベル:28

HP:550/550

MP:∞/∞

スキル:

・万能創造(クリエイト)Lv.10

・魔力無限(インフィニティ)

・空間転移(テレポート)Lv.4

・全ステータス補正(大)

・地球の知識

・解析(アナライズ)Lv.8

・空間拡張(ディメンション・エクスパンド)Lv.2

・重力操作(グラビティ・プレス)Lv.1 NEW

・従魔契約(Lv.3)

【所持拠点】無名の洞窟(大拡張済・オーシャンビューリビング、大浴場完備)、開拓農地

【従魔】

・クロ(雷影狼・特Aランク)

・アカ(焔翼の獅子鷲・特Aランク)

ここまでお読みいただきありがとうございます!少しでも面白いと感じたら、画面下から【ブックマーク】と【☆☆☆☆☆】の評価をいただけると、執筆の大きなモチベーションになります!

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