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第11話 従魔との目覚めと、拠点の大拡張

第11話 従魔との目覚めと、拠点の大拡張

朝。

どこからともなく聞こえてくるリズミカルな波の音と、頬に当たるモフモフとした極上の毛並みの感触で、僕は目を覚ました。

ゆっくりとまぶたを開けると、視界いっぱいに漆黒の毛皮が広がっていた。僕の体に覆い被さるようにして丸まっているのは、昨日新たに家族(相棒)として迎え入れた特Aランクの魔獣、雷影狼ライトニング・シャドウの『クロ』だった。

僕が寝返りを打つと、クロは閉じていた黄金色の瞳をパチリと開け、大きなあくびを一つしてから、巨大な舌で僕の顔をべろんと舐め回した。

「うわっ、おはようクロ。……って、顔がヨダレまみれじゃないか」

苦笑しながら起き上がり、魔法で顔の水分と汚れを弾き飛ばす。クロは嬉しそうに喉の奥でグルグルと低い音を鳴らしながら、その巨大な頭を僕の胸にスリスリと擦り付けてきた。

昨日出会った時の、あの雷を纏った孤高の特Aランク魔獣としての威厳はどこへ行ったのか。すっかり懐いて大型犬のような無邪気さを見せるクロの姿に、僕はたまらなく愛おしさを感じていた。

孤独を望み、人間社会のしがらみから逃げ出した僕だが、こうして言葉を介さずとも絶対的な信頼と温もりを寄せ合う存在がいることは、心を信じられないほど豊かにしてくれた。誰に気を遣うこともなく、ただそこにいるだけで満たされる関係。これこそが、僕が求めていた本当の『家族』の形なのかもしれない。

「よし、腹減ったろ? 朝飯にしよう」

僕がベッドから降りると、クロは長い尻尾をバッサバッサと振りながら、キッチンエリアへと先導するように歩き出した。

今日の朝食は、昨日大漁だった蒼藍鮪ブルー・ツナと、保存してある突角豚ホーンボアの肉を使った特大のミックス・ステーキだ。クロの巨体を維持するためには、相当なカロリーと魔力が必要だろう。

僕は魔法で作った石造りの冷蔵庫から、数キロ単位の肉の塊をドスンと取り出した。

鉄のフライパンを火魔石のコンロに乗せ、最大火力で熱する。

煙が上がり始めたところで、まずは突角豚の分厚いバラ肉を数枚投入する。ジュワァァァァッ!! という爆発的な音と共に、豚の甘い脂がフライパンに溢れ出し、洞窟内に暴力的なまでに食欲をそそる香りが充満した。

クロがコンロの横にちょこんと座り(と言っても座高は僕の背丈ほどあるが)、ポタポタとヨダレを垂らしながら肉が焼けるのを凝視している。

「待て待て、今とびきり美味いやつを作ってやるからな」

豚肉の両面にこんがりと黄金色の焼き目がついたところで、今度は蒼藍鮪の分厚い切り身を投入する。豚の脂を鮪の身に吸わせながら、表面をサッと焼き上げる。仕上げに、昨日錬成した特製醤油を豪快に回しかける。

ジュワッ! という音と共に、焦げた醤油の香ばしい匂いが弾け飛び、クロの尻尾の振りがさらに高速になった。

僕は魔法で生成した巨大な木製のボウルに、焼き上がった肉を山盛りに盛り付け、クロの前に置いた。

「よし、食っていいぞ」

(……主よ、感謝する!)

脳内に直接響くクロの歓喜のテレパシーと共に、凄まじい勢いで肉が消費されていく。バクッ、バクッという豪快な咀嚼音が洞窟に響き渡る。

僕自身も、自分用の皿に盛り付けたステーキを魔鋼のナイフで切り分け、口に運んだ。

「……んんっ! 美味い!」

豚の脂と醤油の香ばしさ、そして鮪の濃厚な旨味が見事に調和し、口の中で至福のハーモニーを奏でている。付け合わせにふかした土魔芋のホクホクとした甘みが、肉の塩気を優しく中和してくれた。

朝食を終え、食後の白湯をすすりながら、僕は洞窟の内部をぐるりと見渡した。

一人で暮らす分には十分すぎる広さと設備だが、クロという巨大な同居人が増えた今、少し手狭に感じてきたのも事実だ。特に、クロが寝転がれる専用のスペースや、一緒にくつろげるリビングのような空間が欲しい。

「よし、今日の午前の作業は『拠点の拡張とリフォーム』だ」

僕は立ち上がり、洞窟の壁面に両手を当てた。

頭の中に、拡張したい空間の設計図を精密に描いていく。

今の居住スペースの奥、海側に面した岩盤を大きく削り取り、光が差し込む巨大なリビングルームを創り出す。そして、その奥にはクロの専用ルーム。さらに、お風呂も二人(一人と一匹)で入れるように大浴場へと改装する。

空間拡張ディメンション・エクスパンド、岩盤粉砕、及び再構築!」

僕の手から凄まじい量の魔力が放出され、洞窟の岩盤へと浸透していく。

ズゴゴゴゴゴォォォォ……ッ!!!

山全体が微かに震え、岩の壁がまるで生き物のように波打ち、後退していく。

削り取られた岩石は一瞬にして微細なチリへと分解され、魔力によって再結合され、滑らかな大理石のような床と壁へと変成していく。

わずか数十秒の地鳴りの後、そこには元の三倍以上の広さを持つ、巨大なドーム状の空間が出現していた。

「よし、次は『窓』だ」

洞窟の暗さを解消するため、僕は海側に向かっている分厚い岩の壁を、直径十メートルほどの巨大な円形にくり抜いた。

外の眩しい陽光と、エメラルドグリーンの海が一気に視界に飛び込んでくる。潮風が心地よく吹き込んでくるが、このままでは雨や虫も入ってきてしまう。

僕は足元の砂を空中に浮かべ、『万能創造クリエイト』で急速に加熱・精製し、不純物の全くない一枚の巨大な防弾・防魔ガラスを創り出した。それを円形の穴にぴったりとはめ込み、魔法で岩と完全に同化させる。

「素晴らしい……。最高のオーシャンビューだ」

巨大な丸窓からは、青い空と白い砂浜、そして水平線まで続く海が一望できた。地球のどんな高級リゾートホテルのスイートルームでも、これほどの絶景を独り占めすることはできないだろう。

窓際に、魔法で木材と天雲綿あまぐもめんを組み合わせて作った、巨大なL字型のソファを設置する。クロが寝転がっても十分な広さと強度を持たせ、クッションには天雲綿をこれでもかと詰め込んだ。

ソファの前に、黒曜石を磨き上げて作った低いローテーブルを置く。

(主よ……ここは、なんて心地の良い場所なのだ。外の景色が見えるのに、風も雨も入ってこない。不思議な術を使うのだな)

ソファに飛び乗り、早速ふかふかのクッションに顔を沈めながら、クロが感嘆のテレパシーを送ってきた。

「気に入ってくれたなら良かったよ。お前の特等席だ」

クロの頭を撫でてやると、彼は嬉しそうに目を細めた。

リビングの拡張に続き、次はお風呂の改装だ。

元々あった一人用の浴槽を埋め立て、代わりに十人は余裕で入れるほどの巨大な岩風呂を創り出した。底には常に四十二度を保つ魔力温熱回路を敷き詰め、湖から引いた水をなみなみと注ぎ込む。さらに、湯船の縁には香りの良いヒノキに似た木材を配置し、温泉旅館のようなリラックス空間を演出した。

「ふう、午前中の作業としてはこんなもんか」

完璧に仕上がった拠点を眺め、僕は満足げに頷いた。

時刻は昼を少し回ったところ。

午後からは、拠点周辺の「畑」の拡張と、新しい作物の栽培に取り掛かることにした。

クロを連れて洞窟の外へ出ると、太陽が真上から容赦なく照りつけていた。しかし、エンチャントを施した開拓服のおかげで、暑さも不快な汗も全く感じない。

「クロ、少し畑を広げるから、その辺で遊んでていいぞ」

(承知した。森の入り口で、怪しい気配がないか見張っておこう)

クロは頼もしく返事をすると、風のように森の入り口へと走り去っていった。特Aランクの魔獣が番犬(番狼?)をしてくれるのだから、これほど心強いことはない。

僕は既存の畑の隣に立ち、再び『万能創造』を発動させた。

「範囲指定、除草・抜根、岩石粉砕、土壌反転」

ズズズズズ……!

という音と共に、数百平方メートルの荒れ地が、一瞬にしてふかふかの黒土へと変わっていく。

さらに、昨日クロをテイムした際に森の深奥で見つけた、いくつか新しい植物の種や苗を植え付けていく。

一つは、地球のコーヒー豆に似た香りを放つ赤い実。もう一つは、サトウキビのように太い茎の中に甘い蜜を蓄えた植物(魔力解析の結果、『甘露杖シュガー・ケイン』と判明した)。

これらが育てば、食後のコーヒーと、料理に欠かせない『砂糖』が手に入る。スローライフの質がさらに一段階跳ね上がることは間違いない。

自動灌漑システム(スプリンクラー)を新しい畑にも延長し、魔力回路をオンにする。

シュルルルル……という音と共に、虹色の水しぶきが美しいアーチを描いて畑全体に降り注いでいく。

畑仕事を終えた僕は、クロを呼んで森の中を軽く散歩することにした。

夕食の食材を探すついでに、クロとの連携を確かめるためだ。

森の木漏れ日の中を、クロの背中に乗ってゆっくりと進む。

クロの歩みは驚くほど静かで、振動が全くない。まるで高級車に乗っているかのような快適さだ。

しばらく進むと、クロがピタリと足を止め、低く唸り声を上げた。

(……主よ。前方の茂みに、獲物の気配が二つ。動きが素早いが、いかがする?)

「よし、クロの力を見せてくれ。生け捕りじゃなくていい、一撃で仕留めてくれ」

(承知!)

次の瞬間、クロの四肢から青白い稲妻がほとばしり、巨体がブレた。

ヒュンッ! という風を切る音と共に、クロの姿が視界から消える。

数十メートル先の茂みから、「ギャッ!」という短い悲鳴が二つ聞こえた。

僕が駆けつけると、そこには地球のダチョウに似た、しかし鋭いクチバシと強靭な脚を持つ二羽の巨大な鳥が、黒焦げになって倒れていた。

(名称:疾風鳥ゲイル・バード。危険度:低。食用可能。鶏肉に近い淡白で上品な味わい。脚力で風を切り裂き移動する)

「お見事。さすが特Aランクだな」

(これしきの獲物、我が雷の敵ではない)

クロは誇らしげに胸を張り、僕の撫でる手を気持ちよさそうに受け入れた。

疾風鳥の肉を魔法で解体・血抜きし、採取カゴに詰め込む。

これで今日の夕食は、鳥の唐揚げか水炊きで決まりだ。

夕暮れ時、拠点に戻った僕たちは、さっそく新設した大浴場へと向かった。

服を脱ぎ(クロはそのまま)、二人で巨大な岩風呂に飛び込む。

「……っぁあぁぁぁ〜〜〜、極楽だ……」

四十二度の適温のお湯が、一日の作業の心地よい疲労感を優しく解きほぐしていく。

隣では、クロが犬かきのような体勢でお湯に浸かり、目を細めて「ふぅぅ」と人間臭いため息をついていた。魔獣も風呂の良さがわかるらしい。

風呂上がり、広々としたリビングのソファに腰を下ろし、海に沈む真っ赤な夕日を巨大なガラス窓越しに眺める。

キッチンからは、疾風鳥の肉を特製醤油と香草で揉み込み、突角豚の脂でカラリと揚げた『異世界風・絶品唐揚げ』の暴力的な匂いが漂ってくる。

テーブルに山盛りの唐揚げと、ホクホクの土魔芋の塩茹でを並べる。

クロと一緒に、無我夢中で肉に食らいつく。

外側はサクサク、中は驚くほどジューシーで、噛むたびに鳥の旨味と醤油の香ばしさが口の中ではじけ飛ぶ。

「美味い……本当に美味いな」

(主の作る飯は、世界一美味いのだ。我は幸せ者だ)

窓の外では、夜空に無数の星が瞬き始めている。

家族のしがらみも、前世の呪縛も、ここにはない。

ただ、美味い飯と、温かい風呂と、心を通わせる相棒がいるだけだ。

僕の望んだ究極のスローライフは、今まさに完璧な形となって、この無名の浜辺に根付き始めていた。

【ステータス】

名前:なし

年齢:18(肉体年齢)

職業:開拓者

レベル:22

HP:450/450

MP:∞/∞

スキル:

万能創造クリエイトLv.9

魔力無限インフィニティ

空間転移テレポートLv.3

・全ステータス補正(大)

・地球の知識

解析アナライズLv.7

空間拡張ディメンション・エクスパンドLv.1 NEW

・従魔契約(Lv.2)

【所持拠点】無名の洞窟(大拡張済・巨大ガラス窓付きオーシャンビューリビング、大浴場完備)、開拓農地(第二エリア拡張済)

【従魔】クロ(雷影狼・特Aランク)

ここまでお読みいただきありがとうございます!少しでも面白いと感じたら、画面下から【ブックマーク】と【☆☆☆☆☆】の評価をいただけると、執筆の大きなモチベーションになります!

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