短編小説「一瞬の眠りの後で」
目をつぶるなり、
「はい、終わりましたよ。お疲れ様でした、お部屋帰りますね」
という声が聞こえてきたもので、一体何があったのかと思いながらも、まだ半分以上朦朧とする意識の中、反射的にかすれる声で「はい」と答えたのはなんとなく覚えている。
まぶたが重くてまだ目が開けられない。自分がぐったりと横たわっていることと、カタカタと揺れる何かに乗せられてどこかに運ばれているらしいことはぼんやりと分かった。
がーっと自動ドアが開くような音がして、
「おかえりなさい」
と、どこかで聞いたことのある女性の声が聞こえた。
ああ、これは私の妻の声だ。出ているのかいないのか分からない声で「うん」と言ったつもりだが、聞こえているのかどうか。
カタカタと揺られながらどこかに到着し、
「じゃあ移りますよ、ワンツースリー!」
とぐいっと横に引っ張られるように横に移動させられ、思わず、
「うっ!」
とうめいてしまった。
体が痛い。どこがどうというのじゃなく全身がこわばっていてそのために痛いような気がする。筋肉痛にも似ているが少し違うようにも思う。
少しずつはっきりしてくる意識の中、こんな言葉を思い出す。
「麻酔がかかったらすぐにぐっすり寝てしまうから、ほんの一瞬のように思うよ。目をつぶって開けたらもう手術は終わってる」
本当にそうだった。私はある手術を受けたのだ。内臓の一部を摘出する必要があったのだが、腹腔鏡手術という術式で受けたはずだ。場合によっては開腹に変更することもあると言われたが、今はまだ下半身の感覚があまり感じられないので、どちらで受けたのか自分では分からない。
少し意識がはっきりとし、うっすらと目を開けると見たことがある天井が目に入ってきた。どうやら元の四人部屋のベッドに戻ったらしい。
「ICUに入るのかと思ってたから戻ってきてびっくりしたわ」
軽く首を動かした先で、笑顔を浮かべた妻がふざけたようにそう言ったので、私も黙ったまま笑った。まだ言葉を発するのが少しつらい。
「痛くない?」
聞かれたがそれほどの痛みは感じない。まだ麻酔が効いているのだろう。黙ったまま少しだけ左右に首を振る。
意識はどんどんとはっきりしてきているが、体がだるく、あまり話したり動いたりをしたいとは思わない。
手術が何時間かかったのかも分からないが、やたらと眠い。だるくて眠いという感じか。おかしなものだ、体に穴を開けられたことすら感じることがなかったほど、何時間かの間ぐっすりと眠っていたというのにまだ眠いなんてな。
そんなことを考えながらもう一度眠りの中に入っていく。
「そうね、寝られるならゆっくり寝た方がいいわ。面会時間が終わるまでここにいるから安心しておやすみなさい。本当に無事に手術が終わってよかった、ホッとしたわ」
妻の声を聞き、軽く首上下に振った。そうか無事に終わったんだ、あらためて聞いて安心したら、ますます眠気を感じてきた。
ただ、眠いが頭の芯が冷静に、今度目が覚めた時には麻酔が切れてきっと痛みを感じると言っている。今はただ、少しでも長く眠って痛みと戦う準備をしなくては。
私は再び目を閉じた。しっかりと握られた妻の温かい手を感じながら、次の戦いに備えるために。




