短編小説「通り雨」
雨宿りというのは時に思わぬ再会を演出したりするものらしい。
出張で出かけた地方都市、仕事を終えて少し早い時間だがもう東京に帰ろうと駅に向かっていた時、突然の雨に降られてしまった。
すぐにはやみそうにない。まだ急いで帰る時間でもないしと、目についた大手チェーン店のカフェに入ろうとしたら、入口で思わぬ人と再会をすることになった。
高校2年の時の同級生。当時はよく遊んだ子で、修学旅行のグループも一緒だった。3年になってクラスが変わると段々と一緒にいる時間が減っていき、卒業後私は東京の大学へ進学し、彼女は地元で就職をした。その翌年あった高校の同窓会で一度会ったが、その時以来10年会ってない。
「びっくりした」「なんでここにいるのよ」「出張で来たんだけど、ここに住んでるの?」「うん、旦那の転勤で2年前からここ」
まだまだ雨はやむ気配がなく、どちらからともなく一緒の席に腰をかけることになった。
店内はまだまばら。私たちの後からやはり雨宿りなのだろう、何組かが雨をはらいながら入ってきたが、平日のお昼過ぎ、一番暇な時間帯だからか、それでもまだぽつぽつと空席が目に入るぐらいの客の入りだ。
同窓会以来だねと、その後のことをとりとめもなく話す。10年も会ってなかったのに、まるで昨日も会ったかのように話をしていることがとても不思議だ。
彼女は子どもが二人いて、今日は旦那が連れて義実家に行っているとのこと。そういう日には息抜きに一人で映画を見たり買い物したり。そこでばったり私と会ったということだ。
一通り近況を話し終えたら、話はどうしても高校時代に戻る。あの時はこうだったよね、修学旅行ではこんな話をして、そうそうそうだった。
なんだかやたらと盛り上がり、気がつけば小一時間。
「あ、雨やんだね」「本当だ」
話を止めて外を見てみたら、すっかり雨は上がって晴れ間が見えていた。
どちらからともなく席を立ち、それぞれに会計をし、
「今日は楽しかった」「本当、出張なんてめんどくさかったけど、おかげで思わぬいい時間を持てたわ」「うん、よかったらまたお話しようよ」「うん、ぜひぜひ」
そう言って女子高生のようにバイバイと手を振ってあちらとこちらに別れた。
駅に向かって歩き出して、ふと気がついた。そういえば連絡先を交換していない。仕事関係の相手ではないので名刺を渡すのも変だし、話に夢中になってSNSのIDやアドレス、電話番号の交換するのも忘れていた。 そうそう、二人同時に雨が上がったのに気がついて、そのままになってしまったんだった。
今なら振り返って走れば追いつけるだろうかと思いながら、やっぱりやめておこうと思った。
この時代だもの、その気になればどうやってだって連絡先ぐらいどうにでもなる。あの時、どちらからともなくそのまま席を立った、そのことが今の答えのような気がする。
確かに話は楽しかったし懐かしかった。だけど10年近く連絡を取ってなかったのは、どちらからも必要と思っていなかったということだ。
今日の雨のように彼女との一時間はほんの通り雨。雨宿りの間だけ、ひと時の懐かしい時間。
それならそれでいいじゃないかと、私はもう一度駅に向かって歩き出した。いつもの日常に戻るために。




