一体ここは
目を開けると、そこは神社ではなかった。そこに広がるのは寂れたいつもの境内ではない。煌びやかな知らない街が広がっていた。
江戸時代の街は見たことないが、もしあったらこんな感じなのだろう。大きな道の横に、木造の平屋がずっと続いている。その平屋には、それぞれ木の看板が立っていたり掛かっていたりして、達筆な字で「蕎麦」、「三色団子」、「天麩羅」などと書いてある。お店、なのだろうか。平家の屋根から屋根へ、橙色に光る提灯がかけられており、それもずっと続いている。和風のイルミネーション、といった趣である。
人もたくさん歩いているが、全員、和装だ。もしかして、私、江戸時代にタイムスリップした?江戸時代の夜の街って意外と明るいんだな。
私は呆然と立ち尽くした。戻らなきゃ。鳥居をくぐってここに来たのなら、Uターンすれば良いのではなかろうか。私は後ろを向いて歩き始めた。
と、思うと、人とぶつかってしまった。ガタイのいいその男性は「わっ」と言ってよろけ、私は思い切り尻もちをついた。男性は
「あーびっくりした、お?見ねぇ顔だな。立てるか?」
と言って、手を差し出してくれた。私は手を取ろうと思って上を見た。
その人の顔には、目がひとつしかなかった。
片目が隠れてるとか、眼帯をしてるとかじゃない。言葉通り目がひとつなのだ。顔のど真ん中に口ぐらい大きな目があって、それがぎょろぎょろ動いている。私が仰天したのは言うまでもない。私は自力で立ち上がり、中学生の頃のような俊敏さでクラウチングスタートをきめて逃げ出した。
とにかく走って逃げようと思って、気がついた。ここを歩いている人は、みんな、どこかおかしい。つのが生えてる、肌の色が青い赤い、動物の耳が生えてる……。普通に見える人も、雰囲気が普通じゃない気がする。私は怖くなって、走った。走って走って、どこへ向かうともなく逃げた。
こんな大きい道の真ん中にいても逃げられてはいない。どこまで走っても、大きな道が続いている。私は平家と平家の間の小さな隙間に身を隠すことにした。
その小さな路地裏に、私は座り込む。目を瞑ると、醤油の匂い、タバコの匂い、飴細工を作っている時の匂いがする。私は膝を抱えて、腕に顔を埋めた。
一体ここはなんなのだ。江戸時代のように見えるが、通る人々はみんなおかしい。まるで、妖怪のようだ。私は、コンビニに行こうとして、なぜか神社に来ちゃって、神社に入った瞬間この街にいて、妖怪に囲まれてて……。夢だ。夢だとしか考えられない!
などと考えながらじっとしていたら、いつしか私は眠りに落ちていた。




