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モリスが地球を踊るとき  作者: morriss090
3/36

3 ちょっと、これ、カメラ回して

「ちょっと、これ、カメラ回して。」


反射的に体がカメラを回し始める。そして、吸い寄せられる、スタジオの中央に。粘土にしか見えなかったかたまりが回転とともに開花していく。形ができていく、誰かの手で粘土から生み出される・・・ツボ?ツボから蝶が出てきた、と思ったら掌だった。掌が蝶のようにひらひらと、ああ、次はなんだろうもう少し大きなネズミ?ああ、足か。早いスピードで動き回る、直角に曲がる、ああ、ネズミにしか見えない。いつの間にか蝶が消えていた。次に現れたのは、ワシの頭だ。今にも飛び立ちそうな。安川は夢中になってみていた。これは、地球ドラマチック・・・?そこで、不意に、監督の声がした。


監督は手を大きく振りながら、スタジオ中央に歩いていき、踊るモリスを抱きしめる。


「その先は、取っておいて。アタシの心の準備ができてから。」


モリスは分かったのか、分かってないのか、とにかく頷いている。

安川は、カメラを止めて、そして思った。


え?音?


音なんて鳴ってない。音なんて鳴ってないのに・・・聞こえた。


僕にも聞こえてた。監督にも聞こえていただんだろうか。

知らないうちに、モリスの踊りに引き込まれたんだ。僕も監督も…。


監督が聞いていた音は、僕に聞こえていたのと同じだろうか。

音階なんて分からないけど、最初はずいぶん低い所のド、しばらくドがゆったりとしたリズムを刻んだ・・・そしてレの音、いや、レじゃないのかもしれないけど、最初より少し高いような音。だんだん、音が高くなっていく。ああ、この先を見たい、見たいけど怖い気もする。不思議な踊り。


「監督、なんでしょう、これ。僕・・・。」


「ヤスカワチャン、あんたにも分かったようね。前から勘だけは鋭いから。受け取れたのね。モリスのメッセージ。ねえ、やすかわちゃん、これは戦争よ。私はモリスで戦争未亡人を撮るわ。日本人は平和ボケして久しいって言われてる…これは、警鐘なのよ。」


「か、監督…。」

僕は何やら、大作の予感に打ち震えた。


監督は天空を見上げ、続ける。

「世界的に見れば戦争は、まだまだ、継続中なのよね。大きな戦争だって、ともすると小さな小競り合いだって、戦争って表現すべき戦いは無数にあるわ。そして、その戦争にはね、未亡人がつきものなのよ。ワンセットなのよ。それをシナリオにして、温めていたの。言葉面だけの戦争未亡人のイメージを一転させるわ。モリスにぴったりよ。っていうか、モリス以外で実際に撮る気になれなかったと思うわ。実際、忘れてたし。」


僕は、しゃべりつづける監督の本気に圧倒され、心なしか手に震えが走る。ワクワクがとまらない。

あの長い踊り。長く感じたけれど、本当は長くなかったかもしれない。時間の観念すらないがしろにしてしまう。そんな特別な感覚だった。とにかく、その踊りが終わると、モリスは出会った時と同じ、変な外人の女の子に戻った。そして、監督のサリーにしがみついて、


「モリス、ついていくま巣。かんとく、ついていく。とこまでも。床までも。」


すると、監督は、ぽっとほほを赤らめ、


「床はいいわ。床は来なくて。なぜなら、あたしの作品にHは必要ないから!ラヴシーンはないの。ええ、一切ないの。」


僕は一瞬固まり、モリスをにらむ。それは禁句なのに。案の定、監督は我を忘れて、地団駄を踏む。


「そう、実生活にもないの!一切ないの。実生活にはあってほっswi---!絶対、あってほっswii—!なにがなんでも、あってほっswii—!」


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