25 せんぱーい!署長が呼んでます~
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「せんぱーい!署長が呼んでます~」
安川がそんな感傷に浸っている一方、仙田(犬好き・先輩)幸田(後輩)は再び、署長室に呼ばれていた。
仙田は
「いやーな予感がする。」
と、言って逃げ回っていたけれど、存外に幸田がしつこく粘り強く探してきたので、
「そういうとこ…捜査で発揮してほしいけどね。」
と苦笑いしつつ一緒に行ってあげることにしたのだ。
幸田に前を歩かせて、様子を伺いながら、案の定、署長室の前で、ドアに耳を寄せてみると
「うぉーン、ウォーン」
と声がする。
二人は顔を見合わせる…
ほ、ら、な、
仙田の口がそう動いて、反転しようとしたところを幸田がガチっと取り押さえた。
「そういうところ、捜査で発揮してほしいんだけど…」
あきらめた仙田が幸田と共に、署長室に入ると、
署長の横には嬉しそうに舌をべろーんと出して、ふぉっーふぉーっと笑っているマック警部がいた。
署長は、少し申し訳なさそうに、
「このたび、マック警部は散々溜めてきた有給休暇を消化することになった。」
仙田、幸田両刑事は、予想しない言葉にキョトンとした。
え?犬なのに?
「マック警部の種がどうであろうと…」
署長の顔も半笑いだ、わかって言っているんだ。
「階級は警部であるから、有給休暇を取らねばならん。」
署長の言葉がいつもよりゆっくりで、とぎれとぎれなのは、笑いをこらえているからに違いない。
「しかし、マック警部の種の問題から、一人で過ごすわけにもいかんのだ」
実を言うと、仙田も幸田もこの話の着地点が見えていなかった。
署長が前代未聞のバカげたことを、自分でもおかしいなと思いながら、
しゃべっている…そのことだけが、分かっていた。
しかし、火の粉は急激に降りかかってきたのだ。
「で、川崎さんが厳正な審査をしたところ、お前たちがパートナーに選ばれたそうだ。」
え?
やっぱりキョトンとしている、両刑事。
で?
署長は、やっと終盤に差し掛かったこの茶番を一気に片付けに来た。
「で、このチケットを使って、行ってきてほしい。これはマック警部の有給休暇だが、君たちにとっては、もちろん公務だからな、きちんと、きちんと、やってくれないと困る。」
もう、キョトンとしすぎて、首が一回転しそうな両刑事、ついに爆発した。
「だから、何をやれっていうんですか?さっぱり、わかんないっす。」
わりと気の短い仙田刑事が叫んだ。
幸田刑事は、いち早くチケットに近づき、ははーん、と腕を組んだ。
◆
「ワンダーランドに行くんですね。三人で。」
署長は、ドカッと腰を下ろすと、ピンポーンとばかりに指を立てた。
「ワンダーランド?」
仙田刑事は何がなんだかわからない。
「と、に、か、く、川崎さんからの依頼なんだよ。マック警部、お前たちがお気に入りなんだって。厳正な審査ってところは、本当みたいで、今まで組んだ刑事の写真をならべて、ヨーイドンで走らせたら、まっしぐらにお前の所に来たんだって、気に入られちゃってるんだよ。」
「命令なんですね。」
仙田刑事は、苦虫をつぶしたような表情で、確認し、署長はもう仙田を見ないで答える。
「そ、署内接待、頑張って。」
署長室を出て二人になった仙田、幸田の両刑事。幸田刑事は、並んで歩きながら、先輩刑事の顔を覗き込んで、言った。
「先輩、ワンダーランドって、今大人気で一般人はそうそうチケット、取れないんですよ?ピーアールも開園当初にZIPで少し特集されたくらいで、あとは宣伝しなくても、セレブ御用達で、今やその勢いはディズニーをこえたかといわれているんです。」
「ふーん。」
まんざらでもない顔になってきた仙田刑事、硬派に見えて、実は、意外にミーハーなところがあるのだ。揺らいだところを幸田刑事は一気に攻める。
「接待でしか、行けないところですよ。予約しか、受け付けてなくて、半年待ちです。国家権力がないと、到底無理です。」
すかさず、ググって写真を見せる。見た目は普通の遊園地だけれど、そこに踊る文字はただの遊園地ではないことを語る
“ワンダーランドは、これまでになかった「ペットと一緒に楽しめるアミューズメント施設」です。”
仙田はググったページを熟読し始めた。
華やかに彩られた紹介ページ、楽しそうな写真、イラストが続くのに反比例して、仙田の顔は曇っていく。
普通の遊園地と決定的に違う点が、人間とペット、一名、一匹のセットでなければ入場できないというところだ。
ペットと一緒でなければ入場さえできない。
そんな所も選民意識をくすぐり、人気が出た理由の一つなのではないだろうか。
むろん、いくらペットブームとはいえ、飼っていない人もいる。
そんな人にも、もちろん救済措置はある。
入場ゲート前のレンタルペットで借りれば良いのだ。
一緒に入場して楽しんだペットと意気投合した場合は購入することも可能なのだ。
これが人でないから、法律に引っかかりはしない。で
もペットを人並みに愛する者から見れば、このシステムは人身売買とかわらない悪徳商法と同じに見える。
それでも、いや、それでこそ、仙田は、ワンダーランドに行く気になった。
マックと休暇ではない、マックと捜査だ。仙田は俄然やる気になった。
そんな決意の人となった仙田の横で、マック警部はずいぶんくつろいであくびなどしていた。




