21 すいませーん、隣に入りましたー
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「すいませーん、隣に入りましたー。」
僕は、先ほどのネズミが入っていった隣の部屋のドアの前にいって、大きな声で言ってみた。
「今、お忙しいですか?」
最後のかにかぶせがちに、大丈夫でーす、と声が聞こえてきた。
ちょっと低めの声。
そーっと、ドアを開けると、黒い燕尾服を着た、大きな黒淵メガネの小柄なおじさんがいた。
キラキラしたステッキをくるりと回して、
「根角です。よろしく。」
と言った。
低いけど、遠くまでよく通るショーをやってる人の声だと思った。
「安川です。隣の楽屋に入りました。相棒とダンスの方を担当します。
えーっと、根角さんは?」
「あ、私は、ネズミのショーを担当しています。ちょうど、ショーが終わったところなので、こんな格好で…」
と、少し照れ臭そうに笑った。背は僕より10センチくらい低いかもしれない、チャーリーチャップリンみたいな雰囲気を醸し出している。
僕は合点がいった。さっきモリスが話していたのは、ショーに出ていたネズミに違いない。
しかし、大きかったなあ。
根角さんは話をしてみると、物静かなおじさんで話しやすかった。
さっき、うちのダンサーがネズミと話しているのを見たと言ったら、
根角さんは、
「うーん誰かな、最後までかたずけてくれたのは、ラットーだったかもしれない。
ラットー、っちょっと来て。」
すると、さっきの大きなネズミが出てきた。今まで、どこに隠れていたのかな、間近で見ると20㎝くらいありそうな、大きなネズミ。
「この子でしたか?」
根角がニコニコしながら、尋ねる。
「あーはい、この人…あ、人じゃないですね…まちがえちゃった、ネズミですよね?
大きいと思ったけど。」
根角さんは、ちょっとびっくりした顔してから、破顔した。
「この子の対して、そんな…なんていうか嫌悪感をいだかない人って、あんまりいないんですよ。」
根角さんは嬉しそうに
「他の子も紹介させてください。」
というので、僕は気軽にいいですよと答えた。
「リットー、ルットー、レットー、ロットー。」
すると、先ほどの20㎝大のネズミがあと4匹現れた。
さすがに、ぎょっとしたけど、根角さんが気を悪くするといけないから、きわめて平然と、
「あ、たくさんいるんですね、さすがに、個体の識別はできないですね。彼らがショーを?」
と答えた僕は、僕をほめてあげたい。
でも、予想に反して根角さんは少ししょんぼりしてしまった。




