22 じつは…
◆
「じつは…」
「この子たちはショーに出られません。」
「え?どうしてですか?」
「大きくて黒っぽいでしょう?こげ茶色なんだけど、遠くから見ると、黒に見えてしまって。多くの人は見た目に嫌悪感を抱いてしまうんです。だから、ショーにはこの子たちを。」
と言って、30センチくらいのケージを持ってきた。中には、実験映像などでよく見る白くて目が赤いネズミが入っていた。根角さんは、これがマウスと言って、愛おしそうに一匹取り出して紹介してくれた。
「ミウス、ムウス、メウス、モウス」
次から次へ、きっと根角さんには見分けがついているんだろうけど…
僕は全く同じ個体を4回紹介されてもわからなかっただろう。
いや、しかし、根角さん…ネズミへの愛は素晴らしいけど、ネーミングは安易だな…
そんなことを思っている間に、根角さんは、白ネズミたちをケージにしまいながら、
「こいつらは、ケージに入れておかないと、迷子になった時に戻ってこれないんだ。ほんとは自由に歩かせてあげたいけど。」
と小さい声でつぶやく根角は、ふと顔を上げると。
「ラットー。」と叫んだ。いや、そんなに声は大きくなんだけど、しゃべらない根角からすると、叫んだくらいの大きさの声だ。続けて
「リットー、ルットー、レットー、ロットー。」
と!どこからともなく現れた5匹は小首をかしげて、僕たちを見つめる。根角は、誇らしげに彼らと呼んだ。
彼らは、見た目の大きさは、同じくらいで、一見小さな猫に見えなくもない。僕も最初見たときは全員同じに見えたのだけど、しばらく見ていたら、だんだん慣れてきたのか、見分けられるかもと思えてきた。
でも、根角さんが言うように、多くの人ははっきり言えば嫌悪感を抱かせてしまうのは否めない。
根角は彼らが言った。
「こいつらなら、今のショウの数十倍すごいことができるんです。」
根角が両手を胸のあたりに持ち上げて、手で小さな三角を作った。
すると、それを見たラットー、いや、レットー?
やっぱり、たぶんラットーがほかのネズミに向かって、くいっと首を振って、合図を送ったように見えた。
するすると動き出したネズミたちは、きれいなピラミッドを形成した。このラット隊にはAチームBチームがあるのだそうだ。
Aチームはドブネズミ3匹、Bチームはクマネズミ2匹で構成されていて見分け方は、しっぽが長い方がクマネズミでみじかい方がドブネズミだそうだ。
しっぽ以外の見た目は、ほどんど変わらない。
ドブネズミとクマネズミは、かつての日本家屋では、天井に営巣するクマネズミと、台所や下水道に穴居するドブネズミで、生活の場を棲み分けていた。
一方は、湿地を好み、一方は乾燥帯を好むからだ。
僕は、根角さんと出会って一時間後には、これまで持っていたネズミの知識を数百倍に増やすことになっていた。




