16 ……
◆
「……」
僕にはかける言葉がなかった。
結局、監督とモリスは麻薬の更生施設に入所することになり、二人は荷物をまとめて出ていったのだ。
完全に真人間にならないと出てこれないという厳しいことで有名な施設だ。
事件性はなしになったけれど、中毒性の成分は体からすっかり抜いとかないと、日常生活に支障をきたすからだ。
戦争未亡人の公開初日。
僕は一人で、渋谷を訪れた。監督は施設に入って出てこれないけど、映画館で完成品を見るわと、言っていたから、代わりに見に来たのだ。
映画は良かった。
スクリーンで見たらより強く思った。最高の出来だ。
なのに、僕の気持ちは晴れない。
なぜ?監督がいないから、モリスがいないから?一人だから?
…ずっと、同じこと言ってる?
そうじゃなかった。
僕は、ロッカーのことを忘れたかった。
監督に渡されたロッカーの鍵…その中には何が入っていたかって…
次の使命は、とんでもないことだったからだ。
映画を堪能して…コーヒーを飲んで…
そうすることで使命のことを先延ばしできるかもしれないとばかりに。
駅から、だいぶ遠くの小さなミニシアターだ。
だんだん、人もまばらにと思っていたら、ミニシアター前には人だかりが出来ていた。
皮肉なことに、監督と主演女優が麻薬疑惑でいざこざしたということで、野次馬がてら見に来た人が大勢いたのだ。
複雑な気分ではあったが、それでも、監督の作品が大勢の人の目にふれてうれしいと感じた。
そして、上映後、冷やかしのつもりで身に来た多くの人が、
「良かった。」
「なんか、地球感じた。」
「涙でた。」
「器。」
「踊りたくなった。」
と、各々に感想を言いあいながら、ドアから出てくるところを、僕はいつまでも、いつまでも眺めていた。




