17 春だ!これは嘘…春はこんな感じにやってこない。
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「春だ!これは嘘…春はこんな感じにやってこない。」
春が来た。きっぱり、はっきり春が来た。そんな風に春が来たことなんてない。
なんとなくダラダラ春はやってくる。寒かったり、暑かったり、悩みながら、どうしたものですかね、そろそろですか、そろそろですね、とやってくる。
出たり入ったり、いったん気配を消して、またバーンと前面に出たり。
僕がどんな風に冬を越したか…監督とモリスがいない半年間。
肉体労働系アルバイトをしていた。NO映画業界 。NO芸能界。
腐っても、素晴らしい監督に違いはないので、安西監督の所で働いていましたと言えば、
職はある。でも、しなかった。僕は、建設現場で金属資材を運び、夜は道路で赤い棒を回した。
無駄に筋肉がついた。
体を酷使するとおなかが減るので、ひたすら食べた。
ホントに一回り大きくなったような気がする、体だけは…。
そう体だけ。
心はまだ、悶々としていた。
それも、監督とモリスが帰ってくる今日まで。
春が来る、定説に反して、今日から、きっぱり、はっきり、今日から春だ。
監督とモリスが帰ってくるから。
そして、春が来ると、人ははじかれたように、新しいことを始めるものだ。
僕も、例外ではない。
そう、準備をしよう。
気持ちを切り替えて、新しい世界が始まる。
カチリ。
やけに大きな音がするじゃないか。監督とモリスが施設に行く前に確認したロッカーには、まだ、書類が入っている。
持って帰らず、ロッカーを長期契約したのは、単に手元に置いておきなくなかったから。
だって……。
何の書類か、ぼくはもう知っている。
解雇通知と起業書類一式。
とうとう、これらと向き合う時が来た。
僕は書類の入った茶封筒を
監督とモリスが更生施設から娑婆に出てくる前に。
娑婆って、本当は刑務所から出てくるときに使う言葉だから、この場合には適切ではない。だって、本当は単なる社会復帰だ。
でも、僕にとっては、娑婆に出てくるヤクザの親分と兄貴を出迎える気分だ。
あれ?モリスが兄貴?僕の方が先輩なのに…
この感覚、「これから」に影響が出そうでいやだな…。
ああ、なんてことだろう。それも、適切じゃない。
だって、僕は、この春、監督の助手を馘になるのだから。




