14 ワカメじゃダメなんですよ。この、程よい光の透過率!
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「ワカメじゃダメなんですよ。この、程よい光の透過率!」
続いて、戸高と堂本が唸る。昆布の理由が分かった、と。
「そりゃ、ワカメじゃだめだ。昆布だからステージが作れるんだ。」
安川は、改めて監督に尊敬の念を抱かざるを得なかった。凄すぎる。と、同時に凄まじいプレッシャー。
そして、日が沈む直前、舞台が完成した。
モリスが衣装に着替える。それは、監督がインドで5万円で買ったあのサリーだった。監督が来た時には、おどけたピエロにしか見えなかった、このサリーも今、ここで、モリスが着るとしっくりきた。
「僕はまともな演技指導なんてできない。でも、これだけ。監督と芥川さんのために踊って、あの踊り。最後まで。」
モリスは元気良くうなずくと、スタスタと舞台中央に歩いていき、スタートの合図を待たずに、粘土になった。
スタッフは慌てて、自分の持ち場に戻る。
最初に見た時と同じオープニング。安川は二回目なのにゾクゾクしてきた。
粘土がゆっくり回転する。今思えば、ターンテーブルもないのに、どうやって回っているんだろう。
ああ、あの時と一緒だ。
ツボになった。
ツボから様々なものが出てくる、蝶・・・ネズミ・・・ワシ。
ここまでだ。僕が見たのは。
そして、今ワシが飛び立つ。
ワシが飛び立った後、地上にふりそそぐのは…
雨?慈愛の雨。不意に、モリスのサリーがほどけて空に舞う。
高く高くひらひらと舞い上がる。
ああ、監督が脱いでもらうと言ったのはこのことだったんだ。
何から何まで・・。
モリスは全裸のまま踊り続けた。
モリスは様々なものを放出し続ける。
ある時は果てしなく広がる大地にトカゲが見える。
ある時はほの暗い海の中を泳ぐ深海魚・・・。
これは、地球を表現しているのか、はたまた進化を?
モリスがすべてを放出して自由になった時
また、最初と同じ静寂が訪れた。
息を飲んで待っていると、モリスが低く横長てーに回り始める。
お皿?お皿に見えるモリスが。
そして、舞い上がっていたサリーが落ちてきて、モリスという器にふわりと舞い降りた。
降りてなお、モリスは回り続ける。ゆっくりと。
カシャン、不意に機械的な音が響いた。
「あ、テープ終わった。あ、スタートもカットも言うの忘れた。」
僕が頭をかいていると、他のスタッフもうなずきながら、「無理ないね」と。
皆の胸に充実感が広がっていた。
「よし、機材かたずけろ。潮でダメになるから、念入りにな。」
「あ、モリスはどうします?まだ、回ってますけど。」
「そのまま、気の済むまで、回らせときましょう。あれは演技じゃないですから。」
最後の撮影とその編集を終えた僕は1週間ぶりに監督を訪れた。
「全部、終わりました。ラッシュ見れる用意、持ってきてますけど、見ますか?」
「いえ、完成品を映画館で見るつもりよ。その顔だとうまく行ったみたいだし。」
「はい、完璧です。」
「そう、良かった。」




