13 なんで、こんなものが?
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「なんで、こんなものが?」
サリーは衣装だから、絶対だけど…モリスノコーシーには、どんな意味があるんだろう…
僕は古いシナリオを読み込みながら、撮影所に向かう。途中で電話をかけた。
「ああ、堂本さん?僕です、安川です。
撮影再開します。スタッフに連絡とって撮影所に集合してください。え?監督?監督はまだです。だから、僕です。僕がやります。監督からの指示です。後1シーン、僕らでやるしかないんです。ええ、お願いします。え?撮影所だめ?なんでですか、ああ、警察・・・。ああ、じゃあ、駅前のロイホで。はい、では、よろしくお願いします。」
安川はノートを一通り読むと、待ち合わせに向かった。
駅前のロイヤルホストでは、スタッフ一同、およびモリスが集結していた。
「どうなるのかな?」
「どうだろう。秋田さんはどうですか?この映画完成すると思いますか?」
「さあ、このアクシデントは確かに手痛いですね。でも、監督の仕事は、この業界には珍しいことに、きちんとしています。」
「だな。若い二人には、ちっと不安かもしれんがね。俺は違う。それに、すごい手ごたえを感じるんだ。なんていうか、これは、化けるっていうか・・・。」
「おや、堂本さん、あなたもでしたか。」
「ああ、これという根拠はなんだが、なんだか、ゾクゾクしたんだ。撮影中何度も。なんていうか、関われてよかったって思うんだ、この映画に。たとえ、ノーギャラになりましたって言われても、俺は後悔しないね。」
「ええ、私もです。そんな風に思える映画は一生に何本もあるわけではないのです。お二人はいずれこの気持ちがわかると思いますよ。」
若い方の二人は、顔を見合わせて、そうだったんだとつぶやいた。秋田は微笑みながら、言葉を継いだ。
「特に、撮影中のモリスは最高です。こちらの世界にいるのに違和感を感じるくらい、“戦争未亡人”の世界にぴったりなのです。」
「よくぞ、あれを発掘したよなあ。私生活ではパッとしないのに。」
みなの視線が、一番隅っこで、小さくなっているモリスに注がれる。
視線は一気に気の毒そうに揺れる。
「監督倒れてから、ずっと、あれか?」
「監督が倒れて次の日くらいからです。元気ないってレベルを超えちゃってるかも。物もあんまり食べないし、しゃべりもしません。」
「保護者の監督がいなくて、頼りない安川だけ。落ち込みはするだろうが、あそこまでとはね。」
「それにしても、安川君は遅いですね。」
「どんな指示をもらってきたのでしょう?」
「詳しいことは、皆が集まってからで話だけど。監督の意思を継いで、自分が撮ると言ってたよ。」
「んー、それは、どうでしょう?監督に復帰してただくのが一番なんですが。現場復帰は難しいようですね。」
「体はともかく、警察の方だろ。問題は」
「まあ、安川君がやるならやるで、我々にできることを精一杯やるまでですよ。」
「ん、確かに。早く来ないかな。」
そんな中に、走り込んで来る。僕の登場は、みんなの気をギュッと引き締めた。
「いやー、すいません。遅くなりました。これは最後のシーンの説明書き、モリスの衣装、全体のカット表です。それじゃあ、ラストのところ読みます。まず、登場人物ですがモリスのみです。撮影場所は茨城県の大洗町の志根床海岸です。」
「お前の説明、まどろっこしい。直接読む。」
「ああ、はい、では。」
皆が各資料を回し読みし始めた。そんな中、モリスは一度も目線を上げずうつむいていた。僕はそっと隣に座り、優しく言った。
「本格コーヒー牛乳、飲まないの?」
「これ、モリスのコーシー、ない。」
「そうか、じゃあ。シナリオ見る?監督の書いたラストシーン、気になるでしょ?」
「モリスハ、モリスのコーシーない、ダメ。踊れない。」
「あれっ、なんで、知ってるの?そう、最後は踊るんだよ。」
「モリス、ワカッタ。カントク、アクタガワサン、チガウケド、オナジ。アクタガワサン、モリスニくれたエイガ。サイゴオドル。チキュウ、オドル。」
「え?」
モリスは本当に頭がおかしくなっちゃったのかな…
僕だって、監督のこと心配だけど、でも、
モリスにとっては、異国で数少ない知り合いだからな…
あ、あれ!これで、元気を出してって意味だったのかな…
「ねえ、モリス。監督はいつだってモリスのこと、考えてくれたね。だから、ほらっ。」
モリスは手渡されたモリスのコーシーにむしゃぶりついた。
その姿を見て、謎が解けた…かもしれない…
薬・・・警察は調べてない、もうなくなってたから。
監督は分かっていたはず。僕に飲むなと言った。
あえて、飲んでた?監督は、もう、戻ってこない。
だって、有罪だから。
僕がやり遂げなかったら、この映画は・・・お蔵入りだ。
「じゃあ、行きましょう。」
シナリオを読み終わった秋田が皆に号令をかけた。
「おぅ、俺は不本意だが、監督の意思は確かだ。監督が言うなら、こいつにもできるのだろう。お手並み拝見だ。」
「同感です。」
「俺も最後までやり切りたいです。よろしくお願いします。」
元気復活したモリスとスタッフ一同は、茨城県志根床海岸に向かった。監督に言われた通り、海岸をきれいに掃除して、硬めの昆布を山ほど集めた。作業は重労働だったが文句を言うものはいなかった。ひたすら作業に没頭している。舞台作りが佳境に入った頃、秋田が唸った。昆布の理由がわかったと。




