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後編。お見送りは皆さん総出で。

「ハッハッハなんと、理由がかゆみだったとは。いやー、なにが原因かわからんものじゃなぁ」

 更に裏声で大笑いする長老。

 

「おじいちゃん、ひっくりかえらないでね」

 心配して言うマグエヌ。長老、のけぞって大笑いしてんのよね。ひっくりかえるとか腰痛めるとか、なにか不運に見舞われそうな笑い方である。

「あぶないなぁ」

 マグエスも心配そうだ。

 

「とりあえずかゆみはオレが鎮めといたアルが、いつ再発するかわからんアルよ。あれだけ掻いてやれば早々かゆみ復活するとは思わんアルけど」

 ふぅぅ、っと深く息を吐いた長老、一つ頷いた。どうやら、気を取り直したらしい。

 とりあえず、長老の腰にダメージがなくてほっとしているあたしだ。

 

 

「いやはやありがたい。ドラゴンの暴れも止まったことじゃし、混乱も収まるじゃろう。しかしドラゴンに挑みかかるモスキーとは、恐れ知らずもいたもんじゃのう。立派なもんじゃ」

「立派かバカかは紙一重ってところアルな。恐れ知らずか己知らずかもわからんアルし」

「モスキーの心情をまじめに分析すんじゃないわよウルチパ」

 呆れて突っ込む勢いが出ない。

 

「で、村人への伝達は長老に任すとして。ドラゴンをなんとかした報酬は、どうなるんだ?」

「ん、おお、それか。それについては明日冒険者さんたちの宿に届けさせるわい、楽しみにしておってくれ」

 その言葉に、あたし ウルチパ カークが、なんとも言えない顔になった。経験上、こういうこと言う人がくれる臨時報酬って、扱いに困る品の確率が高いからね。

 

「うん、楽しみにしてるねっ」

「わたしも」

 が、一方の爆発姉妹はこの嬉しそうな様子だ。

 子供って純粋でいいわねぇ。冒険者としては、あぶなっかしくてしょうがないけど。

 

 そりゃ、エラップス家から任されるわけよね。

 

 

「って、滞在期間が一日強制的に延ばされたわよ?」

 長老の家から出て宿屋への道中、気付いたことをあたしは立ち止まるのと同時に放った。

「ま、急ぐわけでもなし、一日ぐらい延びても問題ないだろ。延びた分の宿泊代はただにしてもらうがな」

「当然よね」

 あたしたちは予定外の出費は抑えたい系冒険者、財布のひもはきついのである。

「当然、食事代も込みで、アルよね」

「勿論だ」

 そんなあたしたちだけど、無視して出発するって選択肢はない。

 

 冒険者として、報酬を受け取らないのは悪い評判に繋がるし、なにより、あれだけ喜んでる人の感謝の気持ちを受け取らないのは気が咎めるからだ。

 

 

「なんか、大人たちが悪い顔してるー」

「大人、って言うほど年離れてないだろ?」

 マグエヌの軽口に、困った顔で返すカーク。

「十個近く離れてたら、わたしたちにとっては立派に大人です」

「そんな力強く言い切るか?」

 マグエスに言い切られたカーク、声がちょっと上ずった感じで肩を落とした。

 

「へこまないのカーク。年気にしてると、ほんとにオッサンみたいよ」

「お前まで言うかよ?」

「えげつない追撃アルなぁアブニエ」

「お前もだウルチパ、笑いながらへこませにかかってきやがって……」

 

「別にあたしは追撃したつもり、なかったわよ」

 

「なん……だと?」

 そんなわけで。あたしたちは、長老の勢いのおかげで一日長くこの村に滞在することになったのだった。

 

 

 

*****

 

 

 

「んあぁ゛ぁ゛ぁ゛。頭いてぇ。俺酒飲めねえっつうのにグイグイ進めてきやがって」

 翌朝、宿屋の二階。昨晩あたしたちは、村の混乱を沈めてくれた人たちってことで、お礼のどんちゃん騒ぎを盛大に催してもらった。

 

 いささか大げさすぎやしないかと思ったけど、その様子にこの村あんまり大騒ぎするような催しがないのかな、と察せてしまって遠慮せずにお礼されてたんだけど、ある意味それは間違いだった。

 

 女子三人はちょっと食べ過ぎたー程度で済んだけど、男性陣はお酒を勧められてしまってたらしい。

 その様子は見えてたんだけど、お酒が強いウルチパがなんとか弱いカークにお酒が行かないように、派っ手ーな飲み方して目を引いてた。

 そんな努力も、空しく終わってしまったようね。

 

「おっはよー!」

「んごらークソガキわかってて大声出してんだろう」

 ぐったりした調子でカークは言うが、あっさり「うん」と悪びれもしない、爆発姉妹の妹マグエヌ。ごめんなさい、と姉のマグエスが珍しく、しゅんとして謝ってる。

 よっぽどカークの様子が気の毒だったんだろうな。

「無邪気は時として凶器、アルな。うう、流石のオレもちょいと酒が残ってるアル」

 

 

「なんでこう、村って集落の人達ってなぁ、こっちの体質やら胃袋のでかさやらを考えず、若者だからーとか、男だからーとか、カテゴリーで食わせる分量を、勝手に決めるんだろうなぁ。食い過ぎで死ぬかと思ったぞ」

 二日酔いの影響で、カークは一つ一つ言葉を区切るように話している。

「まあまあ、あんま朝から愚痴んないでって。こっちが滅入るし」

「お前、ほんと言葉の刃遠慮なくぶちこんで来るよな、アブニエ」

 

「あぶにえあぶにえ、ってこと?」

 じとっと言ったカークの言葉をなんでか冗句と判断したらしく、ダジャレに変換したマグエヌが大笑い。その笑い声にカークが頭を抱えることになった。

 

「ご愁傷さまね、カーク」

「笑いながら言うな。気の毒さが半減するぞ」

「なにはともあれ、朝飯アルよ。食えるアルかカーク?」

「様子見ながら食うことにするわ。冒険者は体力ないとやってらんねえからな」

 

「わーい、ゾンビだゾンビ、ゾンビカークー!」

 だらだら歩くカークがゾンビに見えたらしく、マグエヌが楽しそうだ。

「はしゃぐな頭に響く……」

「今回の依頼、ゾンビに始まりゾンビニ終わったわね」

「勝手に殺すな」

「いや、誰もアンタのこと死人しびとだなんて言ってないから……」

 などと雑談しながら、あたしたちは下の食堂に降りた。

 

 

***

 

 

「ふぅ。びっくりするぐらいスッキリしたな」

「そうアルな。スープのあの苦味が理由アルかね?」

 朝食を終えたところだ。二人の言う通り、ウルチパとカークのお酒は綺麗に抜けたらしく、カークにいたっては気怠さすら失せている。

 

「いったい、なにが入ってたのかしら? あたしたちは特に苦味はなかったけど。ねぇ?」

 爆発姉妹に話を振ると、同時に「うん」と頷きと同時の声。

 

「お粗末様でした。お二方、調子はいかがですか?」

 コックを兼ねてるらしい宿屋の店主が顔を出した。

「うまかったよ。驚いたことに、まったく二日酔いがなくなった」

「スープを飲んだとたん、たちどころに、だったアル。ありゃ、いったいなんだったアルか?」

 

「流石は冒険者、鋭い。あれは、エリーグラスを砕いた物を一つまみ入れた物でした」

 それを、しかもさらっと言われてあたしたち、年上組みが驚く。驚かざるをえない。

 

「な?」

「貴重品だろう?」

「エリーグラスって、万能薬の元アルよな? よかったんアルか?」

 

「お気遣いありがとうございます、ですが問題ありませんよ。小瓶一つ分はありますから、一つまみ程度では困りません。冒険者は体調第一、宴でのことで断り切れなかったでしょうし、それでお酒が残ってしまっては今日からの旅にも差し支えますからね。こっそりと治癒なおさせていただきました」

「ありがたき、良薬は口に苦し、だったんアルな」

「悪いな、二日酔いなんかにエリーグラス使わせて」

「むしろうちの都合で酔わせてしまったんですし、これぐらいはさせてください。それに、元冒険者としては、エリーグラス探しぐらいの張り合いがないと、人生つまんないですからね」

 そう言って店主はいたずらっぽく笑った。

 

「元冒険者、なるほど。カークとウルチパの様子を見てエリーグラスを惜しまなかったのは、同業者だったからか」

「普通の料理人なら、よほどの重病人相手にでもなければ、エリーグラスなんて貴重品を料理に入れたりはしないでしょうね。彼等は私みたいなのと違って料理の技のみを磨いた人達ですから、エリーグラスは冒険者に頼むか、いつ入手してるかわからない薬屋に頼るしかないですから」

「強みね」

「ええ」

 笑顔で頷く店主に、あたしは微笑を返した。

 

 

「それで、皆さんはいつごろ出発なさいますか?」

「身支度を整えたら、すぐ行こうと思ってる。食事の量がちょうどよかったからな」

「そうね」

「流石は元同業者、すぐ動けるぐらいの料がどのぐらいかわかってたんアルな」

「すごいよねぇ」

「うん、すごい」

 

 

「ありがとうございます。じゃあ、すぐに出られるなら、今渡しておきましょうかね」

「渡す、なにをだ?」

「長老からのお礼の品ですよ。皿を下げたら持ってきますので少々お待ちを」

 

「早いな、もう届けてたのか」

 「今朝に」ってだけ答えると、店主はお皿をいくつか持って厨房の方に引っ込んで行った。他にも何人か従業員がいて、その人たちもお皿を下げる。

 

 

「俺達が朝のうちに出るのわかってたのか?」

「立地が町と町の間だし、冒険者とか商人なんかが使うのかもね」

「なるほど、ありえるかもな」

「今回は、たまたまオレたちしかいない状況だった、ってことアルかね?」

 まるで謀ったかのように、ウルチパの言葉が終わったところで店主が戻って来た。

 

「どうぞ。長老からのお礼の品です」

 コトリとテーブルに置かれたのは、掌よりちょっとおっきいかな、程度の大きさの木彫りのドラゴン。

 

「「「ありきたりー」」」

 年上組み同時の言葉に、珍しくマグエスが苦笑いしている。小さく頷いたってことは、同意したらしい。

 

 

 凄まじい耐久力と回復力を持ち、属性攻撃を詠唱なんかの事前動作なく扱うドラゴンは、今でも精霊の化身って考える人は多い。

 昔は更に不死者として崇められてたって話を聞いたことがある。

 それでドラゴン信仰が世界中にあるってことで、だから無難なお土産として木彫りのドラゴンはあちこちで売られている。健康長寿のお守りの意味があるんだとか。

 

 逆を言えば、木彫りのドラゴンをこうしてお礼の品にするってことは村の特色がないとも言える。それでも、そのドラゴンに個性を付けようと集落毎いろいろしてるんだけどね。

 そんな土地土地の木彫りドラゴンを集めてる収集家がいるって言うんだから、世の中わからない。

 

 

「お? このドラゴン、片目が孔空いてる。なんかはめこめそう」

 まじまじ見てると思ったら、品定めしてたみたいねマグエヌ。

「ブラッドルビーは駄目よ」

 ぴしゃりと言い切るあたしに、「えー」と不服の声が返って来た。

 

「あんな呪われそうな色の宝石なんてはめこんで、魔動人形マリオンにでもなったらめんどう見きれないし。やるならせめて、別の宝石にしなさい」

「そもそもはめこんで遊ぶようなもんでもないしな、遺跡の宝箱の中身だし」

 

「でも、使わないんだったらいいでしょ?」

「駄目だ「駄目よ」」

「ううう」

 ちょっと涙目のマグエヌに、ちくっと罪悪感が胸を指すけど、これもまた耐えるところっ。

 

「流石に今回は、年上組みの言うこと聞くアルよエヌちゃん」

「むぅ……わかたアルよー」

 しょんぼりしてしまって、こっちが「うぅ」っとうめきたくなる。

 

「おっし。じゃ、部屋戻る蚊」

「そうね」

 一路部屋に戻ることにしたあたしたち。もうすぐ出発だ。

 

 

***

 

 

「世話になったアルな」

「エリーグラス、助かったぜ」

「お安い御用です。皆さん、道中お気をつけて」

 宿屋から出がけ、店主にそう声を賭けられた。

 

「そっちも、エリーグラス探し、気合入れすぎて怪我しないようにね」

「わかってますよ」

「じゃーねー」

「またねー」

 またねって言う辺り、マグエスは妹に比べると繋がりを大事にするのかもしれない。未だにいまいち理解しきってないのよね、二人の性格の違い。

 

 まあ、マグエヌはなんにも考えてないかもしれないけどね。

 

 

「次の町まで後少しか」

 村の出口に差し掛かったところで、カークが気合を入れる。

「ん? なんアルか、後ろの方が妙に騒がしいアルが?」

「そう?」

 言われて振り返って、あたしは目を丸くした。

 

「気を付けて行ってねー」

「気を抜かんでくだされよー!」

 村の人たちが、なんでか長老の家からあたしたちを見送っていた。みんなこの距離からでも見えるぐらい、大きく腕を振っている。

 

「……なんで、あんな距離から?」

「くっついて来るのが恥ずかしかったんじゃないか? あの人数だし」

「そう……なのかしら?」

「なんにしても、いい人達ってことアルな」

 

「「いってきまーす!」」

「たぶん、聞こえてないわよ」

 大声で返事するツイン・エラプションに、あたしは微笑で突っ込んだ。

 

 

「じゃ、改めて。エブリデブット、初心わするるべからず。気を引き締めていくぞ」

 カークの言葉に、あたしたちは同時に

「「「「「おー!」」」」

 と拳を振り上げた。

 

 

 ーー人に見られたくないんだけどね、これ。冷静になると恥ずかしいから。

 

 

 

 

 

 

                   これで(THE) おしまい(END)

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