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役立たずと追放された僕が傷ついた女騎士の居場所になったら、命懸けで愛されるようになりました  作者: 座間あぜん


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第17話 損害賠償

●レックス視点


ノーランが王都を救ってから、数日が過ぎた。


街を襲ったアーマードドラゴンの群れは退けられ、壊れた建物の修復も少しずつ進んでいた。あの日、純白の翼を広げて空を飛び、黄金の光で人々を守った冒険者の話は、王都のあちこちで語られている。


その一方で、俺たち『黒い太陽(エクリプス)』には、最悪の知らせが届いていた。


「……損害賠償、だと?」


冒険者ギルドの応接室。机の上に置かれた書類を見つめながら、俺は思わず声を上げた。


「そうだ。お前たちがアーマードドラゴンの巣を破壊したことが原因で、今回の被害が発生した。ギルドからも事前に警告していたはずだが?」


ギルドマスターの声は冷たかった。


俺たちが破壊した洞窟は、ゴブリンの巣ではなかった。アーマードドラゴンが群れで暮らしていた巣だった。俺たちはその警告を破り、何も考えずに入口を破壊した。その結果、ドラゴンの群れが街へ押し寄せ、多くの建物が壊され、住民が負傷した。


言い逃れのできない失敗だった。しかし……。


「ま、待ってくれ! 俺たちだって、わざとやったわけじゃない!」

「わざとかどうかは関係ない。お前たちは警告を受けていた。それにもかかわらず、確認を怠り、危険な巣を刺激した。その責任を取ってもらう」

「そんな……!」


書類には、俺たちが支払うべき賠償金の額が記されていた。


目がくらむような金額だった。


これまでSランク冒険者として稼いできた金をすべて差し出したところで、到底足りない。装備を売り払い、蓄えていた財産をかき集め、それでも足りる気がしなかった。


俺は震える手で書類を握りしめた。


「……こんな金、払えるわけがないだろ」

「ならば、相応の処分を受けることになる」

「処分……?」


ギルドマスターは、もう1枚の書類を机に置いた。


「お前たち4人の冒険者登録を抹消する。今回の件は国王にも報告済みだ。Sランクという肩書きも、もはやお前たちを守るものにはならない」

「ま、待てよ! これまでだって、たくさんの依頼をこなしてきた! それなのに、こんなことで全部取り消されるなんておかしいだろ!」

「こんなこと、だと?」


ギルドマスターの目が鋭くなった。


「お前たちの行動で、何人もの住民が傷ついた。家を失った者もいる。Sランク冒険者とは、力を持つ者として責任を負う立場だ。自分の失敗を棚に上げ、Sランクだから許されると思っているのなら、今すぐその考えを改めろ」


何も言い返せなかった。


ヴォルクスも、オラクルも、メルシーも、黙ったまま俯いていた。


俺たちは王都でも名の知れたパーティーだった。依頼を受ければ誰もが期待し、俺たちが現れるだけで人々は安心した。


それなのに、今は誰も俺たちを見ていない。


見ていたとしても、その目に宿っているのは期待ではなかった。怒りと、失望と、軽蔑だった。


俺は歯を食いしばった。


どうして、こんなことになった?

どうして、俺たちがこんな目に遭わなければならない?


……いや。


答えは分かっていた。


俺たちは、ノーランがやっていた仕事を何も理解していなかった。道具の準備も、薬の管理も、食料の確保も、危険な場所を避けるための情報収集も。あいつがいなくなって初めて、それらがどれほど大切だったのかを思い知らされた。


あいつは俺たちが失敗したせいで起きた災害から、街の人々を救った。俺たちが手も足も出なかったドラゴンを、たった1人で退けてしまった。


そして今、あいつは……。


「……ノーラン。クソ、クソ、クソ」


俺たちの冒険者としての人生は、終わったのだ。





●屋敷前


同じ頃、ノーランとブレンダは、王都の外れにある屋敷の前に立っていた。


「……ここが、僕たちの家なんですか?」


ノーランは目の前の建物を見上げながら、呆然と呟いた。


広い敷地を囲む白い塀。手入れの行き届いた庭。その奥に建つ、落ち着いた色合いの大きな屋敷。正面には立派な扉があり、窓はどれもきれいに磨かれている。少し歩けば馬車が何台も停められそうな庭もあった。


どう見ても、普通の冒険者が住む家ではない。


「そうだ。王から賜った屋敷なのだから、遠慮する必要はないぞ」


隣に立つブレンダが、嬉しそうに微笑んだ。


「で、でも……僕なんかが、こんな立派なところに住んでもいいんでしょうか」

「ノーランだからこそ、だろう?」


ブレンダは当然のように言い切ると、ノーランの手を取った。


「お前は王都の人々を救った。褒美を受け取る資格がある」

「ブレンダ……」

「それとも、私と一緒に暮らすのは嫌か?」

「そ、そんなことありません! 嬉しいに決まってます!」


慌てて答えると、ブレンダは頬を緩めた。


「なら、よかった」


そう言って、彼女はノーランの腕に自分の腕を絡めた。


「これからは、毎日一緒に食事ができるな。朝も昼も夜も、ずっと一緒だ」

「24時間?」

「ああ。私はもう、お前と1分たりとも離れるつもりはないからな」


真剣な顔で告げられ、ノーランの頬が熱くなる。


「……僕も同じ気持ちです」


ブレンダはノーランの頬に口づけた。


「これからよろしく頼むぞ、ノーラン」

「こ、こちらこそ、よろしくお願いします……!」


2人は手をつないだまま、屋敷の中へと足を踏み入れた。


玄関を抜けると、広々とした廊下が続いていた。磨かれた床に窓から差し込む光が反射し、壁には美しい絵画が飾られている。奥には大きな食堂があり、隣にはゆったりとくつろげそうな居間もあった。


ノーランは、どこを見ても落ち着かなかった。


「僕、こんな場所に住むのは初めてです。今までは、安い宿を転々としていましたから」


ブレンダは彼の手をぎゅっと握った。


「食事も、寝る場所も、心配しなくていいのは有難いな。何かあれば私に言ってくれ。私にできることなら、何でもする」

「……ありがとうございます。でも、さすがにメイドを雇った方がよさそうですね」


ノーランはあの日を思い出す。


追放されたあの日、彼は自分には何もないと思っていた。居場所を奪われ、貯金まで失い、明日をどう生きればいいのかさえ分からなかった。それなのに、今は立派な屋敷があり、生活を心配する必要もなくなった。そして何より、自分の隣にはブレンダがいる。


自分を必要としてくれて、信じてくれて、好きだと言ってくれる人がいる。


「……僕、本当に幸せです」


小さな声で呟くと、ブレンダは彼の顔を覗き込んだ。


「私も幸せだぞ」


そして、ノーランにそっと寄りかかった。


「お前がいてくれる。本当はそれだけで十分なんだ」

「ブレンダ……」


ノーランは彼女を抱きしめた。


もう、独りではない。もう、誰かに必要とされないと怯えることもない。自分の居場所は、ここにある。大切な人と一緒に過ごせる、この場所に。


ノーランはブレンダの髪を優しく撫でながら、心の中で誓った。


彼女を守りたい。彼女が安心して笑っていられる場所を、ずっと守り続けたい。そして、いつか自分を信じてくれた彼女に、もっとたくさんの幸せを返していきたい。


そんな未来を思い描きながら、ノーランはブレンダを抱きしめる腕に、そっと力を込めた。

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