第16話 追放された僕が、S級冒険者と貴族になりました
僕は空に飛んで、改めて周囲を見渡した。街はひどい有様だった。建物の壁は崩れ、道には瓦礫が散乱している。竜の炎に焼かれた跡もあちこちに残っていた。そして、その中には傷ついて倒れている人たちが大勢いた。
「た、助けてくれ……」
「誰か、妻を……妻を助けてくれ!」
苦しそうな声が聞こえてくる。竜を追い払うことはできた。でも、それで終わりじゃない。目の前で助けを求めている人たちを、このまま放っておくことなんてできなかった。
「大丈夫です。今、治しますから」
僕は両手を広げた。
すると、身体の奥から金色の光があふれ出した。光は僕の手から広がり、地面を伝い、街全体を包み込んでいく。傷ついた人たちの身体が金色に輝き始めた。
「な、なんだ……この光は?」
「傷が……傷が塞がっていく!」
裂けた皮膚が元に戻り、血が止まり、苦痛にゆがんでいた顔から険しさが消えていく。竜の炎で重傷を負った冒険者も、瓦礫の下敷きになっていた住民も、次々と回復していった。
「嘘だろ……。さっきまで、もう助からないと思っていたのに……」
「ありがとう……! 本当に、ありがとう……!」
あちこちから歓声と泣き声が上がった。家族と抱き合って泣いている人もいれば、何度も僕に頭を下げている人もいる。僕はそんな光景を見て、ようやく胸をなで下ろした。
よかった。みんな、助かったんだ。
そう思って地面に降り立った瞬間、背中から勢いよく抱きつかれた。
「ノーラン!」
「わっ、ブレンダ!?」
振り返ると、ブレンダが僕の胸に顔をうずめていた。彼女は僕の服をぎゅっとつかみ、まるで二度と離すまいとするかのように抱きしめている。
「本当に……本当に、無事でよかった……!」
震える声だった。顔を上げた彼女の瞳には、涙が浮かんでいた。
「約束しましたから。ちゃんと帰ってきましたよ」
「……ああ。そうだな」
ブレンダは小さく笑うと、僕にそっと唇を寄せた。
「えっ……!?」
「な、なんだ? 嫌だったか?」
「い、嫌じゃないですけど……! みんなが見てますよ!」
周囲から微笑ましそうな視線が集まっていることに気づき、僕は顔が熱くなるのを感じた。けれど、ブレンダは気にする様子もなく、僕の手を握った。
「いいじゃないか。私は、お前が無事に帰ってきてくれたことが嬉しいんだ」
「……僕も、ブレンダに会えて嬉しいです」
そう答えると、彼女は嬉しそうに笑った。僕はその笑顔を見て、改めて思った。
この人を守れて、本当によかった。
その後、僕たちは冒険者ギルドへ向かった。街の被害状況を確認していたギルドマスターは、僕たちの姿を見つけるなり、目を見開いた。
「君が……、本当にあの竜の群れを退けたのか?」
「はい。なんとか、街から遠ざけることができました」
「なんとか、だと……?」
ギルドマスターは額に手を当て、深く息を吐いた。
「アーマードドラゴンの群れだぞ。熟練の冒険者が何十人集まっても、全滅しかねない相手だ。それを君は1人で退けた。しかも、街中の負傷者まで一気に治療したというじゃないか」
「ええ、まあ……」
「君は本当に、自分が何をしたのか分かっていないらしいな」
ギルドマスターは呆れたように笑ったが、その表情には深い感謝がにじんでいた。
「今回の功績に対して、ギルドから特別報奨金を支給する。金額も、通常の依頼報酬とは比較にならないものになる」
「そ、そんなにですか!?」
「当然だ。君が救った命の数を考えれば、むしろ少ないくらいだ」
提示された金額を見て、僕は思わず言葉を失った。これだけあれば、ブレンダと一緒に暮らしていくためのお金にも困らないだろう。装備を整えることもできるし、いざというときのために貯金だってできる。
「ありがとうございます。大切に使わせていただきます」
僕が頭を下げると、ギルドマスターは真剣な顔でうなずいた。
「それから、もう1つ話がある。今回の功績については、ギルドだけでは判断できないほど重大なものだ。王国上層部にも報告してある。君には、改めて正式な評価が下されることになるだろう」
その言葉の意味を、僕はまだ理解できていなかった。
数日後。僕は王宮へ呼び出された。
豪華な装飾が施された大広間。左右に並ぶ騎士たちと貴族たちの視線を浴びながら、僕は緊張で背筋を伸ばしていた。隣にはブレンダもいる。彼女は僕の手をそっと握り、小さくうなずいてくれた。
やがて、玉座に座る国王が口を開いた。
「ノーラン・トッド。そなたの功績は、すでに聞き及んでいる」
「は、はい!」
「竜の群れによる襲撃を食い止め、街を救い、さらに数多くの負傷者を癒やした。その働きは、王国にとって計り知れない価値がある」
国王は立ち上がり、広間に集まった者たちを見渡した。
「そなたの功績を正式に認め、ここにS級冒険者としての認定を授ける」
「……えっ?」
思わず声が漏れた。
S級冒険者。
冒険者の中でも、ほんの一握りしか到達できない最高峰のランクだ。僕はつい最近までFランクで、薬草採取の依頼を受けていた。それが、いきなりS級だなんて。
「僕が……、S級、ですか?」
「そうだ。そなたの力と功績は、その地位にふさわしい」
国王は穏やかにうなずいた。
「そして、これは冒険者としての評価だけではない。そなたは多くの民を救い、王国を守った。その功績に報いるため、褒賞金を授ける。加えて、そなたが今後安心して暮らし、その力を発揮できるよう、広大な土地と屋敷を与えよう」
言葉が出ない。
「土地と屋敷……」
「さらに、そなたを王国の貴族として叙爵する」
「……えええっ!?」
今度こそ、僕は声を上げてしまった。
S級冒険者になるだけでも信じられないのに、土地と屋敷まで与えられ、貴族になるだなんて。いったい何が起きているんだろう。
「お、恐れながら、僕にはそんな……」
「遠慮する必要はない。これはそなたが成し遂げたことへの正当な褒賞だ」
国王はそう告げると、僕の目をまっすぐに見つめた。
「ノーラン・トッド。これからも、その力で多くの民を救ってほしい」
僕は深く頭を下げた。
「……はい。僕にできることがあるのなら、精いっぱい頑張ります」
その言葉を聞いて、国王は満足そうにうなずいた。
王宮を出たあとも、僕はしばらく現実感がなかった。S級冒険者になって、褒賞金をもらって、土地と屋敷を与えられて、貴族にまでなった。少し前まで、お金も住む場所もなく、明日どうやって生きていこうか悩んでいたのに。
「ノーラン」
隣を歩いていたブレンダが、僕の手を握った。
「おめでとう。本当によかったな」
「……ありがとうございます。でも、まだ信じられません」
「ふふっ。私も、少し驚いている。まさか、お前がこんなに立派な地位を手に入れるとはな」
「僕だって、こんなことになるなんて思っていませんでしたよ」
僕たちは顔を見合わせて笑った。
でも、1つだけ確かなことがある。僕には、ブレンダがいる。僕を信じてくれて、僕の帰りを待ってくれて、僕の隣にいてくれる人がいる。
それだけで、僕は十分に幸せだった。




