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あんよあんよ、じょうずねあんよ  作者: 彩ぺん
逃話「悪縁は悪果に至る」

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5/7

 徹を()いたのは、運転中に突然の病で亡くなった初老の男性だ。封筒からはみ出ていた髪の毛は、まさか、その人のものだというのか。誰が、なぜ、そんなことを。

 轢かれて亡くなったなら分かるが、徹は生きている。

 パタパタパタパタ、パタパタと足音は迫ってきては遠ざかる。何かの気配も遠ざかっては近づいてくる。音と気配が一致しないので頭がおかしくなりそうだ。


「ふふっ。信じぬからだ。今からは言う通り動け」


 この声は聞いたことがない。背中を毛のようなものが撫で、甘い香りがした。これは、彼女の香水の匂いとは違う。同じだと思い込んだけど、明らかに異なる。

 ぐるりと周りを見渡したが誰もいない。


「まずは真っ直ぐ。彼岸寺へお行き」


 その声は、あまりにも優しく響いた。

 彼岸寺。そうだ、今の和尚は霊を祓える人だった。転びそうになりながら走り出す。


「神の手を借りるには徳が足りぬ。残念ねぇ〜。ほうら、あんよあんよ。急いでお行き」


 神とはなんだ、自称神で偽物なのかと考えかけるも、それどころではない。


——あんよあんよ


 あの夜とは違う、さっきした女性の声が歌うように告げる。軽快に手を叩く音が前でするし、後ろからはパタパタという足音が追いかけてくる。


——じょうずよあんよ


 パタパタパタパタ


——ほらほら、頑張りなさい


 パタパタパタパタパタ


 足音が消えて、刃物の音に変化した。シャキンと噛み付くように迫ってくる。背後で金属が何度も擦れる。

 ひやりとした何かが腕に触れたので、思いっきり払った。もう女性の声はしない。

 紙袋の紐が切れた。中身が地面に落ち、つい見たら、誰もいないのに箱が潰れた。


「ひっ!」

 

 こんなのもう、勘違いではない。あの夜と同じで、霊がいる。封筒を拾っただけなのに、何か誤解されて怒られている。

 女の声は本当に神なのか。なぜ助けてくれない。

 彼岸寺の境内に続く参拝道に足を踏み入れると、空気がかなり重たくなった。足まで重い。

 境内まであと少しというところで、階段の手前で、何かに足首を掴まれた。氷のような冷たさに悲鳴を上げたが、それはつもりで、声は出なくてえずいた。


 ぐっと足を引っ張られたせいで、体が前に倒れた。このままでは顔面が地面に突っ込む。急なことで体は上手く動かない。

 すると、ふわふわしたものが顔に触れた。なんだと思ったら、顔が地面にそっとついた。倒れて殴打になるところだったのに、軟着陸というように。

 足首は、まだ何かに掴まれている。慌てて体を起こす。すると、目の前を地蔵が横切った。彼岸寺の地蔵墓は、どれも一つ一つが大きめで立派なのに、割れるはずがないのに、足元部分が折れるようにして倒れてきた。


「ぎゃあああああ!」


 大絶叫が闇夜を切り裂いた。内側を針で刺されたように耳が痛む。

 足首を掴む何かの力が緩まった。幸司は耳を塞ぎながらハイハイのように進んだ。震える体で立ち上がり、階段を駆け上がった。

 数段だけの階段を這うように進み、門を抜ける。

 すると、門は勝手に閉まった。もう、足音はしないし、刃物の音も。掴まれた左足首にはまだ冷たさが残っていて、汗だくの体の中で、そこだけが自分の体ではないみたいな感覚がする。

 

「ふふっ」


 頭を柔らかで毛のようなものが撫で、甘い香りが漂う。グシャッと何かが後ろに落ちたので、体を竦めながら見ると、紐から離れた引き出物の袋だった。

 コロコロと転がってきた飴入りの瓶が靴にぶつかった。

 コンッと。


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