恋愛レベル0同士
アスカの家に着く。早足で歩いてきたおかげで、いつもより大分短い時間で帰宅した。
「はぁ、疲れた……スグル君ありがとう!」
やっと腕を離したアスカにほっとするスグル。
「いや、むしろありがと……じゃあ」
「あら、アスカおかえり〜、お友達? 何だか顔が赤いわよ? ちょっと休んでいけば?」
アスカの母が玄関から出てきた。
「お母さん」
「あ、こんにちは」
咄嗟に挨拶するスグル。現世でも礼儀正しい。
「こんにちは! 私買い物行ってくるから、じゃあね〜」
母はスタスタ行ってしまった。
「確かにスグル君顔赤い! この前熱出たばっかりだし、休んでって?」
「へ? いいよ、悪いし!」
この赤さはそういうんじゃない。
「いいから、いいから」
結構強引なアスカである。スグルが家に入る。
「お邪魔します……」
「お茶飲んでって」
アスカがキッチンへと向かう。
なぜ僕はアスカさんの家に……
「誰もいないし、緊張しなくて大丈夫だよ」
二人だけの家という事実に、むしろ変な緊張をしてしまうスグル。
「お茶飲んだら帰るんで、すみません」
リビングの椅子に腰掛ける。
アスカが出してくれた麦茶を飲む。
生き返る! 確かに喉乾いてた!
「スグル君には、色々迷惑かけてごめんなさい」
アスカが謝る。
「いいや、そんな事思ってないよ」
スグルは手を振る。と、手がコップに当たってこぼれる。
「あ! ごめん、何か拭く物……」
アスカを見たスグルは停止する。
「冷たい」
アスカのブラウスに、麦茶が盛大にかかっている。
「アスカさん! ごめん!」
スグルは下を向く。
「いいよ、このくらい、タオル持ってくるね!」
持ってきてくれたタオルでテーブルを拭く。床も濡れていた、膝をついて拭くスグル。
「アスカさんも着替えてきた方がいいよ」
下を向いたまま伝える。
「うん、そうする……ひゃっ!」
濡れた床で滑ったアスカが尻もちを着く。
「大丈夫?」
スグルは咄嗟に顔をあげた。
目の前にアスカの上半身があった。アスカはお尻を打って床に座り込んでいる。
「いたたた。床も濡れてたんだね」
スグルの自制が一瞬切れた。
アスカの頭に手をまわして、そのまま押し倒した。
「え?」
お互いの顔がとても近くにある。
アスカは目を丸くしている。
スグルは真剣な表情でアスカを見下ろしている。
「……スグル君?」
唐突に自分がした事を後悔した。
「……ごめん!」
スグルはアスカの家を飛び出した。
アスカは起き上がり、洗面所へ向かう。
スグル君、一体どうしたんだろう?
鏡で自分の姿を見てはっとする。
麦茶で濡れたアスカは、とても上品とは言いがたい姿である。ブラウスの下、シャツまで濡れて……透けている。
アスカは、スグルがした事が何か思い当たり真っ赤になる。
わわわわわ!
動揺しながら着替え、リビングへ戻ると見知らぬ鞄が……
スグル君、忘れてったんだ。
鏡で自分の姿をチェックしてから鞄を届けに向かう。
連絡先交換しとけばよかった。
スグルは走って家に向かう途中で、手ぶらだという事実に気付いた。
でも取りに帰るのは気まずすぎる。でも鞄がないと家に入れない。
「はぁ。どうしよ……」
いつだか、アスカと雨宿りした公園で一人ため息をついた。あの日と違い、今日はとても良い天気だ。
自分は一体どうしたのだろうか? あんな事をしてしまうなんて。
スグルは眼鏡を外して、両手で顔を覆う。
「スグル君!」
アスカさんの声が聞こえたような気がする。幻聴だ。僕はアスカさんが……
「スグル君?」
すぐ横から声がして、手の隙間から覗き見る。
「アスカさん?」
「鞄忘れてったから……大丈夫?」
アスカが隣に腰掛ける。
「届けてくれたの! ありがとう! あと、さっきはその……魔がさしたというか、あの! 本当にごめんなさい!」
スグルが頭を下げる。
「大丈夫だから! スグル君に謝られると困る!」
王子が騎士に頭を下げるなんて!
「優しいね、アスカさん」
スグルが顔を上げる。
眼鏡なしの顔面にアスカは赤面する。
「あの、今更なんだけど、連絡先教えて?」
アスカが伝える。
「ふふ、確かに今更だね」
二人は微笑みながら、連絡先を交換した。
「スグル君は魔がさしたって言ったけど……私じゃなくても魔がさす事はあるの?」
アスカの直球すぎる質問に、たじたじのスグル。
「いや、その! 僕あんまり経験ないから、正直分からないんだけど、アスカさんの事は気になっちゃうから余計にというか……」
スグルは自分で言っていて気づく、あれ? これ告白じゃないか?
「気になるっていうのは?」
畳み掛けるアスカ。
「それは! 何でか尾行してたり、寝てる姿が可愛くてオデコにキスしちゃったり、二人だけの家っていうシチュエーションにドキドキしちゃったりする……いわゆる、好きなんだと思います」
最後は消え入りそうな声で告白した。




