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Log 09:なんなんだよまじで

あと10メートル、5メートルと距離が縮まるたび、

僕の頭の中の何かが弾ける気がする。


二人の頭がこちらに向くまで、僕は怪訝な顔を浮かべていた。


「あ…あ…っ!」


何かを言おうとしてもいえなかった。

だって、だってよ!!!

二人の顔があんなに嬉しそうだなんて、聞いてないじゃないか!


「…っ!誠くんだぁぁぁぁぁぁ!」

「誠ぉぉぉぉ!」


篤、そして沙羅。

二人が叫んだもんだから、周りの注目を集めたではないか。

何してくれてんだ。やっぱり、ダメだな。


でもなんだかそれが、心地よかった。


「おい声でかい。」

「いや、ごめんまじ嬉しくて!」


なんで嬉しいんだ。

生徒がただ文化祭にきただけだろ。


「…なんで罵らないんだ。」


バカに興味なとはない。

だけど、僕は気になってしまっている。


「は?罵る?なんで?」

「いや、遅刻…しただろ…?」


二人はきょとんとした顔でこちらを見つめた。

僕の方がびっくりしてるっつーの。


「…。」


鼻にできたニキビをすこし触りながら、僕は返答を待つ。


「遅刻したら、誰かが罵らないといえねぇの?」

「そんなことしてたら、だれも耐えられないでしょ。」


でも、僕なら耐えれるし君たちとは違う。

そんな罵倒が、喉につっかえて消えていく。


「それに誠だからな。どうせ毒吐かれるだけだっ!」


半笑いでそう言う篤は、本当に楽しそうだった。

それに呼応する如く笑う沙羅も、別段耳障りではない。


「そーかよ。で、店はどうなんだよ。」


僕がかけた店、つまりアホたちの巣窟はしっかり運営されているのだろうか。

薄暗い店内、それがコンセプトになっているらしい。

なかなか綺麗な内装に、僕の考案した外装。


ただ、僕がいないわけだ。

店内が回るはずないだろうがな。


「それがよ!大大大繁盛してんだ!」


一瞬でその気持ちが打ちひしがれた。

繁盛しているのは良い。

でも僕の知らないところで起きていることが、すこし気に触る。


「もちろん誠くんの外装もだしさ、なによりメイド服着て宣伝してた雄志とか、ボディービルダーの服着て宣伝してた雫とか、まじおもしろくて!客引き大成功してんだよね!」

「ははは!まじあれやべぇよな!」


どこにでもある青春。

どこにでもある青春。

言葉が巡回する。


「しかも篤のその服なによまじで!」

「沙羅だって!」


見合って二人は笑った。

でも僕は笑っていない。


二人とは、全く別の世界にいるみたいだった。

生産性も何もない、“感情”っていうクソ。

それが充満してるだけってのに、なんでこんなに悲しくなるんだ。


「誠、はやくシフト変われよっ!お前のマネジメント力あればもっと繁盛狙える!」


僕に小さい光が差し込めているようだった。


別にこいつらといることを望んでるわけじゃない。

だって僕はこいつらとは違うだろ。

わざわざその輪に入り浸る必要もない。


断ろう。


そう決心した刹那、僕は二人を見る。

キラキラとした目、いまにも走り出しそうな手。

教室の中からも、僕を見つめる生徒がほとんど。


「わかった、足引っ張んなよ。」


いったい、この気持ちはなんだろう。

価値がない感情を切り捨ててきた。

だからわからないのか。

…いやわかる必要もない。そうだろ。


「いいか?お前らみたいな下劣な野郎どもを世話してやるって言ってんだ。なんか見返りかってもいいだろ?」


これで、いい。


僕は冷酷さを捨ててはいけない。

僕は生産性を求め続けなければならない。


じゃなきゃ…僕は…、

僕は僕を否定することになってしまう。


だから言うしかない。

僕のために、僕の言葉を尖らせるんだ。


「んだよそれぇ〜。あ、なら終わったらみんなでバーゲンダーツのアイスでも買いに行くぞ!」


アイスで僕を動かせると思うなよ。


「おいそんな…」

「よっしゃぁ!誠が来たぞお前らぁぁ!」


否定しようにも、言葉が切られてできなかった。

先ほど僕を見ていた生徒も、見ていなかった生徒も、みんな僕の存在を確認してニコリと笑う。


「…AIと僕のタッグ実力を見せてやる…。」


そうだ。結局結果が全てものを言う。

最も生産的に、かつ多くの利潤を得る。

これができればきっと僕への報酬も高くなる。

世の中はそう言う摂理でできてるんだ。




———誠はきっと溜まっていたのだろう。


何かに取り憑かれたように働くその様は、

クラスメイト全員が引くほど…いやそれは盛りすぎかもしれない。

ただ、誠の頑張りは並外れである。


その精神力は長年培ってきているため本物。


AIを駆使した経営戦略、ビラ配り、彼自身の客引き、ネットでの配信。

すぐに結果が出るものから出ないものまで、やり尽くす。


文化祭一般公開は〜17:30。

5時間の労働はなかなかハードなものだが、

彼は彼の何かと戦うためにやり遂げた。


確かに彼の言葉はきつい。

でもその代わり、その実力は本当に確かなもの。

どうやらマネジメント能力に関しては、ずば抜けていたようだ。




「す、すご。ほんとに全部売り上げちゃったじゃん。」


だから言っただろ。

僕がいれば、絶対失敗しない。


「当たり前だ。僕がマネジメントしてんだぞ。」


総売り上げ、18万。仕入れ3万ちょい。


「途中客足が減った時、誠くんがいたからまた回転率上がったよね。」


沙羅がそう呟いた。

それに空気が迎合するように、いろいろな言葉が飛び交った。


「俺注文ミスもしたけど、助けてもらったわ。」


今度は篤。

僕は必要な人材だと、大体のやつはわかってきたらしい。

頭ごなしに叱ってるわけじゃなく、

あいつはただものではないと。


理解が遅いのはバカの特権だから仕方ない。


でもなぜだろう。

かけられたことない言葉は、妙に心を揺さぶるものだ。


「わかったか愚民。これに懲りたら、もう僕にフランクに話すなんて…」

「誠お前まじすげぇな!!!」

「っておい!」


もう何言っても無駄だな。

生産性を落とさない事柄なら、別に咎めることもしない。

だって無駄だから。無駄だからな。




「文化祭の打ち上げ行く人ぉ〜!」


雫がそう声を上げた。甲高い目障りな声。

ただそれが脳内で走っているが、瞬間沙羅が僕の手を引いた。


「誠くん、いこ!ね!」


ね!と言われても、そんなの行ったことも行くかもないわけだ。


「いや、僕は…」

「えまじ!?誠くんの?いいやんいいやん!」


篤がそう言ったことで、周りには僕が打ち上げに参加する、と固定概念が建設されてしまったのである。


下郎の戯事など、なんの意味があって行くのか。


僕は僕なりに生産性を大事にしたい。

でもそれを同調圧力で抑え込み、僕の生産性を落とすことは許されざることじゃないのか。


「ったくしかたねぇ。何時から何時だよそれ。」


まただ。

頭で否定してるのに、言葉で否定できない。

だから結果的に、否定に行き着くんだ。


「20:20から焼肉屋予約するよぉ!」


20:20、僕はいつもその時間数学を勉強してる、AIとな。


「よしじゃみんなまたあとでねぇ!」


クラスは解散され、それぞれが帰路につく。

ほんと、普通だな。そんなんで楽しいのかよ。

効率悪く誰かと帰り、呑気に笑う。


僕はこいつらとは違う。

違うんだ。絶対に、絶対に違う。


「まことくー…ん?」

「僕一人で帰るから。じゃ。」

「絶対…きてね…?」


黙れよ、が出そうで出ない。

ああもう、まじなんなん。


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