Log 07:毒される。
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こんなに空いているものなんだな。
一本前の電車は。
いや、違うのだ。
沙羅たちが気がかりなわけではなく、仕方なかった。
いやよく考えてみれば、僕が携わっていながらゴミのような出し物を出されてみろ?僕の顔が立たない。
「…診断する…Diagnose…。」
「あ、誠くんだぁぁ!」
うるさ。災害なみだろう。
こんな朝っぱらから、よくそんなに喉が開くな。
「うるさいし、その声で誠くんって呼ぶなよ。」
「あれ、誠来たのか!?」
篤まで僕を誠呼びしやがる。
「おい待てよ。誰が下の名前呼びを許したんだ?」
「え?沙羅が解禁されたぞって嬉しそうに…」
この女、噂に聞くフレネミーってやつか?
いや、フレンドではないからただのenemyなわけだが。
「沙羅お前、いい加減にしろって言ったよな!せっかく来てやったのに、これじゃ気分下がったりだ…。」
「まぁいいじゃねぇか!そんなのどうでもよくねぇか!な!」
「…どけ!」
僕は篤の手を振り払い、静かにため息を落としながら階段を登る。
「おい!手伝えって!」
「適当にやっとくって!」
そこからは、本当に非効率の連続。
朝、ホームルームが終わると同時に全てが動く。
誰かが買い出しに赴く。
そして、誰かが未完成の看板を持ってくる。
昨日の午後で終わらなかったのか、と改めてこいつらを嘲笑した。
「ね!ここにこんなのどう!?」
「時間かかりそうだけど、かなりアリ!」
なぜ作業を増やすのか。
看板は所詮看板止まりだろ。
しかもだ。この看板、かなり小さい。
この大きさの看板すら、昨日で完成できなかったのか。
そう思うと、ますます呆れてきた。
ふと周りを見れば、誰もが自分のエゴを出している。
こうがいいんじゃないか、そう意見がまとまらず。
最終的に全てを取り入れているわけだ。
こんな非生産的なやり口が、この世にあって良いのか。
「誠!少しは手伝ってよ!」
雄志…。この男、この男も僕を呼び捨てるのか。
「なんで?僕は見てるだけで価値を生み出してるんだけど。」
「もうすぐ完成なんだよ。ほら、お前が買ってきたいろいろを取り付けたとこなんだよ。」
ああ、そんなこともしたな。
それも戯事にすぎないわけだが。
「僕に何をしろと?」
「誠にはさ、仕上げを頼みたいんだ。」
「仕上げ?」
仕上げ、それは僕に任せるべきだと気づいたのか。
下賤な雑民の割に、よくわかってるじゃないか。
「ああ、仕上げだ!この看板に糸つけて、天井から吊るすんだ!」
そのために、わざわざ小さめに作っていたのか。
「ここに糸通せる?」
雫が上部の小さく開いた穴を指差した。
雄志が白い糸、いや紐を渡してくる。
「こんなことでいいわけかよ。」
僕は、5秒も経たずに紐を取り付けた。
雄志も雫も、なんとなく笑顔を浮かべている。
「へー、まこっちが器用だったとは…意外だな。」
「ま、まこっち!?」
思わず間抜けな声を出した。
いや間抜けなのはそっち。
なんだ、まこっちなんて呼ばれたことはない。
「おい、なにがまこっちだよ。なんだそれ。」
「あだ名だよ?あだ名。」
雫は平然とそう言い放つ。
でも、僕にとっては異常事態も甚だしい。
「まこっちはやべぇだろ雫w」
「いや、誰かとの距離を縮める確実な一手なんだよ!」
馬鹿馬鹿しくて声もでない。
その時の僕は、目を見開いて手を止めていた。
看板を持っていた手が緩んで、地面に落ちる。
その音が、雫の中の何かを鞭打った。
不貞腐れたような顔で、僕を見ている。
「わかったって。誠、早くつけよ!」
わかってないだろこの女!
「脚立用意したぞー。」
篤の声がした。
今、物事が高回転で回りすぎている。
追いつけないぞこんなの。
「しかたないなぁ…。」
僕は持っていた参考書を下に置き、脚立の方へ向かった。
「誠、ここにかけてくれ!」
言われなくてもやるわボケナス、喉まで出たがやめた。
一段、また一段。
何かが変わる気がしたこの脚立を、僕は登る。
変なんだよ。何かが。
これを掛けたら、何かがあるような。
「なに、ここにやればいいのね?」
「おうよ!」
「たのむよ!」
篤と雄志に背中を押され、
僕は天井にかかっていた突起に手を伸ばす。
「ほいっ。掛けたよ。」
刹那、みんながこちらを見ていた。
正直照れ臭かった。
いや照れくさいじゃない。
恥ずかしさがなんとなく怒りになり、
その矛先が篤と雄志に向いた。
でも、なぜだろう。
僕はこいつらに、怒鳴れる気がしないんだ。
脚立から降り、
誰一人として喋らない中で静かに看板を見上げる。
他クラスのざわざわが、僕たちの耳を貫いた。
誰かが歩く音、何かの作業音。全部が鮮明に聞こえてくる。
あの店で買ったいろいろな装飾が、そこに施されていた。僕が触れたものがそこにある。
誰も手の届かないところへ、飾ってある。
だから、気持ちが良いのだろうか。
効率じゃ片付けられないような、何かがある気がする。
でもそんなもの存在していいわけない。
だから、心で否定できずに、そのまま否定した。
「おい、めっちゃいいじゃねぇか…!」
「誠、ありがと!」
後ろからその言葉が聞こえ、僕は何を思っただろう。
よく、わからない。
「…バカじゃねぇの…。」
そう呟いたのが、みんなに聞こえたのか。
雄志が、僕の肩に手を置いて囁いた。
「な。バカみてぇにいい出来だな…。」
これ以上ここにいたら、なんだか毒されそうな気がする。何に毒されるかはわからない。
だが、なぜか直感がそう言っている。
「バカとつるむ暇はない。帰る。」
言葉を発している間、一度もあいつらの顔を見なかった。振り返らなかった。
どんな顔で、僕の言葉を聞いていたのか。
って、そんなの気にする必要もないよね。
「明日、この学校の文化祭は1日だけなんだから、ちゃんとこいよ。」
多分篤が、そう言った。
そう。
この学校は校内発表と一般発表に分かれていない。
だから、文化祭は一度きり。
「…わかってる…つーの…。」
誰にも聞こえない声で、そう呟いた。




