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Log 07:毒される。

6/24


こんなに空いているものなんだな。

一本前の電車は。


いや、違うのだ。

沙羅たちが気がかりなわけではなく、仕方なかった。

いやよく考えてみれば、僕が携わっていながらゴミのような出し物を出されてみろ?僕の顔が立たない。


「…診断する…Diagnose…。」




「あ、誠くんだぁぁ!」


うるさ。災害なみだろう。

こんな朝っぱらから、よくそんなに喉が開くな。


「うるさいし、その声で誠くんって呼ぶなよ。」

「あれ、誠来たのか!?」


篤まで僕を誠呼びしやがる。


「おい待てよ。誰が下の名前呼びを許したんだ?」

「え?沙羅が解禁されたぞって嬉しそうに…」


この女、噂に聞くフレネミーってやつか?

いや、フレンドではないからただのenemyなわけだが。


「沙羅お前、いい加減にしろって言ったよな!せっかく来てやったのに、これじゃ気分下がったりだ…。」

「まぁいいじゃねぇか!そんなのどうでもよくねぇか!な!」

「…どけ!」


僕は篤の手を振り払い、静かにため息を落としながら階段を登る。


「おい!手伝えって!」

「適当にやっとくって!」


そこからは、本当に非効率の連続。




朝、ホームルームが終わると同時に全てが動く。

誰かが買い出しに赴く。

そして、誰かが未完成の看板を持ってくる。


昨日の午後で終わらなかったのか、と改めてこいつらを嘲笑した。


「ね!ここにこんなのどう!?」

「時間かかりそうだけど、かなりアリ!」


なぜ作業を増やすのか。

看板は所詮看板止まりだろ。


しかもだ。この看板、かなり小さい。

この大きさの看板すら、昨日で完成できなかったのか。

そう思うと、ますます呆れてきた。


ふと周りを見れば、誰もが自分のエゴを出している。

こうがいいんじゃないか、そう意見がまとまらず。


最終的に全てを取り入れているわけだ。

こんな非生産的なやり口が、この世にあって良いのか。


「誠!少しは手伝ってよ!」


雄志…。この男、この男も僕を呼び捨てるのか。


「なんで?僕は見てるだけで価値を生み出してるんだけど。」

「もうすぐ完成なんだよ。ほら、お前が買ってきたいろいろを取り付けたとこなんだよ。」


ああ、そんなこともしたな。

それも戯事にすぎないわけだが。


「僕に何をしろと?」

「誠にはさ、仕上げを頼みたいんだ。」

「仕上げ?」


仕上げ、それは僕に任せるべきだと気づいたのか。

下賤な雑民の割に、よくわかってるじゃないか。


「ああ、仕上げだ!この看板に糸つけて、天井から吊るすんだ!」


そのために、わざわざ小さめに作っていたのか。


「ここに糸通せる?」


雫が上部の小さく開いた穴を指差した。

雄志が白い糸、いや紐を渡してくる。


「こんなことでいいわけかよ。」


僕は、5秒も経たずに紐を取り付けた。

雄志も雫も、なんとなく笑顔を浮かべている。


「へー、まこっちが器用だったとは…意外だな。」

「ま、まこっち!?」


思わず間抜けな声を出した。

いや間抜けなのはそっち。

なんだ、まこっちなんて呼ばれたことはない。


「おい、なにがまこっちだよ。なんだそれ。」

「あだ名だよ?あだ名。」


雫は平然とそう言い放つ。

でも、僕にとっては異常事態も甚だしい。


「まこっちはやべぇだろ雫w」

「いや、誰かとの距離を縮める確実な一手なんだよ!」


馬鹿馬鹿しくて声もでない。

その時の僕は、目を見開いて手を止めていた。

看板を持っていた手が緩んで、地面に落ちる。


その音が、雫の中の何かを鞭打った。

不貞腐れたような顔で、僕を見ている。


「わかったって。誠、早くつけよ!」


わかってないだろこの女!


「脚立用意したぞー。」


篤の声がした。

今、物事が高回転で回りすぎている。

追いつけないぞこんなの。


「しかたないなぁ…。」


僕は持っていた参考書を下に置き、脚立の方へ向かった。


「誠、ここにかけてくれ!」


言われなくてもやるわボケナス、喉まで出たがやめた。


一段、また一段。

何かが変わる気がしたこの脚立を、僕は登る。

変なんだよ。何かが。

これを掛けたら、何かがあるような。


「なに、ここにやればいいのね?」

「おうよ!」

「たのむよ!」


篤と雄志に背中を押され、

僕は天井にかかっていた突起に手を伸ばす。


「ほいっ。掛けたよ。」


刹那、みんながこちらを見ていた。

正直照れ臭かった。


いや照れくさいじゃない。

恥ずかしさがなんとなく怒りになり、

その矛先が篤と雄志に向いた。


でも、なぜだろう。

僕はこいつらに、怒鳴れる気がしないんだ。


脚立から降り、

誰一人として喋らない中で静かに看板を見上げる。

他クラスのざわざわが、僕たちの耳を貫いた。

誰かが歩く音、何かの作業音。全部が鮮明に聞こえてくる。


あの店で買ったいろいろな装飾が、そこに施されていた。僕が触れたものがそこにある。

誰も手の届かないところへ、飾ってある。


だから、気持ちが良いのだろうか。

効率じゃ片付けられないような、何かがある気がする。

でもそんなもの存在していいわけない。

だから、心で否定できずに、そのまま否定した。


「おい、めっちゃいいじゃねぇか…!」

「誠、ありがと!」


後ろからその言葉が聞こえ、僕は何を思っただろう。

よく、わからない。


「…バカじゃねぇの…。」


そう呟いたのが、みんなに聞こえたのか。

雄志が、僕の肩に手を置いて囁いた。


「な。バカみてぇにいい出来だな…。」


これ以上ここにいたら、なんだか毒されそうな気がする。何に毒されるかはわからない。

だが、なぜか直感がそう言っている。


「バカとつるむ暇はない。帰る。」


言葉を発している間、一度もあいつらの顔を見なかった。振り返らなかった。

どんな顔で、僕の言葉を聞いていたのか。

って、そんなの気にする必要もないよね。


「明日、この学校の文化祭は1日だけなんだから、ちゃんとこいよ。」


多分篤が、そう言った。

そう。

この学校は校内発表と一般発表に分かれていない。

だから、文化祭は一度きり。


「…わかってる…つーの…。」


誰にも聞こえない声で、そう呟いた。


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