Log 06:神とフラッペ
「時間を無駄にしたくないんだけど。」
「30分!商品きてから30分でいいかな!」
おっと、、具体的な数字を示してきたとはな。
人は具体的な数字を見ると、物理的に伝達の齟齬をなくすことができる。
思考のコストが減り、生産性が上がる。
これは正しい。
沙羅は、僕と同じような手法を使ってきたわけだ。
嬉しいんじゃない。
僕はこれが…。
これが本当にとても不快だ。
まぐれなのか意図的なのか知らないが、なぜ僕と同等の技術を使おうとする?
明らかな有能が使うのならよい。
でもこんな無能が?
模倣されたまま技術を窃盗された気分なんだが。
「30分、きっちりにここを出るんだろうな?」
「当たり前じゃん!」
これもバカの生態観察。
本当にこいつらは、時間を守ることができるのか。
かなり気になるところではある。
「なら、それを破ったら殴るかもな。」
「任しといて。」
店名、ジュターヴァックス。
若者の間で人気の、美味しいらしいスイーツ屋?らしい。
僕は疎いので良くわからないが。
「えーっと…期間限定のこれでお願いします!」
「私もあれ飲もうかな!」
僕の番が来てしまうな。なるべく早く飲み終え、勉強したいわけだから、一番生産的なメニューを選ぶべきだ。
ドリップコーヒーだとは思うが、AI使ってみるか。
“カフェで一番生産的なメニューを教えてくれ。一番早く飲み終わる飲み物を知りたい。”
“ドリップコーヒーです。
楽しむことを破棄した完全な生産的メニューです。”
だろうな。
「ご注文はいかがなさいますか?」
「ドリップコーヒー。何もつけなくていい。」
「……は、はい承知いたしました。」
そら引かれるか。
こんな、高校生の巣窟みたいなとこに来といてコーヒーだもんな。
でもこの僕を否定しているようで、ムカつくな。
「早くしてくれよ。」
「誠くんこっちこっち!」
この店は番号札形式らしいな。
んで、沙羅がとった席はソファがない。
これだから無能に仕事を与えてはならないのだよ。
「はぁ。何頼んだんだよ。早く飲み終われるものなんだろうな。」
「…さぁね?」
怪しいな。
僕あれだけ念押ししたというのに、この女はやはりバカだ。
「わぁ、きたきた!」
なんだこれは。
バカみたいにデカいフラッペ?みたいなのが出てきたぞ。
こんなもの、30分で飲み終わるはずないじゃないか!
今の時刻は11時00分ぴったり。
「おい!こんなデカいの30分で飲み終わるわけ!」
「はいはい、女心わかってないねぇ、そんなもんだから。女の子とのデート、ってのはね!」
鼻につくな。
「あんまり調子乗んなよ。こんな非効率なデート、あってたまるか。」
「むーっ。」
沙羅は頬を膨らませ、明らかな怒りを露わにした。
それでも僕は動じない。
アホの断罪はもっとハードだからな。
「汚ねぇ顔がさらにハリセンボンになってどうすんだよ。」
「えっ酷い!!!」
沸点が低いのは、まさに人類汚点の証拠。
「番号札92の方〜?」
あ、僕のコーヒーができたみたいだな。
この世で、コーヒーだけは庶民食の間で愛してる。
母がいつも作る飯は、はっきり言ってダメだ。
庶民食を早く卒業したい。
「ドリップコーヒーですね。お待たせしました!」
僕がこのメニューを選んだ理由は、まさに効率。
だからこうしてやるのが正解。
「!?」
店員さん、驚いてるな。
そらそうか。
客が目の前でコーヒー一気飲みだもんな。
「っぷはぁ。ご馳走様。うまかったぞ。」
光栄だろう。僕からうまい、という言葉を吐かせたのだからな。
「何頼んだの…って、商品は?」
「飲んできた。」
「は!?」
いやそんなに驚くことかよ。
「さ、早く飲み終えろ。僕はもう飲み終えたぞ。」
「いや、でもカフェだよ?」
「それがどうした?」
大きい声だったからか、周りの視線がこちらにある気がする。
「そんなの、楽しむことを排除してるだけじゃん。そんなに効率が大事?」
愚問だな。
思わず頬杖してしまう。
「当たり前じゃないか。月とスッポンだよ。」
「…な、ならさ、少し飲んでみる?このフラッペうまいよ?」
「そんな下賤な産物、飲めるか。」
多分今のは沙羅だけじゃなくて、聞いてた人全部を刺したことになったはずだ。
僕に考えを改めさせていただけるなんて、幸運な奴らめ。
「まあいいから!一口!はい!」
沙羅は、僕の口に無理矢理ストローをねじ込んできた。
こんなやり方、許されると思うなよ。
人間ごときが、神である僕にこのようなマネをするとはな。
「飲んで!のーんーでっ!」
突き上げられたストローは、僕の上口内を刺していた。
妥協しないと、口内炎ができる。
仕方ない。一口だけ吸って吐き出そう。
「あ、飲んだ!」
「…。」
口内に広がる酸味と甘味。食感は悪くないが、すこし味が濃い。
しかし、吐き出すほどではない。
「うまくはない。」
「なにそれ!関節キスまで私は妥協したんだよ!?」
しらねぇよそんなこと。
「これっぽっちも気にしてねぇわボケ。」
「…最悪…。」
バカはこんな顔するんだな。
哀れだ。希望でも見せてやろうか。
「でも、これしかないと言われたら、飲むかもしれないな。」
「えっほんと!」
面白いな。
すこし希望を見せただけで、人間はここまで顔を変えるのか。
「ならよかった!飲みきれなかったのは持ち帰れるし、もう行こっか!」
「早くしろ。」
事前に調べたバスは、もう5分で来る。
それに乗れなかったら、帰るのが15分遅れてしまう。
「ホルダーもらえますか?」
何をノロノロしてやがる。
ホルダーなんていらないだろ。
「ありがとうございますー!」
周りを見れば、みんなパートナーと呑気に飲み食い。
そんなことしてる暇あるなら、さっさと勉強しろよ。
そんなことを考えていると、沙羅が肩を叩いてきた。
「バス、次はいつ?」
「5分後にそこのバス停。早く行くぞ。」
「まってー!」
僕が早歩きで歩き始めると、沙羅は小走りで僕と並走する。
「危なかったねぇ…!」
「お前が水なんか買うからだろ。」
ひぃはぁと声をあげて、沙羅はそう言う。
なんとかバスに乗れたものの、座れはしなかった。
「えっへへ…。…あ、そうだ。」
本来、バカの言葉など聞くあれはないんだ。
だが、僕も疲れて脳が回らない。
ここで突っかかる方が、生産的ではないというもの。
「午後からはもっと、もっと忙しくなるよ!」
午後からの準備はあまりに億劫すぎる。
所詮作れても玩具の延長線。
何人のアホが集まっても、決して文殊の知恵に届くことはない。
「ごめんけどさ、僕午後から用事あるから。早退する。」
予定などない。
いや、強いて言うなら勉強に本腰を入れなければならないな。
立派な早退理由だ。
学校で授業するなら、5000歩譲っていいとして、勉強すらしない学校に用などはない。
「えっ!?まじ!?」
「僕を信じれないって言うの?」
「え、いや。わかったよ。」
なんでそんなに上からなんだ。
これは僕が、お前らの間抜けな社会の生産性を、
少しでもあげようって思ってやってるんだぞ。
「あのな。俺暇じゃないから。
そんな意外だな、みたいな反応されるの、結構むかつく。」
善人が偽善者に叩かれる構図はおかしい。
これは僕があってる。
「…ご、ごめん。」
「じゃあ、くだらないイベントをせいぜい頑張ってな。」
バスはガソリンの音と共に風を切り、バス停を後にする。
その残り香を感じながら、僕は帰路に着く。
夕日が沈む時間でもないが、
僕は世界のために帰路に着くわけだ。
「待ってよ!」
また、こいつは僕の時間を奪うのか。
「何がしたいの?世界破滅?」
「いや、そうじゃないけど!そうじゃないけど!」
一瞬の静寂の後、沙羅は僕から背を向けながら言い放つ。
「明日はさ、早く学校きて準備するから、絶対来てね?」
最後まで読んで頂きありがとうございます!
本作を少しでも面白い!また読みたい!
と思っていただけましたら、下より評価お願いします!
どんな評価でもコメントでも構いません!
ブックマークもいただけるとありがたいです!
これからもよろしくお願いします!




