Log 05:模倣罪
「幼なじみとしてさ、私は誠くんって呼んじゃだめなのかな。」
「ダメだ。幼なじみって立場を利用しようとしてる、その時点で愚の骨頂なんだから。僕は同じに見られたくないんだよ。」
幼なじみだ。
愚か者と僕は違う。
僕は愚かじゃない。
僕は上を行く存在で、お前らはその程度。
この世の理はそうできてる。
「僕は笑わない。それは愉快で笑ったんじゃない。それはきっと、滑稽だから笑ったんだ。」
「ち、違う、違うよ。ねぇ、いつからそうなったの!?」
何を言ってるんだこいつは。
僕は、僕は昔から生産性と効率を最適化することを考えてきた。そのために、手段を選ばず恥をかくこともあったかもしれない。
でも、僕は笑ってない。
笑うなど、本当に非生産的ではないか。
「くだらない感情に花を咲かせる暇があるなら、僕は勉強してたよ。ろくに勉強せず、ギリギリ足切りでこの高校に入ったおまえと、トップの成績で入った僕は、一緒じゃないだろ。」
なにも、何も言い返されないはず。
事実を並べただけ。
僕は勉強した。こいつはしてない。
県内トップのこの高校に、こいつが入れたこと自体おかしいが。
「そ、そうかもだけど!」
反論の余地などない。
「そんなに、そんなに差別化されることなのかな!って、思っちゃう。」
「差別化しなきゃならない。これは、僕のためでもあり、お前のためでもあるんだよ。無理に負い目を感じないための。」
「だからって…っ!」
僕の目まぐるしい活躍に、心を痛めるものが出てきては困る。
僕のせいにされては困る。
世の中は低レベルすぎる。
…そういうことだ。
「あのな、周りみようせ。もう通り過ぎたぞ。」
「あっ…。」
もうここは店舗の前。セイシュギ百貨店の前。
見たか。バカは今のように本題を忘れる。
何かに気を取られ、本当に大事な何かを得られない。
この世の摂理で、これは決まっているんだ。
「これだから…。僕と同等に並ぼうなんて…。」
「でもちょっと過ぎてから言ったじゃん!誠くんも見逃してたんじゃないの!!!」
この女、本当に舐めているとしか言いようがない。
僕がミスをするはずがない。
「はぁ、もう疲れるなあ…。早く見ろ。早く帰りたい。」
「………わかった。」
僕たちは店の中に入ると、真っ先に何かに目を取られた。
「これ…いいんじゃない?」
「私も!」
びびっ、と何かが走る音。
一枚の壁紙に、全ての意識が持っていかれた。
それしかないようだった。
「値段も安いな…。」
ただ、僕はここで思ったんだ。
あれ、こいつと同じ感性持ってる?ってね。
こういうのを甘く捉えてはいけない。
「…やっぱやだな。」
「は?何言ってるの?」
まぁそうなるだろ。でもな、これは正しい。
同列に挙げていいものと、悪いものがあるわけだし。
「なんと言おうと私はこれ買うからね。」
…これは僕の感性じゃない。
この店を選んだAIの感性…。
いやそれだと沙羅がAIと同じ感性。
だめだ。この女は孤立させるべきだ。孤立で考えるべきだ。
「で?あとは何買うんだよ。」
「うーん…。紙のボンボンとかよくない!?ほらこれ!」
はぁ、やっぱりこの程度。
紙のボンボンは確かに綺麗だ。
だけど効率的じゃない。
作るのに時間かかるし、どうせすぐ剥がれ落ちる。
「…まあ好きにすれば?」
よし、少し泳がせよう。
僕がこのモールに来たのは、バカの観察だろ。
忘れんな。
「ならこの風船と…!バルーンアートなんかもいい!」
心底リターンが少ないものばかり。
いくらなんでもバカすぎ。
「よし!買ってくるね!」
そう言って、沙羅は駆けていった。
なんか、静かになった気がする。
店舗の音、誰かが何かを漁る音。
そんなものが鮮明に聞こえてきて、なんだか気持ち悪い。
“おい、おまえやっぱり有能だな。いいのあった。”
“お役に立てて嬉しいですが、そのような言葉は効率的ではありません。報告よりも行動をより精密にすべきです。”
おっと。これは完全にしてやられたな。
僕としたことが、他人に正論を許すとは。
篤とかならぶん殴ってたが、こいつはAI。
僕のアシスタント。
何も返さず、早く帰る準備でもしておこう。
単語帳も、もう38周目だからな。
見ずに単語を思い浮かべてみるか。
…えーっと、ephemeral………。儚い、だっけ…。
「会計終わったよ!…あれ?」
「………。」
……雪崩が… avalanche、かっけぇな。この単語。
「誠くん?」
あれ、あ会計終わったみたいだな。
「はいはい。早く帰るぞ。」
全く人が単語思い浮かべてる時に。
デリカシーなし。
こんな欲望に塗れたモール、さっさか出たいところだね。
「その前にー!お腹空かない?」
おいおい、まだ10:30過ぎだぞ。食いしん坊かこいつ。
バカは食いしん坊なのか…。よくわかった。
「なんか食べんのかよ。やだぞ。金かかるし。」
「そーゆー問題じゃないって!文化祭準備の醍醐味!寄り道!」
そんなものが醍醐味とは。世論のレベルの低質さよ…。
「何食べんだよ。まさか…」
「まさかかはわかんないけど、スイーツでしょ!!!」
きた。女子特有のスイーツ。
まあ全般がそうだときめつけるのは、かなり良くないこと。
だがそんな需要のかけらもないものに、どう金を払えと。
甘いものの摂取は、確かに効率がいい。
でも、僕みたいに勉強もしていないのに摂るのはどうなのか。
ただの娯楽ってわけかよ。なんだか甚だしい。
「時間を無駄にしたくないんだけど。」
「30分!商品きてから30分でいいかな!」
おっと、、具体的な数字を示してきたとはな。
人は具体的な数字を見ると、物理的に伝達の齟齬をなくすことができる。
思考のコストが減り、生産性が上がる。
これは正しい。
沙羅は、僕と同じような手法を使ってきたわけだ。
嬉しいんじゃない。
僕はこれが…。
これが本当にとても不快だ。




