Log 49:死人に口なし———僕は何も知らない
一言で言えば…。荒らされている。
「これは明らかにおかしい。お前ら、ぼーっとしてる暇はない。原因の特定だ。僕はサイト内を調べるから、他SNSを使用してなんとかして探し出せ。」
「わ、わかった!」
まさかこんな事態まで発展しているとは思いもしなかった。急いでパソコンを持ち出し、開いてタイピング。
こいつらに負担はかけたくない。
僕の作ったサイトを、
こんなに荒らされて許せるわけもない。
「…これか!?」
「帰りのホームルーム始めます。…如月さん。しまいなさい。」
「う、うるさいですね…今大事なんです。」
「何を言っているのかわかっているの?早くしまいなさい。」
こんな時に、なにを催促する必要がある?
我が子を殺されかけている、そんな状態なんだぞ。
とりあえずプログラムの問題かもしれない、調べよう。
「…。」
僕がなにも言わないでいると、先生はこちらに向かってくる。
そして机の前で停止すると、大きなため息をついた。
「あとででもできる。早くしまいなさい。」
「…あっ!」
先生は、僕のパソコンを強制シャットダウンした。
もう、目の前が真っ暗になる。
書き換えたプログラムが、全部リセットされた。
「いいですか?みなさん話は聞きましょう。なんで小学生にするような話をしなきゃならないんでしょうかね。」
…うるさ。
「連絡は特にありません、気をつけて帰りましょう。はい、ホームルーム終わり。」
…それだけかよ。
それだけのために、その言葉を発するため。
それだけで僕の書いたプログラムは消されなきゃならなかったのか?
それこそ無駄話だろ。
自分を正当化するためだけに与太話をする、
自分を達観してると勘違いしてる惨めな大人。
僕が…本当に大っ嫌いなやつ。
「ま、誠、さっきは残念だったな。きょ、今日カラオケでも行って…」
「黙れよ。そんなことしてる暇あるなら、僕のサイトが荒らされてる原因でも特定してくれないかな。」
雄志が話しかけてきた。
こいつ、何も考えてない。
もう…。今は一人にしてくれよ。
「…お、おうごめん…。」
雄志が目の前に差し出した手。
握手を求めるような手だった。
それを、僕はどうしただろうか。
パチンと音がして、クラスの空気が変わる。
痛がるぐらいには、強くやった。
僕の手の甲もヒリヒリするが、
その他のことなんて特に何も感じない。
「…誠…。」
篤が険しい顔でこちらを見ていた。
でも、それを二度見することはなかった。
一度だけ睨んで、教室を出る。
「…チッ。」
舌打ちは、多分みんなに聞こえてた。
第一、僕は何も悪くない。
僕はただ、社会貢献プロジェクトに加担し、その結果として動いているだけなのに。
頭の悪い奴が、社会の可能性を潰す。
学校ってそれを教わる場所だったのかな。
もちろん帰り道なんて覚えていない。
なぜなら、ずっとパソコンを睨んでいたからだ。
今日の記憶なんてない。
なぜなら、全部それに上書きされたからだ。
「誠、今日は話があります。」
「は?」
家に帰って、開口一番がそれか。
うちの親も、本当に堕落したもんだ。
「ちょっとこっちに来なさい。」
「は?」
こんな日ぐらい、僕の気持ちを慮って欲しい。
「あなた、本当にやる気はあるの?」
「何言ってんの?やる気なかったらなんなの?」
「いっつも、いっつも。あなたは最近遊んでばかりじゃない!まともに勉強も何もせず、くだらない夢ばかり追いかけて!」
…ほんとうに、何を言っているのか。
それはこいつの観察不足に過ぎないだろ。
「あのさ、そうは言うけど僕だってその遊びの中でAIとかを使ったり、ちゃんとやってるんだよ?」
「違う、そんなのは遊びに過ぎないじゃないの!勉強っていうのはそんな舐めたもんじゃありません!」
硬い頭だな、でもこう言う時こそ冷静になれ。
「あのね、勉強って鋳型に縛られてるわけじゃないの。お前の頭じゃわからんかもだけど、僕はもっと高度なことをしてるんだよ。」
「お前?お前って言ったのね。そんなふうに感情的になるように…なったのね。」
それは、違うだろ。
「は?黙れよ。僕が何を抱えているのか、何に悩んでいるのかも知らずにさ。そんなんで僕を語ってんなよ!僕は母さんを語れない。それとおんなじでしょ!」
「何が…!何が悩みよ!そんなの、どうせちっぽけな子供の妄想劇でしょ!あなた、私があなたの何倍生きてるかすら計算できないほど馬鹿なのかしら!!!そんな寸劇に付き合う暇はないの!ちゃんとやってよ!」
…。
「寸劇?いやいや、黙れよモブキャラ。お前みたいなカス親がいるから…!お前みたいなのが全部壊すんだ!まじで何もわからないなら口出すなや犯罪者が。」
「お前を産んだのは間違いだったみたいね。お前の方こそ、日本の犯罪率を底上げしそうな性格してるじゃない。…そう、まるで私たちを突き落とした、あの父親みたい…。」
「…父さんを馬鹿にするのは違うじゃん!僕のことはなんとでも言っていい、言い返すから。でも、父さんは言い返せない、お前がやってんのは死人に口なしの濫用だよ!!!」
「っは!死人に口があってたまるもんですか!あの悪魔の口なんて、もう2度と地獄でも喋れないように人糞でも詰めてやりたいわ!」
「…なんで…なんでそんなこと!」
「なんでもよ、あなたの心なんてへし折って同じ末路は辿らせない。あなたには…幸せになって欲しいもの…。」
急に、そんなに偽善ぶるなよ…。
「…そんなに…嫌いかよ…。」
「大っ嫌いよ!あんな思い…どうして好きになれるというの!」
「別に好きになれとは言ってないさ!でも…!どうして母さんがそんなに父さんを嫌うのかわからない!」
「そりゃ、話してないもの!あなたは表向きのことしか知らない。何も知らないただのガキなのよ!前も言った…、でももう一度言わせて。」
唾が、苦かった。
「あんたなんか…堕ろせば楽になれたのに…。」
そんなの…言っちゃダメだろ。
「…あっそ…。」
言葉が宙を舞い、なにもない時間が流れた。
母さんを見ようとして、背を向ける。
あちらも、目を合わせてくれないし。
刹那、部屋に響く声が僕の心臓を掴んだ。
「…ご飯…今日はなくていいわね。」
「…ご都合主義のクソ親…。」
「さぁ、親不孝のあなたにいわれてもね…。」
確かに…僕は…。何も知らないのかもしれない。
でも…。それでも…。
…もういいや…。特に言い返す言葉もない。
…あっちゃ、いけないんだ。




