Log 46:夜に溶ける
夜のとある公園に、僕たちは向かっている。
遠くにベンチと自販機が見えた。
会話の止まらないあの店から出て、
漆黒の深さに驚愕したところである。
どこにでもある、ありふれた公園。
どこにでもある、鋳型の青春の一幕。
でも僕にとってはかなり楽しい。
「でよ、そしたらまさかのでさ!」
「いる?」
沙羅が僕に温かいココアを渡してきた。
そこの自販機でみんな水を買い、
僕だけそれを一歩引いて見ていた。
そしたら沙羅は、おせっかいにも買ってきたわけだ。
「ん、大丈夫。」
「…受け取って。」
悴んだ指が痛く、ずっとポケットに忍ばせていたが、その手を引っ張り出して無理やり渡された。
「何ができるか、私にはよくわかんないからさ。こんなことしかできないけど、これからもうちを助けてね!」
そんなこと、言われるまでもないだろ。
「誰が助けないって?無駄なこと言うな。」
「おっ、誠だけじゃないぞ。俺たちも助ける。」
「雄志…!」
沙羅が感心したようにそう言った。
しかし、雄志はすぐさま口先を変えた。
「だから…俺にもジュースくれたっていいんだぜ?」
「はっ、なによ傲慢!」
「悪い悪いw」
そんなところも、雄志だな。
そう思いながら流れに身を任せると、いつのまにかベンチの方まで来ていた。
「そういや沙羅、売上はどうなったんだ?」
「いやもう、最高だったよ。10月は1ヶ月で30万は利潤出たかな。こんなふうにイベントすれば、来月にでも借金完済できそう!」
それは大きな進歩だな。
ベンチの淵にいる虫に気を取られながら、
耳だけはそちらに貸していた。
しかし、沙羅の言葉を最後に耳は音を捉えない。
街頭が静かに光り、僕たちのしじまで閑寂な空気を照らしている。
ぶら下がっているはずのサビも、その時は気にならなかった。
「…そうか。」
「…え、どうしたの。」
沙羅がトーンを落として篤に返答する。
そりゃそうだろう。
篤の声が、錆びれていたから。
「な、どうしたんだよ篤、嬉しくねぇのかよ。」
雄志が問いかけると、笑顔と悲嘆を交えたような顔でこちらを見る。
「嬉しい、に決まってる。でも…その…、クラス替えもあるだろうし。お前らと会いたい、って思ってもそのきっかけってなくなっていくのかなってさ…。」
篤にしてはやけに筋の通った悩みだな。
場が沈黙に堕ちたのを見るに、
みんな心のどこかで思っていたんだろうな。
だが僕はそんなものに左右されるべきじゃない。
だから口を開く。
ああ、ちゃんと論理的な理由だぞ。
「…そんなこと言ってるから人はみんな集まらない。今度遊ぼうね、って言われるのと具体的に案を出されるの、どっちのほうがいいと思ってんだ。」
人は具体を求める生き物。
頭でそう解釈しながら、なにかを咀嚼した。
「そんなふわふわしたような言い方じゃ、誰ももう集まらねぇよ。」
「…そ、そっか。」
また、場が堕ちた。
全員が俯角に視線を落とし、僕だけが前を見る。
…ああもう、仕方ねえな。
「僕、今日楽しかったと言える。」
「…!」
「…だから…その…次は…あれだ。また打ち上げでもやるぞ。」
この気持ちを表現するのは無理だと思う。
家に帰って、ずっと履いていた靴下をやっと脱ぐような、そんな感じ。
わからないかもしれないな。
でも、僕は妙に気分が良かった。
「…ああ、しような。」
「なら次はクリスマスイベの後?」
「まだやるか決まってねぇだろ!」
「なら今決めよ!」
はぁ…。まじ馬鹿らしい。
◆◆◆
———ねぇ。
なんでそんなに悲しそうなの?
なんでそんなに泣いているの?
誰も、そんなこと望んでないよ。
俺は、君が幸せを歩むために選ぶ。
だから君は泣いちゃダメだ。
君には幸せになってほしい。
というか、俺に関わったこと自体間違っている。
生産性が無さすぎるよ。
そんなに泣いたら…こっちまで…。
もう、さんざんだ。やめてくれよ。
………ああ、そっか…。
だから俺は…。
いつまでも弱いんだね。
◆◆◆




