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生産性至上主義はアイを知らない。  作者: のどちん
社会貢献プロジェクト:ハヅウィン編
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44/52

Log 44:採点不能

———現在


ところでハヅウィンの日から思っていたけどさ。


僕は一体、“何”になろうとしているんだろうか。


如月誠は冷静沈着、博学で真面目。

生産性を重視して感情に耳を貸さない。


そんな理想像を、僕はいつも抱えてはそれを実現しているつもりだった。


でも、最近はそうじゃないと自覚し始めているのだ。


だから、今回のこのカラオケツアーは、決して無駄なんかじゃない。僕の中の僕を読み解く、そんな時間にすればいい。


なにも非効率なんかじゃない。


そうだよ。いや、そうであれ。


「えっ私こんな低いの!?」


画面を見れば、

そこにはデカデカと70点と表示されていた。

正直楽しそうに歌ってたし、

そこまで低くないと思うけどな。


AIは無残なものだな。しかし否定はしない。


僕も最近、勉強だけでなく、

ビジネス面などでもよくあのAIを使用している。


有能すぎて、逆に気が引けるレベルだが。


「雫下手すぎだろ!w」

「うっさいわね!」

「沙羅いこ!」

「えっ私!?」


沙羅の歌か…。

中学校の頃は…どうだったかな。


何も覚えてないし、思い出したくもない。

沙羅との思い出も、いつのまにか光が消えていた。

僕の目の前からなくなった。


だからこそ。

今、楽しそうに歌っている沙羅を見て思うのだ。


こんな奴らが娯楽とすることに、

僕は参加しているんだなって。


…しかしあくまでも生産性の…ため。


「お意外とうまいやん!」

「全然だよ〜!」


歌い終えると、みんながそう口々に言う。

僕も形だけ拍手して、

なんだか遠くから見守っているような感覚に陥る。


狭い部屋に笑い声が響く。

マイクがその音を拾い、さらに響いていく。


「よぉし、ここで俺が95点越え狙っちゃうぞぉ!」


…ま、僕はこのままでいいかな。

歌わなくていい。分析に徹したい。


目的はあくまでそれだ。

バカの、分析と観察。


履き違えるなよ。


刹那、肩に何かが触れた。

篤の肘だった。


「…なんだよ。」


篤は小声で話す。


「お前だけ参考書開いて、やっぱ楽しもうぜ?それも誠らしいけど、俺はもっと楽しくありたい!」


は?そんな下賤な思い、何が変わると言うのか。


「僕に何を求めてんだよ。」

「…お前も歌おうぜ?ほら、この曲なら歌えるだろ?盛り上がるし、俺とデュエットしよ!」


いや舐めてるのか。


僕は夏休み前ぶりのカラオケだし、歌える曲なんてない。

第一あの頃だって歌ったことない。

確かにこの曲は国民的で流石に僕でもわかるけど、

そんなの入れたら冷めるんじゃないのか?


国歌を入れると冷めるみたいなの聞いたことあるぞ。

知名度のある曲を入れるって、

そういう感じじゃないのか?


大丈夫なのか?


「なぁそう言う知名度高いの入れると冷めるんじゃないのか?ほら、国歌とか。」

「は!?おまそんなこと気にしてたのかよ!国歌は…確かに冷めるけどこれは大丈夫だろ!」


そういうと、ささっと篤は予約してしまった。


「はぁもう…」

「まあそんなに気を落とすなよ!俺も最初はそうだったなぁ、恥ずくて歌えなかったw」


こいつにもそんな時代があったとはな。

感心しつつ、僕はうめきながら体を伸ばした。


参考書を鞄にしまい、ただ雄志の歌を待つ。

歌い終わった瞬間、なんだか心のどこかが震えた。

まるで余命宣告のようだったよ。


「いやこれは行ったっしょ!過去一!」

「これで95行ってたらジュース汲んできてやるぞ!」

「まじ!?いけいけ!」


篤とくだらない会話を繰り広げ、ついに点数発表。

実は僕もちょっと期待していたと思う。


「えっ、まじ!?」


その声も当然、雄志は素点で95を超えてきた。


「は!?」


ボーナスがつくと、その点数は98.632。

多分…みんな引いてた。


「えぐいえぐい!篤汲んでこいコーラ!」

「ざけんなまじかすげ…。」


篤がドアを閉める音がして、ようやく僕は思い出した。この次の曲は僕と篤が入れた曲。


篤がいないなら僕はどうすればいいのか。


「お、センスいい!これ誰入れた?」


誰も何も言わない。

沈黙が部屋をつんざく。


「僕と…篤。」

「うぇっ!?まこっち!!!」


静寂を解けば、急激にうるさくなる。

面白いぐらいにね。


「やばいよもう曲始まる!」

「篤あいつ何してんねん!」


えっカラオケって一時停止とかないのか?

おいまて、僕が一人で歌うのか?

いやそんなの無理だぞ?


「ぼ、僕が一人で歌うのか?」

「それしかないっしょ!篤が帰ってくるまで耐えよ!」

「バー外すなよ〜?」


いや、は?

そんなつもりじゃなかったし!

歌うつもりはなかったし!

そんなの、ただの高校生の娯楽と同じだろ!


…しかし…。

腹を括るか…。


「っしゃぁねぇ…。」


僕の口、動いてた。

初めてマイクを通して声を上げた。

画面のバーはずっと黄色で、たまに赤くなる。


それだけの情報がずっと目の前を流れていた。

みんなの顔を見る余裕もなくて、

ただ僕はカラオケに集中してたと思う。


雄志みたいに上手く歌えないし、雫みたいに楽しくは歌えない。沙羅みたいに感情的に歌えないし、篤みたいに知識とかもない。


なら、僕がここで歌う意味は?


そう思ったから、みんなの顔を無理やり見た。

音程はズレにズレたけど、

みんな楽しそうに手拍子してんの。


バカじゃねぇの。何が…そこまでさせんだよ。


だって僕のソロパートは30秒、

たったの30秒だったんだよ。


そこに何の意味があるんだと思った。

そしてついに、僕のソロパートは終焉を迎える。


やかましいドアの開閉音と同時に、篤が入ってきた。


「やっべ始まってるじゃんか!」

「まこっちキレてもいいんだよ!w」

「ざけんなこの野郎!」


ざけんなこの野郎、と歌の音程に合わせながら言ってしまった。めちゃめちゃ恥ずかしかったけど、

みんな笑ってたからまあいいとしよう。


「よっしゃ俺も歌う!」


しかし篤がまた下手くそでな。

僕だけで歌ったほうがいいんじゃないかってぐらい、篤が来てから外しまくった。


みんなもおい篤!とか言って囃し立ててたし、

僕はこの時間が愛おしく感じてしまう。


それが悪いことなのかすら、

もう僕にはわからなくなったよ。


点数、81点だった。


なんだよ、全然じゃねぇか。

そうやって自分を嘲笑した。


「…全然ダメだな。」

「何言ってんだよ、楽しかったぞ!」


篤がそう言うと、みんなが何か言う。


「意外とまこっちうまいじゃん!この点数は篤のせいだな〜???」

「誠初めてだろ?それでこれなら原石モンよ!」

「私よりボーナス入ってる〜!」


でも、そんなの表面上の形。


ボーナスの付け方を知らないから、このボーナスは篤がつけたものだろう。音程はガタガタだし、デュエットだし。


こいつらの褒め言葉、僕にとってはそうじゃない。


だって、中身はこんなにボロボロだから。


「音程78%しか取れてないし、全然…ダメだよ。中途半端にしか歌えない…。」


小声で言ったつもりが、意外とデカかったらしい。


「だぁれも音程なんてほぼみてねぇよ!」


雄志がそういうと、次に篤が口を割る。


「お前、カラオケは点取るゲームじゃねぇぜ!雄志みたいなのは確かにすげぇけど、カラオケなんて楽しけりゃもーまんたいよ!」


僕は右手に持っていた単語帳を鞄にしまった。


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