Log 42:色づく正論
いやぁ、あいつら怒るだろうな。
僕が遅れたのは、総合すればバスの遅延のせいだ。
シフトの時間をゆうに超え、時刻は16:50。
電線にたくさんの烏が止まっている。
先払いだったので、途中の停車バス停がなくてな。
往復しなけりゃならなかったのさ。
「ごめんお前ら、言い訳を…」
おや、てっきりギリギリまで繁盛してるもんかと。
意外と人がいなくなってるし、
心なしかみんな疲弊してる…?
というか狼狽してるような感じがする。
「お、おいどうしたんだよ。」
「…お、誠…。無事でよかった。」
篤の声に張りがない。
「誠くんがいない間、結構いろいろあったんだよ。」
「ぼ、僕がいない間に…?」
こいつらだけで営業できるとは思っていたが、
やっぱりきつかったか。
どう考えても僕の過失が大きすぎる。
そんなことはわかってるんだ。
でも、どうも僕は僕のせいだと認められない。
公共交通機関の遅延による、ただの事故。
それにより誰が迷惑していたとしても、
僕は僕を責められない。責められたくない。
「何があった?」
「あの借金取りが来た…。櫻井、だっけかな。感情的な感じできてさ、怖かったんだよ。」
篤のその声は、それを発するだけで息が苦しい。
そんな無理矢理出したような声だった。
「誠のことだから、仕方ないような理由でここに来れなかったんだとは思う。」
ああ、そうさ。ぼ、僕は仕方なかった。
僕の落ち度なんていくら考えても思いつかない。
第一こいつらがいいって言ってんのに、
僕だけが罪悪感を背負う必要なんてない。
「だから、俺らはお前を責めないよ。」
「誠くんのおかげで、このハヅウィンは成功したようなものだし、感謝してる。」
沙羅の目が、僕を見た。
いつもとは違う目をしている。
なんだよ、その目は。僕に何を求めてる?
謝罪…なのか?
表面上の肯定だけで、内心は僕を責めている?
「…ごめん…。」
気づけば、もうその言葉が発せられていた。
ああ、そうだった。
僕はもう如月誠じゃないかもしれないんだった。
こんなんじゃ父さんに顔向けできない。
今からでも訂正しろ。
「みんなが大変な時に、僕がいない。なんだか…アニメとかの間抜けな主人公みたいだよ。成功したのはいいけどさ。許してくれるのはいいことだけどさ。僕は、どうしても謝りたいんだ。」
お、おい。何言ってる。
「ごめん。」
僕の意思の弱さを、その柔さを。
今確実に感じた。
いつから僕はこんなになってしまったんだろう。
「…っ。バカじゃね。誰もお前を責めてなんかないし、謝るキャラじゃなかったじゃねぇか。」
雄志が照れくさそうにそう言う。
「もう、まこっちらしくない!」
「誠くん…。」
雫も沙羅も口を割っている。
沙羅は少し涙を浮かべ、目の下を擦っている。
そして夕陽に照らされる店内は、
一瞬静まり返った。
紅く反射した飴の袋の光が、僕の目を刺激する。
篤の作ったロゴと、袋。
レジには「学割プラン!」と書かれた張り紙まである。
…そうか。
僕がいない間に、全部やってのけたんだな。
「…ごめんな。お前ら。」
刹那、僕の肩に手が置かれた。
「誠。ごめんもいいけどさ。人間ってのは、ごめんよりありがとうの方が聞きたい。そんな生き物なんだぜ。」
僕の中の何かが、色彩を持っていく気がした。
大袈裟に感じるかもしれない。
でも、その瞬間僕の目も前は色づいて見えた。
半開きだった玄関から風が舞い込み、
雫や沙羅の髪の毛をふわりと跳ねさせた。
その光景も、篤と雄志の笑顔も。
沙羅ママや沙羅パパが肘をついてこちらに笑いかける様子も。
全部、全部忘れられそうにない。
「俺ら、お前に今日謝ったかよ。」
そうか。
僕は今日、妙に気持ちが良かった。
それは、そう言うことだったんだな。
「…あり…が…と。」
「ん?なんだって?」
…ったく。
「ありがとうっつってんだよ!」
笑いながらそう言うと、
紅い光の中でみんなが笑っていた。
その声にびっくりしたか、電線に止まっていた烏はついに姿を消した。
「…おう!」
篤が、一呼吸おいてそう言った。




