Log 39:契約
「やぁ、この前は追い払ってすまなかったね!まさか君たちがこんな大きなイベントを計画してくれているなんて、商店街も栄える一方さ!」
口角が無駄に上がり、声がやたらと高い。
コケにされているのかとも思ったが、
そんな非効率な感情で因縁を買っても仕方ない。
「そ、そうですか!それは嬉しいです!ところで、今回のお話について簡潔に決めたいと思いまして!」
「その件はワシが説明しよう。」
黙っていた老人が口を開く。
まだ昼だというのに、空気と光が重く感じる。
「お願いします。」
「うちの庭にはもともとフードコートのような施設があって…というか椅子とベンチが10組置いてあるだけなんじゃが…。」
その老爺は、チラチラと櫻井?の部下を見ては僕に目を合わせてくる。
なるほど、これはきっと裏がありそうだ。
「そこを使わせてあげようかと思うてな。その代わり、君達の影響力をワシの店にも使ってほしくてな。ここにきて接客してもらうのと…ほら、動画もお願いしたい!」
つまり、いわゆる案件っていうつもりか。
僕たちの動画でこの店を紹介してくれるなら、
今日庭を使ってもいいよ。
と。
「これから先、イベントを打たないとは限りません。」
思いつくだけでも多い。
クリスマス…バレンタイン…。
来年も僕たちに経営が任されたなら、きっともっと多くなる。
「その度に使わせていただけるなら、僕たちの方で考えておきます。それと、シフトは僕たちで決めさせていただきたい。」
冷静に考えてみれば、一日の貸し出しと宣伝が釣り合うとは到底思えない。
傲慢だと思われても、これは曲がらない。
「なるほど、それで協力しよう。」
僕たちは固く握手を交わし、
互いにニコリと笑い合った。
満足そうな顔に、僕も釣られて笑う。
ふと外に見えている空を分断する飛行機雲が、
なんだか少し不穏に思えた。
「さ、結んだなら実行しよう!君達の活躍を願っているよ。…あ、誠くんはいつくるのかな?」
男にそう言われた。
別に偽るつもりもない。
「んー、16:00にはここにいるかと。」
小さく頷くその男は、優しそうな顔をしていた。
こんな男が借金取りとは思えないが…。
人の外見を簡単に否定しちゃダメだ。
「がんばってな!」
表口から、その男が出ていく。
「君たちは若いんじゃから、こんな老耄に負けてはならんぞ!」
「いやいや、お兄さんだってまだ若いですよ。」
「ほっほっほっ、ばか言うんじゃない!
もう戻りなさい。それとありがとう、本当に。」
爺さんがそういうと、彼は店の裏に入っていく。
何か準備をするんだろう。
ちなみにこの商店街は、小町通のようになっているため、僕たちが客を呼び込めば必然的に他の店の客も増える。
男はそういうこともあって、
事情でも聞きに来たんだろう。
そう整理して、僕は沙羅の店に戻った。
「こっちで話ついたから、篤と雄志は行ってきていいぞ。」
沙羅の店に戻って、篤と雄志を呼ぶ。
そこからは、もうとにかく頑張る。
まず初めに行ったのは客引きだ。
看板のデザインを変えたり、いろいろなことをしたさ。
声掛けなんて何人に声かけたかわからない。
もちろん法律になんて触れない、ただの客引きだぜ?
ああいうのは本当に生産性がないと思う。
対して僕たちは街行く人に一言だけ声をかける。
食いつかれた時がチャンス。
また、僕たちのSNSを見ていない人も来ていることに気づいた。
「何で来てくださったんですか?」
「いや、やけに人が降りるなぁっと思ってきてみれば。面白そうなこと話してたんで、思わず来ちゃったって感じす!」
そう言って飴を5袋買って行ったあの客に僕は感心したね。
不確かなことを確実にしていくのは、
本来なら生産性のあることだ。
そうやって世界ができてきたのだから。
でもその先に何も得られないならただのバカだ。
そんなものはただの自己満足にすぎない。
そして気づけば15時を回っていた。
人は減るどころか増え続け、僕は水を飲む暇も与えられない。
そんなこんなで、篤と雄志が帰ってきた。
「おーっすやってる…って、増えすぎじゃね!?」
「それは思ったわ。お前らすご!」
やはりそうなるよな。
大きかったのは外の看板かな…。
「どうだったんだ、あっちは?」
僕がそう聞くと、篤たちは顔を曇らせなかった。
ほっとしたよ。借金取りが何か企んでるのかと。
でも安心していいみたいだ。
「まあまあ楽しかったぜ。人もそんなに来てなかったから、店主さんとゆっくり話したりしたぜ。」
いやそれは大丈夫なのか?
まぁ…心配するほどのことではないか。
「サボりだ!サボり!」
「っは!違うし!」
雫が煽ると、一気に空気は変わる。
その雰囲気に呼応して、
店内もわずかに暖かくなった気がする。
どちらにせよ、特に心配がいらないとわかった。
刹那、僕の耳に声が入る。
「アア、スミマセン。」
「まじかSNS海外まで飛んだのか!?」
「なわけねぇだろ!」
僕が一蹴すると、その外国の方は何もわかっていないらしく、何も反応していなかった。
悪趣味だが、雄志たちは少しだけ笑っている。
僕はため息をつきながら、会話することにした。
「た、タスケテ…?モラエマ?ゼヌバ?」
いや、何語だ?日本語?英語じゃない…。
いや違う、きっと無理してる。
僕たちが日本人だから、日本語を喋ってくれてるみたいだ。
でも英語ならむしろ得意分野だ。
ほんのり優越感を感じて、僕は口を開く。
「Yeah of course bro. We can speak English.(もちろんいいですよ。僕英語しゃべれますし。)」
「That’s a relief!(安心したわ!)」
聞き慣れた言葉、平坦にしか感じない。
だけど、他の誰もが首を傾げる展開。
その中で僕だけが英語で対話できている。
努力の賜物ってやつさ。
困惑と優越の混ざる気持ちのまま、僕は話を続ける。
「How do I get to Seisan Station?(セイサン駅にはどうやって行くんですか?)」
何度も、何度も小さい頃からやってきた英会話。
将来必要だと、英語は重要なんだよと。
それが父の口癖のようでもあった。
…あまり思い出すのはやめておこう。
「Um…It’s a little hard to explain, so I’ll show you the way.(説明むずいんで案内しますね。)」
「Okay thank you!(ありがと!)」
確かに今役立ってるし、感謝してないわけじゃないさ。
でもまあ、父に勧められなくてもどうせやってたし。
そんなことを考えながら、僕は外国人の手を引いた。
男で、ガタイがかなりいい。
「ん、んまて、お前行くの?」
「あ?ごめん駅一駅先なんよ、だから連れてくわ。英語わかるの僕だけだしな。お前らに任せても大丈夫だろ。」
いや、本当にそう思ってるさ。
今日のこいつらはすごいからな。
僕でさえ多忙と感じることも、難なくこなしてる。
僕にしかできないことは、僕がやるべきだろ。
それは決してこいつらのためじゃないんだ。
きっと、
僕が僕の肯定感を上げるための必要な工程にすぎない。
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